第40話 氷の世界④
氷室で眠る巨龍を見上げる。
クエスト/氷の世界を達成する条件は龍神と対面することだ。
形だけ見れば、俺は今龍神と対面しているわけだがクリア扱いになっていない。
やはり目の前の龍に魂を錬成しなければならないらしい。
(前にQちゃんはこの国に
『確かにその通りなのですが、この氷龍と古龍はあまりにも似すぎています。
氷龍の青い鱗を白くすれば古龍そのものと言っても過言ではありません』
Qちゃんが口を滑らせたのかどうかは定かではないが、古龍は白い姿をしているらしい。
(そこまで似ている氷龍に魂を錬成すれば、イザナクエスト/神の寝床の達成条件を満たしたことになったりしないかな?
ほら、この世界のスキルシステムってよくエラーを起こすじゃない?)
例えば、地球産のスキルが文字化けする件や、俺の剣術スキルが特殊な武器を持つことによって、もとのスキルレベル以上と誤認識されたりする。
『確かに……有り得る話ですね……。
ですがイザナクエスト/神の寝床をスキップできたとしても、続きのイザナクエストに悪影響を及ぼすようなことにはならないと思います』
Qちゃんがイザナクエストのすべての内容を把握しているのは間違いなさそうだ。
そしてこれまでの彼女の言動を鑑みると、俺がイザナクエストをクリアできるように誘導している節がある。
俺が前世で死ぬ直前に所望した、ゲームがしたいという戯言によって創られたスキルが【クエスト】だ。
このスキルがゲームだとすると何か目的があるはずなのだが、それがさっぱり見えてこない。
仮に複数のエンディングが用意されているとしたら、もっと慎重に行動しなければいけないような気がする。
特にイザナクエストだ。
俺がもし賢者の石を生成しなかったら?新しい生命体を生み出さなかったら?ディアナを殺さなかったら?どうなっていただろうか。
クエストに導かれるまま行動することの是非に疑問を感じる。
▽
「おいドット、何か問題でもあるのか?」
何やら考え込んでいる俺にクリスが問いかけた。
「問題というか……懸念かな。
この氷龍は古龍にそっくりなんだよ。
もしマーリンと錬成してその制御下に置けなかった場合、何が起きるか予測できない。
何しろ古龍はこの世界の神だからな」
「神だって?
この世界の神はユラン聖教の信奉するユラン様とかいう奴じゃないのか?」
「あー、そいつはあれだ。
地球でいうところの〇〇〇〇で、権力者たちが民衆を治める手段として創造した架空の神様だよ。
それはともかく、懸念はもう一つある」
俺はマーリンに向き直り話を続ける。
「俺は魂入りの生命と他の物を錬成したことがない」
実際は自分自身と賢者の石を錬成したことはあるのだがここでは触れないでおく。
「だから錬成した後の人格が元のマーリンのままであると保証できないんだ。
それとマーリンをベースに氷龍を錬成するか、氷龍をベースにマーリンを錬成するかの問題もある。
もちろん経験がないのでマーリンに及ぼす影響もわからない」
俺はクリスたちの決断通りにすることにした。
▽
しばらく話し合っていた三人の結論がでたようだ。
「決めたぞ!マーリンはこのままで氷龍に魂の錬成だけしてくれ!」
「マーリンもクラウディアもそれでいい?」
黙って頷く二人。
「ではそれでいこう。
クリス、氷属性魔法で氷塊を作ってくれ。
それと……、お前の髪の毛も欲しいかな」
「髪の毛?そんなもの何に使うんだ?」
「さっきも言ったけど錬成した後の結果が予測できない。
だからクリスの魔力を使うわけだがそれだけでは不安が残る。
氷龍が自分の主をクリスであると認識する確率を少しでも上げるために、お前の細胞も一緒に錬成する」
話を理解したのかは定かではないが、クリスは氷塊と引き抜いた髪の毛を渡してきた。
俺は髪の毛を増殖させて肉の塊にする。
「俺の髪が肉まんになった……」
「すまないけど集中したいから一人にしてくれ」
と適当な嘘をついてクリスたちを氷室の外へと追い出した。
もちろん理由はある。
「それにしてもでかいな」
頭部だけでも俺の身長(164cm)以上もある。
「さて、とりあえずこいつを複製してと」
氷のように冷たい氷龍の鱗に左手を載せて右手で複製体を錬成した。
『どちらに魂を入れるのですか?』
オリジナルをストレージに収納する。
「もしもの時のために複製体を使う。
危険な存在だと判断したら始末すればいい。
だからナデシコは待機しておいて」
俺の懐から飛び出してきたナデシコには後ろで控えていてもらう。
「俺がいいと言うまで手は出さないでね」
「はい、ではそのように」
鞘から剣を抜き放つナデシコ。
地面に手をつき錬成陣を展開させる。
「錬成!」
▽
結論から言うとイザナクエスト/神の寝床は達成しなかった。
どこかほっとしている自分がいる。
というか寒いのだが。
室内の温度が一気に下がったのだ。
そして氷龍の目は見開かれて俺を視認した。
「俺様を目覚めさせたのはお前か人間」
「ああ。俺はドット・ピリオッド。錬金術師だ」
氷龍は俺を品定めするかのようにじっと見つめている。
「お前に質問がある!」
「不敬な物言いだが許す。俺様を覚醒させた褒美だ」
「氷龍よ!お前の責務は何だ!」
「責務?そんな大層なものはない。
強いて言うのであればこの世界【氷室】の管理者といったところか」
どうやら氷龍は自分の役割を覚えているようだ。
そこへ氷室から追い出していた三人が入って来た。
▽
「どうやら成功したようですなドット殿」
「外が猛吹雪になったんだが」
「あれが本来の【氷室】の姿ですよ、クリストファー」
三人は氷龍を見上げている。
「錬金術師、俺様の主はそこの小僧で間違いないな?」
俺はクリスの肩に手をまわし答えた。
「ああ。こいつはクリストファー・トーレス。
このザラマート王国の王子だ」
「お、おう!よろしく……」
クリスはまだ氷龍にびびっているようだ。
「ほお、王子か。特別に俺様の眷属にしてやろう」
「は、はあ……」
主であるはずのクリスが、なぜか氷龍の子分になるという予期せぬ展開になったが問題ないだろう。
「ところで、氷龍はどうやって外に出るんだ?」
氷室から外へ出るためには、ドアどころかこの氷室ごと打ち壊さなければ無理そうだ。
「何を言っている錬金術師。こうすればいいだけであろう」
氷龍はみるみるうちに縮んでゆくと人型になった。
「お、俺じゃねーか!?」
髪と瞳の色を青くしたクリス姿の氷龍が佇んでいた。
「俺様には小僧の血肉が混じっているんだぞ?
何も驚くことなどなかろうに」
そう言って氷龍はさっさと外へと出て行ってしまった。
開け放たれたドアから吹雪が吹き込み寒気に晒される。
「さ、寒いって次元じゃねえ!」
俺は震えながら氷室を後にした。
外へ出ると穏やかだった普通の森は一変して雪化粧を纏っていた。
「これが俺様の世界か!
肌を撫でる風が実に気持ち良い!
気に入った!気に入ったぞ!」
そう叫んで再び元の姿に戻ると氷龍は空へと昇って行った。
何もかもを氷の世界へと変えて自由に飛び回る氷龍を、俺はしばらくの間眺めていた。
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小生はしばらくの間(予定では一週間程度)PCが使えない環境になります。
スマホで書いたことがないので更新が滞るかもしれません。
よろしくお願いします。
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