第31話 将軍様

 「主君とこうして言葉を交える日が訪れようとは思いませんでした」


 そう言って立ち上がった白銀の騎士は、少しウェーブのかかった長い銀髪をたなびかせ銀色の瞳を細めて微笑んだ。


 「ギルドカードは君の中に?」


 「はい、強引に割り込ませていただきました」


 こうなったのは錬成に失敗したわけではなく彼女の意思の結果のようだ。


 「ギルドカードは魔力を介して冒険者の個体情報を更新し続けます。

  ですから主君が冒険者となって以来そのすべてを見てきました。

  いつしか賢者の石を生成した主君は、魂までも錬成するようになって眷属を増やしていきましたね。

  私はそれを見ていて思ってしまったのです。

  羨ましいと。

  主君は私もといギルドカードに度々興味を示されていました。

  ですからいつかは自分もと思い焦がれるようになったのです。

  そして今日、その機会が訪れました。

  この機を逃せば次はないと思い錬成に介入してしまった次第です」


 冒険者のランクはギルドカードが決めるという仕様の謎が解けた。


 まさか本当に意思を持っているとはさすがに思わなかったが。


 「うん、理解した。

  ではさっそくステータスの確認をさせてもらうよ」


 「例の儀式ですね。どうぞ」


 と言って胸を突き出してくる銀髪美女である。


名無しLv1//無の精霊//将軍

固有スキル

 縮地Lv1/10

 属性消去Lv- 対象の魔法から属性を消し去る 

 不壊Lv- 物理ダメージ無効

 房中術Lv-

職業スキル

 統帥権Lv1/10 自らの指揮下にある者の能力を底上げする

スキル

 槍聖Lv1/10

 剣聖Lv1/10


 想定以上の能力である。


 単騎でも強そうだが、アダマンタイトゴーレムたちの指揮官としても優秀だろう。


 「房中術ってアレだよね……」


 『最初の感想がそれですか……』


 「身も心も主君に捧げておりますゆえ」


 「……、と、とりあえず名前は神崎撫子かんざきなでしこにしようと思うんだけど、どうかな?」


 見た目は西洋人だが、口調が武士っぽので敢えて古風な名前を付けてみた。


 「神崎シリーズに加えていただけるなど恐悦至極にございます」


 「じゃあ決定ね。

  それから口調なんだけどもう少しくだけた感じで」


 シスターズのピリオッド呼びもどうかと思うが、これはさすがに堅苦し過ぎる。


 俺としては年上のお姉さんっぽく振舞ってもらっても一向に構わないのだが。


 「ではこんな感じでどうですか?ドット様」


 「うん、それでいこう」


 ドット君と呼んで欲しいがおそらく難しいだろう。


 ナデシコには聖剣エクスカリバーとミスリルランスを持たせてさっそくダンジョンへと向かわせた。


 俺は彼女を見送り、一週間ぶりに王都への帰路に就いた。







 鈴蘭亭でダラダラと一泊して、それから学生寮へと帰る。


 部屋へ入るとクリスが丁度起床したところだった。


 どうやら起こしてしまったらしい。


 「クリスは帰省しなかったんだな」


 「帰省って、俺の実家はすぐそこだぞ?」


 「それもそうか」


 挨拶代わりに普段の何気ない会話をする。


 日本語で話しているからだろうか、やはりここは落ち着く。


 「ドットはこの一週間何をしていたんだ?」


 「俺?俺は戦に備えて千体のゴーレムを作ってた」


 「戦争って帝国とのか?」


 「いや、西側の国だよ。どの国かはわからないけどね」


 クリスには俺のスキル【クエスト】について話してある。


 なので新しく受注したクエストとゴブリンの森にあるダンジョンの説明をした。


 「西側ってことは一国とは限らないってことだよな……」


 「俺はそんなに心配はしてないけどね。

  帝国以外でこの国とまともにやり合えるところなんてないよ」


 「だが挟撃されたら辺境伯軍は帝国との国境から動けなくなる。

  そう考えると、負けはしないだろうが被害は大きくなるぞ」


 「そもそも帝国と手を組む国なんてなくね?

  奴隷王と帝国のどっちが勝つかわからなけど、仮に奴隷王が勝ったとして、すべての差別の撤廃を掲げる奴と西側諸国では相容れない。

  そして帝国が勝った場合、王国が無くなれば次の標的にされるのは西側の国だからね」


 「とはいっても楽観はできないな……。

  よし!皆を誘ってレベル上げに行こう!」


 こうして王都へ帰ってきたのもつかの間、再びゴブリンの森へと戻ることになった。







 翌日、サバイバル訓練で俺が造ったキャンプ場まで来た。


 参加メンバーはリリアンにリズ、クリスとその従者であるモンド・ラスシェリー、委員長ことキーラ・スウィートハート、そしてサバイバル訓練で同班だった猫人族のニーナ・ケイシーと飄々とした優男のカルロ・アマーティに俺を加えた八名だ。


 ニーナとカルロには俺から声をかけた。


 あれ以来顔を合わせれば話す程度の間柄にはなっていたのだ。


 「お、ドットの造ったキャンプ地がそのまま残ってる。

  あの時は楽しかったねニーナ」


 カルロは自分が寝泊まりしたバンガローを確認してからニーナに同意を求めた。


 「ん、実に快適だった」


 「俺たちが夜一睡もできなかったというのに、お前らはここで遊んでたのか……」


 「クリス君、あっちにお風呂もあったよ……」


 クリスとキーラが恨めしそうに俺を見ている。


 俺を同じ班に入れなかったお前らが悪いんじゃないか。


 『あの時は賢者の石を作るためにずっと休んでいたので仕方ないかと』


 (まあそうなんだけどさ)


 「ん、誰か来るよドット」


 鼻の利くニーナが逸早く気付いた。


 「ドット様の気配を感じたので来てみたのですが、帰られたのはずでは?」


 「あれ?ナデシコじゃないか。レベル上げはどうしたの?」


 ナデシコは気品溢れる佇まいで鷹揚に答えた。


 「既にLv100は越えましたよ?」


 ナデシコはダンジョンへ潜って三日もかからずに目標を達成していた。


 将軍様は眷属たちのなかでも別格だったようだ。






 


 

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