第30話 オリハルコン

 学園は今日から夏季休暇に入った。


 夏といってもこの辺りは日本のような猛暑になるわけではない。


 ザラマート王国は夏冬の温度差も小さく、地球でいえば地中海性気候に近いだろうか。


 それが理由かどうかわからないが夏季休暇に帰省する生徒の割合は少ない。


 かくいう俺も帰省したことはない。


 今年の夏季休暇に何をするのかというともちろんレベル上げだ。


クエスト/国防強化月間

報酬/一人につきSP10

概要/西側諸国との戦争に備えてLv100越えの兵士を育成せよ。


 概要には西側諸国との戦争とあるが、Qちゃんによるとこれは予知のようなものであり必ず起こる未来だという。


 「西側諸国というのが解せないな。

  戦争になるとすれば帝国じゃないのか?」


 『帝国との戦争が再開されれば、それに便乗して利を得ようとする国が現れてもおかしくないでしょう』


 「んー、備えあれば患いなしって言うしまあいっか」


 というわけでいつものゴブリンの森に来ている。


 クエストクリアのハードルが高いわりに報酬がショボい気もするがそこは数でカバーする。







 今回作る彼女たちには魂を錬成はしない。


 これ以上眷属が増えても面倒を見きれる気がしないからだ。


 その代わり素材にはアダマンタイトを使用したゴーレムを作成する。


 アダマンタイトの特徴は、薄暗い青色の硬い金属で魔法に耐性があり、ミスリルとは真逆の性質である。


 その金属で作ったフルプレートメイルにカイトシールド、ロングソードを持たせた騎士にする予定だ。


 その三点セットすべてに再生を付与し早速一体作ってみることにする。


 外見的なイメージはスカートを穿いていない某騎士王様である。


 「錬成ゴーレム作成


 全身深い青で統一された女騎士の完成だ。


 錬成前はただのプレートメイルだったが、女性の身体を強調するような形状に変わっている。


 「うん。エロくはないが可愛くできたな」


名無しLv1//アダマンタイトゴーレム//騎士

固有スキル

 硬化Lv1/10

 魔法耐性Lv1/10

 自己修復Lv-

職業スキル

 剣術Lv1/10

 盾術Lv1/10

スキル


 今回は大量生産するためスキル譲渡は行わない。


 この性能なら壊れる心配はいらないだろうが、念のため四体一組でPTを組ませる。


 俺は以前造ったキャンプ場に籠りゴーレムを拵え続けるのだった。


 目標は千体だ。まだまだ先は長い。







 せっせとゴーレムを作り続けて一週間。


 ようやく千体のゴーレムを完成させて、最後のPTをダンジョンへ送り出した。


 「さすがに同じ作業の繰り返しはきつかったな」


 『本当に最後の一体をオリハルコンで作るのですか?』


 「千体のゴーレムを指揮する個体が必要でしょ?

  彼女たちの上に立つからにはそれなりの格がなくちゃね」


 『やはり危険ではないでしょうか』


 Qちゃんが心配するのはオリハルコンの性質についてである。


 この世界にもオリハルコンという金属は存在しない。


 つまり俺の曖昧なイメージから具現化された物質ということだ。


 その結果、この金属を加工はできるが、その性能には介入できないという謎物質になってしまったのである。


 具体的に言うと、オリハルコンで作った武具には何も付与できないどころか、どんな付加効果が付くのかさえわからないものが出来上がってしまうのだ。


 Qちゃんはバッドステータスの付加効果がつくことを懸念しているのである。


 以前一本だけオリハルコンを材料に剣を作ったことがある。


聖剣エクスカリバー//邪な存在を断ち斬る退魔の剣。


 この剣はフレーバーテキストだけ見れば凄そうだが、それ以外のものは全く斬れないという代物だった。


 いつか使い道があるかもしれないと一応ストレージに収納してある。


 「もしまた微妙な性能だったら封印すればいいだけだよ」


 オリハルコンで創る子はそのまま魂も錬成する。


 用意したのはオリハルコンインゴットと無属性の魔球、そしてオリハルコン製の腕輪だ。


 依り代を使うのは精霊体にするためである。


 「よく見るとオリハルコンってギルドカードと似てるよね。

  同じ白銀色だし肌触りも滑らかでさ」


 胸元にかけているギルドカードを取り出し見比べる。


 『確かにギルドカードはオリハルコン製です。

  しかしマスターの創ったオリハルコンとは別物と考えるべきです。

  実在しない金属である以上作り手が違えばその中身も異なります』


 「Qちゃんが答えてくれたということは、俺がオリハルコンを創造した時点でその情報が解禁されたってことかな」


 『その解釈の通りです』


 「ふーん。ではそろそろいきますか」


 俺はいつもの手順で錬成陣を展開し魔力を流した。







 赤い閃光が収まると、そこには銀髪銀眼の白銀の騎士鎧姿をした長身の女性が跪いていた。


 『マ、マスター……、ギルドカードが無くなっています……』


 「は!?」


 確かに首から下げていたギルドカードが無くなっている。


 そして、錬成したはずのオリハルコン製の腕輪がぽつねんと取り残されていた。


  


 

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