第41話 ナデシコの懸念

 【氷室】から依り代へと戻ってきたナデシコは、執務室然としたその部屋に備え付けられているソファーの背をそっと撫でる。


 ここは彼女が生まれると同時にギルドカード内に造られた彼女の棲みかだ。


 この執務室と繋がっているのは外界と自らの寝室、そしてドットの眷族たちだけが立ち入ることができる共有スペースだ。


 ナデシコは定期連絡会議に出るため、一息もつくことなく執務室を後にする。


 共有スペースの中央には円卓が据えられているがまだ誰も来ていなかった。


 ナデシコは自らの席に着き、そっと目を閉じて他の者たちが揃うのを待つ。


 着々と円卓の席が埋まっていく。


「そろそろ始めてもいいんじゃないか?」


 しばらくして火の精霊ヒナタが促した。


 ヒナタはシスターズのリーダー的な役割を担っている。


「稲姫と雪姫がまだのようだが?」


「あの二人が時間通りに来たことなどないのです!」


 ドットによって生み出された魔剣と魔銃は、他の眷族たちに比べ随分と自由奔放な性分だ。


 ヨルは定刻通り来ないと言うが、実は会議に一度も参加したことはない。


「まあそれもそうか」


 ナデシコは鷹揚に目蓋を開いた。







「まずはヨルから報告するのです!」


 ヨルはヴォルフ帝国担当で内乱、主に奴隷王周辺を調べている。


 奴隷王率いる不滅隊は既に帝国の四割程の領土を支配下に置いていた。


 彼らは不死の軍隊と恐れられ、頭が捥げても心臓を貫いても死ぬことはないという。


「それと奴隷王には誰も触れることはできないと噂になっているのです!

確認でき次第報告するのです!」


「無理は禁物ですぞ、ヨル殿」


 ナデシコがドットの眷族の中で敬称をつけるのはヨルだけだ。


 ヨルが一番最初に生み出されたからというだけでなく、自分とまともにやりあえるのは彼女だけだと思っているのだ。


「次は私たちの番だな」


 シスターズを代表してヒナタが報告する。


「西側諸国での古龍エンシェントドラゴンの捜索は難航している。

噂どころか伝承の類いさえほとんど見つからない。

ただ、ユラン聖教国で奇妙な話を聞いたな」


 ユラン聖教国はザラマート王国やヴォルフ帝国と同様に歴史のある国で、国民は全て信者という宗教国家だ。


 教国は周辺の国々と国交を結んではいるが、その内情を知る者はほとんどいない。


 その政治形態も教皇の選出方法も謎に包まれている。


 その上、公の場に国主である教皇が姿を現した記録が一度もないという。


「なんでも教皇は龍人であるという話だ」


「龍人?」


「ああ。もっとも酒場で耳にした情報に過ぎないがね」


 ユラン聖教の戒律では飲酒を禁じていないが、熱心な信者は酩酊するまで飲むことはない。


 あくまでも酒場は冒険者や観光客向けに営業しているものだ。


「だが古龍に関する情報が全くない現状調べるほかないな……」


 ナデシコはしばし黙考したのち口を開く。


「私からも一つ。皆はスキル【Q&A】についてどう思う?」


「奴がどうした?」


「Qちゃんが何かしたのです?」


「私は【Q&A】が本当に我々の同士であるのか疑問に思っている」


 定例会議に参加しているドットの眷属たちは一様に頭に?マークを浮かべている。


「確かに秘密は多いようだが、奴はピリオッドのスキルだぞ?」


「【Q&A】は古龍の居場所どころか、すべてのイザナクエストについての情報を握っていると思われる。

 にもかかわらず主君に対してその情報を開示しようとしない。

 おかしいとは思わないか?」


「所詮はただのスキルだ。

 この世界のシステムに逆らえないだけではないか?」


「一般的にはユラン神がスキルの創造主だとされている。

 実際に初めてスキルを授かる祝福の儀が行われるのも教会だ。

 ユランが神かどうかはさておき、スキルを創ったのは間違いないだろう。

 そして、これは冒険者ギルドの職員も知らないことだが、スキルにはナンバリングがされている。

 なぜこの事実を知っているのかというと、私が以前までヒナタが言うところの世界のシステムの一部だったからだ」


 ナデシコは皆が話について来ていることを確認して先を続ける。


「ここからが重要なんだが、【Q&A】に充てられている番号は1だ。

 つまり最初に創られたスキルが【Q&A】ということになる。

 そして、冒険者ギルドのデータベースにある情報でしかないが、このスキルを所持しているのは我らが主以外には過去にも存在しない。

 おかしいとは思わないか?

 最初に創られたスキルであるにもかかわらず、主君が転生してくるまでこのスキルを発現したものがいないというのは不自然だ」


「……、つまりどういうことなのです?」

 

「端的に言うと【Q&A】はある目的を遂行させるためだけに創られたものではないかということだ。

 これまで発現した者がいなかったのは、このスキルを所持するに値する人物がいなかったから。

 もしくは、スキル【Q&A】は創られたものであるかだ」


 ナデシコの突拍子もない話をいったん咀嚼したヒナタが問う。


「その目的とは?」


「それはイザナクエストをすべてクリアするまで明らかになることはないだろうな。

 ちなみに【イザナ因子】のスキルナンバーは2だ。

 【イザナ因子】も主君のために創られたものであるとも考えられる」


「勘繰りすぎな気もするが……、現時点では何とも言えないな」


「まあ私の杞憂に終わるのであればそれで良い。

 今回の定例会議はこんなところか。

 【Q&A】については要観察として、主君への報告は奴隷王と龍人の二点だけだな」


 定例会議はお開きとなり皆が席を立つ。


 「そういえばティナは今日何をしているんだ?」


 ナデシコは【氷室】の件に関わっていたためティナの行動を把握していなかった。


 「ティナなら冒険者ギルドの護衛依頼でユラン聖教国へ向かっているのです!」




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 およそ一週間ぶりの更新です。


 検査のため入院していたのですがまったく書けませんでした。


 スマホで書きにくかったからなのか、飯が不味かったからなのかはわかりませんが書く気力が湧きませんでした。


 今月末に再び入院します。


 順調にいけばひと月ほどで退院できるそうですが、おそらく更新は難しいと思います。


 近況は以上となります。


 







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