第34話 ゴブリンの森のダンジョン③

 ナデシコは後ろにいる四人がギリギリついて来れる速度を維持しながらダンジョンを走り抜ける。


 道中に接敵した敵を無視して来たため、四人の後方ではゴブリンたちが群れを成して彼らを追いかけて来ていた。


 「そこの階段を降りれば90層だ!飛び込め!」


 ナデシコ以外の四人は転げ落ちるようにして、90層入り口の安全地帯となっている部屋に到着した。


 ダンジョンに生息する魔物たちは階層を跨いでの移動は出来ないため、ここまで一度も戦闘することなく走り続けてきたのだ。


 「男共情けないぞ!ニーナを見てみろピンピンしているぞ!」


 そう言われたニーナだったが膝が笑って立っているのがやっとだ。


 「リリアン!モンド!しっかりしろ!」


 二人は90層に落ちてからピクリとも動かない。


 「うるさいぞ殿下!

  モンドはただ魔力切れを起こしているだけだ!

  リリアンは……、最後のほうは強化スキルを解いて根性だけで走っていたからな、気絶しているだけか。

  そんなことより尻を出せ殿下」


 「え!?尻を!?」


 「貴様尻を切りつけられて血が出ているぞ?」


 「マジか……、必死すぎてまったく気付かなかった……。

  それにしてもナデシコは治癒魔法も使えるのか」


 「いや、回復魔法も光属性魔法も使えないが?」


 「だったら治せないじゃないか!」


 「生活魔法の【接着】で傷を閉じるだけだが?

  いいからさっさと尻を出せ殿下!」


 「……、鬼軍曹め……」


 諦めたクリスは結局尻を出して、ナデシコに治療?してもらうのだった。


 「ところでナデシコ、そこにいる騎士は?

  ここに来るまで何度も見かけたが」


 全身青いプレートメイルを身に纏った騎士然とした四人が整列している。


 「彼らはドット様が作ったゴーレムで私の部下たちだ。

  Lv100に到達した者はここで待機しているように命じておいたのだ」


 ナデシコは最初にクエストを達成したPTに満足しつつ【共有ストレージ】に仕舞い込む。


 彼女たちに魂はないので収納できるのだ。


 「この子たちがドットが作ったと言っていたゴーレム……、これが千体もいるのか……」


 「よし!さっそくレベル上げを開始する!

  殿下!その二人を叩き起こせ!」


 「待ってくれ!せめて二人が目を覚ますまで休ませてくれ!」


 ニーナの口添えもあってかクリスの申し入れは聞き届けられた。







 「それでは今後の方針を説明する!」


 小休止の後いよいよレベル上げが行われることになった。


 意識を取り戻したリリアンとモンドもナデシコの言葉に耳を傾ける。


 「このまま行軍を続け百層を目指す!

  だがここからは接敵した相手は残らず殲滅する。

  既に承知しているだろうが連中はPTを組んでいる。

  私が一体だけ残して他は始末するから、お前らはそいつの相手だけすればいい。

  作戦は以上だ!」


 そのまま歩き出すナデシコを追うようにして付いてゆく四人。


 しばらく進むと三体PTのゴブリンと遭遇した。


 ナデシコが消えたと思った刹那には一体の首が刎ねられた後だった。


 続けざまに胸を刺し貫かれたゴブリンも消滅する。


 残りの一体がようやく剣を構え戦闘態勢に入った時には、既に彼?は一人になっていた。


 「遅い!さっさとこいつのタゲを取れ!」


 モンドが慌てて魔法を唱える。


 「そよ風の悪戯ヘイトブリーズ


 途端、醜い形相で迫ってくるゴブリンに武技で追い打ちをかける。


 「シールドバッシュ!」


 モンドの振りぬいた盾が命中するとゴブリンは更に顔を歪ませた。


そよ風の悪戯ヘイトブリーズ/風属性魔法。受けた対象は術者に対しての憎悪が膨れ上がる


シールドバッシュ/相手に打撃ダメージを与え、追加効果として敵愾心を上昇させる。なお盾が顔以外に命中した場合追加効果は発動しない


 ニーナはすかさずゴブリンの背後を取り、両手に持った二本の短剣で斬りつける。


 クリスとリリアンはそれぞれ左右の側面に位置取った。


 基本的にゴブリンの注意はモンドに向いており、滅茶苦茶に振り回される剣を盾で受けている。


 タゲが左右に移る度、モンドはヘイト上昇系のスキルを使いタゲを取り返す。


 「シールドバッシュ!バッシュ!」


 「モンド!

  他にターゲットが移った場合無理に取り返そうとするな!

  緊急時に一撃でタゲを取れるように攻撃してヘイトを稼いでおけ!」


 「は、はい!」


 ナデシコに分隊での立ち回りを教授されつつゴブリンにダメージを与えていく。


 そして敵の背後から急所を突いたニーナの一撃でようやくゴブリンを討ち取った。


 「ん、レベルが上がった……」


 「まさかこのレベル帯になってゴブリンを一匹倒しただけで上がるとはな」


 皆一様に驚いている。


 レベルは高くなるほど上がり辛くなり、Lv70付近にもなれば一つ上げるだけでも容易なことではないのだ。


 「レベルが上がったぐらいで立ち止まるんじゃない!先を急ぐぞ!」


 レベルの上がった喜びに浸ることも許されない彼らはナデシコの後を追うのだった。


 

 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る