第43話 護衛任務②
聖騎士が呟いた一言に、今回の護衛任務のリーダーであるフランクは忌々しそうに舌打ちをした。
「ちっ!不味いことになったな┅┅」
「何か問題でもあるの?
鑑定したけどあの人たち大したことないよ?」
お揃いの赤い鎧姿の騎士は凡そ五百人ほどいるだろうか。
すっかり馬車の周りを取り囲まれてしまったが、僕一人でも難なく対処できそうだ。
中には何名か高レベルの者もいるが、僕の他にもAランク冒険者が五人もいる。
枢機卿を守りながらでも相手を殲滅するのは容易に思われるのだが。
「ティア、確かに倒すだけなら簡単だ。
だがな、話しはそんな単純ではない。
相手は正規軍だ。
こちらが手を出せば国際問題に発展しかねん」
「でも最初に攻撃してきたのは向こうだよ?」
「それでもだ」
フランクはそれ以降口をつぐみ何やら思案している。
▽
「あ!僕良いこと思い付いた!
この人たちを一人残らす始末すればバレないよね!
僕のご主人様はこういうのを何と言っていたっけ┅┅、
確か┅死人に口無し┅だったかな?」
「あのなティア┅┅、
俺たちは正式な入国手続きを経てここにいるんだぞ?
調べられればすぐにバレる」
フランクは呆れ顔で僕を一瞥すると一歩前へ出て、一人だけ騎乗した指揮官と思われる騎士へ向けて口上を述べた。
「我々は護衛任務中のザラマート王国冒険者ギルド所属の冒険者です!
如何なる理由で包囲されているのかご説明願いたい!」
馬上の騎士はブロンドの髪をかき揚げながら鷹揚に口を開く。
「冒険者風情が高貴な我が身に直接問い掛けただけでも万死に値する。
―が、この状況下で臆すること無く意見した蛮勇に免じて特別に許す」
こいつは自分が王様か何かと勘違いしているようだ。
「貴様らの罪状は殺人だ。
身に覚えがあるだろう?」
フランクは意味がわからないようで呆然としている。
この国では盗賊を殺すと罪になるのだろうか。
「殺人?
それは我々に襲い掛かってきた盗賊たちを、返り討ちにした行為の事を言っているのでしょうか?
国際法上では、盗賊を殺めても罪に問われることはないはずですが?」
「黙れ下民!
貴様らが殺したのは私の部下たちだ!
仮に盗賊であったとしても、我が領地の民であることには変わらん!」
「え!?こいつがここの領主!?
しかも自分が盗賊の親玉だと白状したよ!?」
僕は小声で呟く。
「少し黙っていろティア┅┅」
―とフランクが囁き返すのと同時に、僕らが護衛していた馬車の扉が開かれた。
▽
表へ出てきたガブリエル枢機卿は、相変わらず顔をすっぽりと覆うようなベール付きの頭巾を被っている。
護衛に就いている僕たちは、顔を見たことがないばかりか、その声さえ一度も耳にしたことがない。
「彼は領主などではないよ。
この地┅を何といったか忘れたが、ここの領主はあんな若造ではなかったはず」
「は、初めて喋った!
それにお爺ちゃんじゃなかった!」
枢機卿はお爺ちゃん、というのは勝手な思い込みだったようだ。
「お爺ちゃんは酷いなー、これでも一応十代だよ?」
―そう言ってベールをたくし上げたガブリエル枢機卿は、黒い髪に黒い瞳の少年だった。
「ね?」
「┅┅」
僕と枢機卿の意味のない会話を遮ってフランクが問い掛ける。
「ガブリエル卿、彼が領主でないのならば奴は一体何者でしょうか?」
「おそらくは領主の子息とその取り巻きといったところかな」
項垂れるフランク。
領主が次期領主に変わっただけでは問題の解決には至らないのだ。
「さて、逃げる準備でもしますか」
ガブリエル枢機卿が何やら手を翳すと、気付いたときには、三台の馬車と聖騎士が身に付けていた重そうな鎧が一瞬で消え失せた。
「生きている馬は【収納】できないから置いて行くしかないね」
「┅┅、ガブリエル卿、逃げると言っても一体どこへ?」
カミラがおずおずと尋ねた。
「この森を北上すればセントルイーズ自由交易都市に出るはず」
「では、我々が殿を務めます。
冒険者の方々はガブリエル様の護衛を頼みますぞ」
聖騎士がそう進言する。
しかし、一人の犠牲も出すことなく、その役をもっとも上手くこなせるのは僕だ。
「それは駄目。
殿は僕が引き受けるね。
僕は逃げ足だけには自信があるんだ」
▽
簡単に作戦会議を終えて、貴族の馬鹿息子に向き直る。
「ようやく投降する気になったか」
こちらが大人しくしている間にさっさと拘束してしまえばいいと思うのだが、こいつはやはりただの馬鹿だったようだ。
カミラの創り出した分身体が僕らを中心にして四方へと散った。
騎士たちが馬鹿息子を守るように動いた結果、僕らを取り囲むように敷いていた陣は崩れ所々に穴が空く。
その隙をついてヘイト上昇スキルを発動した。
「挑発!」
僕の【挑発Lv1】では注意を引き付けられるのは一瞬だ。
「走れ!」
フランクの号令と共に駆け出す一同。
皆が北側の森の中へ足を踏み入れると、聖騎士の一人が目眩ましの光属性魔法を放った。
「フラッシュ!」
辺り一帯が眩い閃光で覆い尽くされる。
赤い鎧姿の騎士たちが大騒ぎするなか、僕は目を瞑り時が経つのをじっと待つ。
視界が晴れて彼らが目を見開くと、そこにいたのは僕ただ一人だけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます