第27話 奴隷王
イザナ因子キャリア強制収容所はヴォルフ帝国北部に存在する。
小高い山々で囲まれた台地に建てられた巨大施設である。
その周囲には 大森林が広がるばかりで他には何もない。
そこに代々皇帝位を世襲するヴォルフ王家の王子が収容されていた。
ユーリー・ヴォルフLv71//人族//奴隷
固有スキル
鑑定眼Lv-
収納Lv-
再生Lv-
イザナ因子Lv9/10
職業スキル
痛覚無効Lv-
健康Lv-
剛腕Lv10/10
剛脚Lv10/10
スキル
剣術Lv5/5
拳聖Lv10/10
身体強化Lv10/10
敏捷強化Lv10/10
雷電魔法Lv10/10
光属性魔法Lv10/10
生活魔法Lv-
ユーリーは王族にもかかわらず祝福の儀で奴隷の職業を得てしまった。
彼は病死扱いとされ秘密裏に強制収容所へと送られたのだった。
それを決めたのは彼の父親である皇帝と帝国に七人しかいない選帝侯たちだ。
王家の血筋から奴隷という卑賎な職業を出してしまった事を隠蔽するためである。
奴隷王子の廃嫡は選帝侯会議で決定されたため、皇帝はやむを得ず受け入れるしかなかった。
皇帝は世襲制だがそれを決めるのは選帝侯会議だ。
故に選帝侯たちの権力は皇帝のそれに匹敵するのである。
▽
強制収容所では賢者の石が作られている。
賢者の石生成プロジェクトが立ち上がってから百年以上経つがいまだ完成には至っていない。
ここにイザナ因子キャリアが収監されるのは通常の人よりも魔力量が多いからだ。
レベルが上がると更にそれは顕著となる。
だから収監者たちはレベル上げをさせられ、Lv50に到達した時点で賢者の石の材料にされる。
レベルをそれ以上上げないのは反乱を起こさせないためである。
収容所の警備に当たっているのはLv100越えの覚醒者たちだが、数の力で対抗されたら厄介なためそのような措置がとられている。
そんな中ユーリーはLv71であるが未だ生き残っている。
しかしそれは彼が王族であるからという理由では決してない。
ユーリーもLv50当時処刑が実行されたが、彼の持つレアスキル【再生】が邪魔をしたのだ。
切っても切っても再生してしまうため血液を得ることができなかったのである。
その結果彼は生かされ、今では収監者たちのレベル上げの引率のようなことを任されている。
当初はユーリーのLvが上がってしまっては危険なのでは?と危惧されていたが、収容所の警備責任者は奴隷王子を生かし使役させることを選んだ。
彼の名はアレクセイ・ヒョードル。
彼は己の強さに絶対的な自信をもっており、自他共に認める帝国最強の男だ。
そして少年愛者でもあった。
ユーリーは艶やかな銀髪を肩まで伸ばした碧眼の美少年である。
アレクセイは毎晩のように奴隷王子の身体を求め弄った。
彼は頑強なユーリーをいたぶり何度も何度も辱めた。
その度にユーリーの憎しみは蓄積されてゆく。
彼が毎晩耐え忍んだのは他の子供たちへの目を逸らすためだ。
彼が拒否すれば代わりの子がアレクセイになぶりものにされる。
今では本当の弟や妹と言っても過言ではないほど可愛がっている同じ境遇の子供たちを守るため、自らの身体をアレクセイに差し出したのだ。
▽
そしてある日の夜のことである。
ユーリーがいつものようにアレクセイの寝所まで連れていかれると、そこにはもう一人別の子が呼び出されていた。
「ユリア!君がなぜここに!?」
「ユ、ユーリ……」
ユリアはユーリーが秘かに思いを寄せる少女だ。
その彼女が全裸にされアレクセイのベッドの脇に立たされている。
「アレクセイ!他の子たちには手を出さない約束だぞ!?」
アレクセイはこれから行われる催しに思いを馳せ、ニタニタと下卑た笑みを浮かべている。
「これは異な事を仰る。
先に約束を違えたのは殿下ではありませんか!?」
「一体何を言っている!?
私は毎晩お前に身体を差し出しているだろう!?」
「聞きましたぞ殿下。何でもこの娘と恋仲であるとか?」
ユーリーはただ一方的に思いを寄せているだけである。
「そ、それは誤解だ!
私が勝手に思っているだけであって彼女は関係ない!」
アレクセイが
「勘違いするなよユーリー!
一体誰のおかげで死なずにいられると思っている!
お前の心も体も私だけのものだ!」
そう吐き捨てたアレクセイは無骨な筋肉質の腕でユリアをベッドに押し倒した。
「嫌ー!助けてユーリ!ユーリー!」
「ユーリーお前はそこで見ていろ!
この娘が壊れるのをな!」
そしてアレクセイは獣になった。
「痛い!痛いよユーリ!嫌ー!」
「ユリアーーーー!!!」
衛兵に組み敷かれたユーリーは身動き一つとれず、憤怒の形相でその光景を睨みつけることしかできなかった。
部屋からは一晩中、少女の泣き叫ぶ声と少年の怒号が轟いていた。
▽
「あ?もう死んだのか。
ユーリーと違って脆いものだな。
おいお前ら!こいつを錬金棟で処分しろ!」
ユーリーを取り押さえていた衛兵がユリアの死体を部屋から運び出した。
アレクセイは床で打ちひしがれている彼に言い放つ。
「あの娘ユリアといったか?
途中から喘ぎ声を漏らしていたではないか。
どうだユーリー?興奮したか?」
その一言がユーリーの中のどす黒い感情を刺激した。
それと呼応するようにイザナ因子が反応する。
【イザナ因子】のレベルが上がる条件は個々人で異なる。
ユーリーのそれは憤怒であった。
祝福の儀で卑しい職業を得た誰に対するものともわからぬ怒り。
父や選帝侯への強制収容所送りにされた怒り。
自分より年下の兄弟姉妹たちが殺されなければならない政策をとる帝国への怒り。
愛する者を守ることが出来なかった自分自身に対する怒り。
それらがユーリーの魂の器から溢れ出す。
職業は奴隷から奴隷王へと進化した。
そして新たなスキルを獲得する。
アンタッチャブル/自身が承認した者以外身体に触れることを許さない。
こうしてユーリー・ヴォルフは覚醒者となった。
「
ユーリーは雷の魔力をその身に宿した刹那アレクセイへ殴りかかっていた。
「痛えな。だがそれだけだ。
帝国最強のこの俺様に勝てると本気で思ってるのか?」
アレクセイは忍ばせていた大剣を手にとり斬りかかる。
だがユーリーの身体を捉えたはずの愛剣は空を切った。
「貴様が私に触れることは許容しない」
「訳のわからぬことをほざくな!」
アレクセイの繰り出す大剣は全て棒立ちのユーリーの身体をすり抜けた。
「ど、どうなってやがる!?」
「もう終わりにしようか」
後退るアレクセイにおもむろに近づくユーリー。
「無常乱撃!」
ユーリーの拳が雨霰と撃ち込まれる。
アレクセイも迎撃するがユーリーに大剣は届かない。
ユーリーの拳は荒ぶり続ける。
アレクセイが物言わぬ肉片となり飛び散って、ようやく部屋は静寂に包まれた。
▽
赤い月が世間を騒がせた数日後、強制収容所のあった某貴族の領地はユーリー・ヴォルフの手に落ちた。
これにより長きにわたる強制収容所の歴史に終止符が打たれ、収監されていたイザナ因子キャリアたちは解放された。
自らを奴隷王と称したユーリー・ヴォルフと帝国との内乱の始まりである。
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