第25話 Sランク冒険者

 冒険者ギルド二階にある応接室で話し合いをすることになった。


 「なるほど……、話は分かった。

  非は完全にこちらにある。すまなかった」


 そう言ってギルマスは頭を下げる。


 そこへクリスとティアが応接室に入ってきた。


 「ギルドの職員が来て呼び出されたんだが問題は解決したようだな」


 「ドットの友人というのはクリスか、ハア……」


 どうやらクリスとギルマスは顔見知りのようだ。


 俺は基本常設依頼の納品しかしないため、別棟の解体作業場のおっちゃんや買取担当の職員以外との交流はない。


 「-でそちらのお嬢さんが……、

  も、うちの冒険者か……ハア……。

  ティア、怖い思いをさせてすまなかったね」


 ティアも真面目に冒険者活動をしているようだ。


 もっとも本人は遊びの延長程度にしか思っていないだろうが。


 「?僕は怖い思いなんてしてないよ?

  だってそこのより僕のほうが強いから。

  習得スキルとそのレベルを見ればわかる。

  では僕には勝てないよ」


 「……、そ、そうか怖くなかったか……。うん。ティアも強くなったんだな」


 【鑑定】はただの便利スキルと思っていたがそうではないらしい。


 相手のスキルが見えるということは、その攻撃手段も弱点もわかるということなのだろう。


 「だけどなティア、ている人にと言ってはいけないよ?」


 「?でもその人てるよ?」


 「相手の身体的特徴を口に出すのは注意しないといけない。

  ただの悪口になってしまうこともあるんだ。

  例えばティアの胸は小さいけど、それを誰かに指摘されたら嫌だろ?」


 「む?……理解した。ごめんねの人」


 元黒装束ことカミラはテーブルを叩いて立ち上がった。


 「さっきから人のことをと五月蠅いです!

  こんな頭にしたのはあなたでしょう!」


 「自業自得だろ?

  そもそもただの調査依頼にもかかわらず、なんで俺たちに攻撃を仕掛けてきたんだよ」


 「そ、それは、鑑定しても何も見えなかったからつい……」


 「ハア……、あのなカミラ、【鑑定】が効かないということはそれを妨害するスキルを持っているということだ。

  つまり【隠密】持ちという可能性が高い。

  【隠蔽】では【鑑定】を防ぐことはできないからね。

  私はそういう情報が欲しかったんだよカミラ」


 先ほどから溜息ばかりついているギルマスが頭を抱えている。


 「ところで俺の調査とは何を調べようとしていたんですか?」


 ディアナの件かとも思ったが、帝国でヨルに暗殺させたためバレる可能性は低い。


 仮にそうだとしたら俺の調査をしていたなどと明かさないだろう。


 「君の人となり、そしてスキルだよ。

  だから【鑑定】持ちのカミラに調査させた」


 ギルマスは憐れみを込めてカミラの寂しくなってしまった頭部を垣間見る。


 「実は今、とある任務の人選を行っている最中で、君もその候補のうちの一人だ。

  それが君を調査していた理由だよ。

  任務の詳細はまだ言えないけどね」


 『タイミング的に帝国絡みの任務でしょう』


 (だろうね。となると帝国行きは中止だな)


 ここまで黙って事の成り行きを見守っていたクリスが口を開いた。


 「なあドット、スキンヘッドの女ってエロいよな」


 「わかる。俺も同じことを考えていた。

  だけどなクリス、それを今言う必要はないだろ?

  ほら見ろ、またカミラが泣き出したじゃないか」


 「ひっぐ、ひっぐ、うぅ……」


 落ち着いてよくよく考えてみると俺が彼女にした事は鬼畜の所業だ。


 衆人環視の中で身包みを剥ぎ、あまつさえ女性の命ともいうべき髪を一本残らず消滅させてしまったのだから。


 彼女はもう王都で暮らすことはできないかもしれない。


 俺は上着のポケットでこっそりと毛生え薬を錬成した。


 おもむろに立ち上がりカミラのもとまで行く。


 「きゃっ!?な、何!?」


 毛生え薬をカミラの頭に塗りたくる。


 「これは俺特製の毛生え薬だ。感謝しろよ」







 「髪が……、私の髪の毛が元に戻った!?うぅ……」


 カミラは涙を流しながら自分の髪を愛おしそうに撫でている。


 「こ、これは!ドット君この毛生え薬は君が作ったのかね!?」


 ギルマスの圧が凄い。


 「ええ。俺は錬金術師なので。製法は秘密ですけどね」


 「この薬をギルドに卸すことはできるか!?

  報酬は白金貨10枚(一千万円)だ!」


 「この薬の出所を秘密にできるのであれば構いませんよ」


 俺は毛生え薬を納品し冒険者ギルドを後にした。


 「もうお腹がペコペコなのです!」


 「僕も!」


 「少し早い夕飯になるが食ってくか。ケーキ屋だけどクリスはどうする?」


 「なんで夕飯にケーキなんだよ。まあ行くけどさ」


 「俺に選択権があるわけないだろ?」


 俺たちはいつものスイーツ専門店へと向かった。


 『マスター。マスターの冒険者ランクがSに上がったようです』


 (は!?)


 確認すると確かにSランク冒険者となっていた。


 冒険者ランクは個人の強さを図るだけのただの指標だと思っていたのだが違ったらしい。


 『冒険者ギルドへの貢献度も加味されるようですね』


 (冒険者ランクを決めるのはギルドじゃないのに、その貢献度が関係するのはおかしくないか?)


 『ギルドカードは最初から不条理だったではありませんか。今更ですよ』


 (本当は何か知ってるんでしょ?)


 『ふふふ、どうでしょう?』


 しばらく経ってから、とある薄毛で悩んでいた大貴族がふさふさの髪の毛を風にたなびかせて世間を騒がせた。


 しかし彼は生涯その秘密を語ることはなかったという。


 


  


 

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