第35話 ゴブリンの森のダンジョン④

 ゴブリンの森のダンジョンに潜ってから丁度一週間目の朝を迎えた。


 今俺たちがいるのは69層の安全地帯だ。


 朝食を済ませて今日の予定を皆に説明する。


 「三人も大分実践に慣れたと思う。

  今回は俺がタンク役をしていたけど、仮に俺の位置にモンドが入っても皆の役割は変わらない。

  リズはヒーラー兼魔法アタッカー、カルロは近接アタッカー、キーラはサブタンク、場合によってはメインタンクもするかもしれないからそのつもりで」


 と偉そうに講釈を垂れているが、俺のこの知識は前世でMMORPGをしていたときのものだ。


 「これからの予定だけど、ここから99層まで下りる。

  正直対魔物戦に関してはもう教えることはない。

  だから今日中にPLして一気にLv100まで上げてしまおう」


 「ここまで来るのに一週間もかかったのに、更に敵が強くなる下層まで一日で行けるの?ドット君」


 キーラの懸念は当然である。


 というのも彼らのレベルはようやくクリスたちに追いついただけなのだ。


 「正攻法で進んだら無理だろうね。

  だからこうするんだよ。

  錬成!」


 俺は足元に手をつき地面に穴を開けた。


 ついでに階段も作る。


 「「「……」」」


 「こうすればあっという間だよ」







 そして一時間もかからずに99層に着いた。


 皆が階段を降りた後、天井を塞いで階段も消す。


 「ではちゃっちゃとLv100まで上げてしまおう。

  ヨル、カモーン!」


 「ヨルの登場なのです!

  ヨルはドットに怒っているのです!

  一週間も影の中にいたのは初めてですよ!」


 ヨルには指示があるまで出てこないように命じていたので少々お冠である。


 「まあこれでも食べて機嫌直してよ。ね?」


 例の店のチーズケーキをホールごと渡す。


 「……、ゆ、許してあげないこともないのですよ!」


 俺の手からチーズケーキを奪い取ったヨルはその場でむしゃむしゃと食べだした。


 「久しぶりだねヨルちゃん。俺のことは覚えてる?」


 「ムシャムシャ……、ヨルのために鹿肉を捕ってきたカルロなのです」


 「あー、俺のことはそういう認識なのね」


 なぜかしょぼくれているカルロを無視して、初対面のキーラにヨルを紹介した。


 「さて、ヨルも食べ終わったことだしレベル上げをしますか。

  ヨル、この階層にいるゴブリンを生け捕りにしてきて」


 「お安い御用なのです!」


 機嫌を直したヨルはその場から動かずに、自身の影を幾筋も通路へと伸ばしていく。


 しばらくすると、影に拘束されて声すら上げることも出来ずにいるゴブリンが大量に引きずられてきた。


 「それでは始めよう」


 あとはゴブリンに止めを刺すだけの簡単なお仕事です。







 その頃、高レベル組はハイゴブリン相手に四苦八苦していた。


 彼らはとうにLv100を超え、100層より下の階層で戦っていた。


 ハイゴブリンはゴブリンから進化した種で、矮躯だった身長も人のそれに近く知能も高い。


 「で、殿下!まだですか!そろそろ魔力が切れそうです!」


 当初はハイゴブリン一体に四人で戦っていたが、時間はかかるが安定して討伐できるようになると、その数を二体に増やされた。


 一体をモンドがキープしている間に、もう片方を三人で倒す算段だ。


 しかしそれが上手くいかない。


 これまでは主にモンドがタンク役をしていたため、その間に他の三人で攻撃できていたが、今回はそのモンドが囮役となってもう一体に一人で対処している。


 つまり三人の中の誰かがハイゴブリンのターゲットを取らねばならず、そうなれば当然攻撃枚数も減るのだ。


 しかもハイゴブリンは力や生命力がゴブリンの比ではなく、身体を切り刻まれてもなお闘争心むき出しで襲い掛かってくる。


 「モンド!こっちはそろそろ終わる!もう少し耐えてくれ!」


 戦況を見守っていたナデシコだったが、そろそろ頃合いかと剣を抜く。


 モンドの魔力が切れて身体強化が解ければ一分と持たないだろう。


 ナデシコが行動しようとした刹那それは起こった。


 クリスから二柱の精霊が飛び出してきたのだ。


 氷の属性と思われる精霊は、モンドが相手をしていたハイゴブリンを氷漬けにする。


 風の属性と思われる精霊は、手のひらから発した衝撃破で、クリスたちが戦っていたハイゴブリンを一撃のもとに壁へと叩きつけて絶命させた。


 「「「「……」」」」


 四人は一瞬の出来事に呆然としている。


 「ほお。殿下が使役している精霊か。

  こんな奥の手があるならさっさと出せばいいものを。

  死んでしまってからでは遅いのだぞ?」


 「いや、こいつらは俺の身に危険が迫った時にしか出て来ない。

  何度も意思の疎通を図ろうとしたんだが一度も成功したことはない」


 何やら二柱の精霊を見つめていたナデシコが口を開いた。


 「殿下、【氷室】とは何だ?

  こ奴らはその【氷室】とやらに紐付いている精霊だと言っているぞ?」


 「【氷室】に?というかナデシコはそいつらと話せるのか!?」


 「私はこれでも精霊だからな」


 「そうか……、精霊同士では話せるのか……。

  【氷室】は俺の固有スキルで【収納】みたいなものだが……、それがどうだっていうんだ?」


 「こ奴らが言うにはな、殿下。

  お前は【氷室】を全く理解していない、だそうだ」


 「【氷室】を理解していないとはどういう意味だ?」


 「知らん。自分で考えろ、だとさ」


 ナデシコに伝言を頼んだ二柱の精霊はクリスの中へと戻っていった。


 「さて、ドット様の方も一段落ついたそうだから帰還するぞ」


 クリス一行はドットと合流するためナデシコを先頭に来た道を引き返した。







 クリスたちが99層の安全地帯があった所まで戻るとどうも様子がおかしい。


 ただの空間だったはずのその場所にはなぜかドアが取り付けられている。


 ドアを開けて中に入ると驚きの光景が広がっていた。


 そこはどこぞの高級宿かと見紛うほどの調度品が揃えられており、ドットたちがティータイムをしていたのだ。


 カルロはふかふかのベッドで仮眠をとっている。


 「「「「……」」」」


 「ん?ああ、みんなおかえり!」


 俺はシュークリームを食べながらクリスたちを迎え入れた。


 見れば四人ともボロボロでところどころ傷付いている。


 「お風呂沸かしてあるから入ってく?

  あ、その前にリズに治療してもらおう……か?」


 なぜかクリスたちの顔が険しい。


 「ん、ドットたちは毎日ベッドで寝ていたの?」


 「女の子を地べたで寝させるわけにはいかないでしょ?」


 『マスター、ニーナも女の子ですよ?』


 「ドット、お前が今手にしているものはなんだ?」


 「これ?食後のデザートだけど?リリアンも食べるか?」


 『えーと……、マスター?』


 「殿下、俺は悔しいです……」


 「ドット!この裏切り者め!」


 「あ痛!」


 なぜか殴られる俺。


 こうして一週間にも及ぶレベル上げは終了した。


 


 


 



 

 


 


 

  

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