第24話 襲撃者

 「俺は帝国へ行くぞクリス」


 密談をするためにクリスを鈴蘭亭へ連れて来たのだが、そこへタイミング悪くティアが戻ってきてしまった。


 スキルレベルは実践のほうが上がり易いと気付いたティアは、最近帰りが遅かったはずなのだがどうしたのだろうか。


 「ドットー!ついに魔法をコンプしたよ!」


 ティアのスキルマニア癖は日を増すごとに本格化している。


 『スキル大全』を買ってあげて以来拍車がかかってしまった。


 「お前はまた新しい女を創ったのか……」


 「ヨルとティアの他にもあと五人いるのです!」


 クリスの刺すような視線が痛い。


 「ティアちょっと見せてみろ」


 クリスがいるため今回は胸を触らずに肩に手を置く。


 「空間魔法も覚えてるな、Lv1/1だけど。

  というか魔法の成長限界はすべて1なんだな……。

  で空間魔法Lv1で何ができるんだ?」


 「僕の半径10m圏内の空間を把握できる。

  例えばこの宿の建物の構造や人の位置とか。

  あ、【鑑定】と併用もできるみたい」


 「空間魔法って凄ーな。

  Lv1でそれだけのことが出来るのか。

  俺は使えないからよく知らないけどさ、

  火属性魔法Lv1で使える魔法ってファイアボールwじゃなかたっけドット」


 「人によって異なるけど大抵の奴はファイアボールwだね」


 ティアが帰ってきたせいで話が逸れてしまったので本題に戻す。







 「俺はずっと考えていたんだよクリス。

  ヴォロフ帝国で平民のイザナ因子キャリアが強制収容所送りになる理由を。

  貴族が自分たちの地位を脅かす存在を排除するという理屈はわかる。

  だけどそれを続けていけば国力は相対的に低下するだろ。

  現にこの国では平民のイザナ因子キャリアを積極的に騎士団へ取り入れて軍事増強を図っている」


 俺とクリスが通う学園にいる平民の大半はイザナ因子キャリアなのである。


 この国の歴史上、平民が騎士団で出世して一代貴族の騎士から陞爵しょうしゃくして貴族になった例はいくらでもあるのだ。


 「この間の赤い月は賢者の石の失敗作だって話はしたよな。

  では帝国は一体どこからあれほど大量の血液を集めたんだろうか?」


 「つまりドットはこういいたいのか?

  イザナ因子キャリアから搾り取った血液を使って賢者の石を作ったと。

  んー、それは論理の飛躍じゃないか?

  いくらなんでも非人道的過ぎるだろう」


 「だから帝国に乗り込んで調べるんだよ」


 『緊急クエスト/残余利益は不殺からを受注しました』


緊急クエスト/残余利益は不殺から

報酬/SP500

概要/襲撃者を殺さずに拘束しその背景を明らかにせよ。


 「あ、僕の空間把握に何か引っかかった」


 直後頭上から俺たちへ向けて殺気が放たれた。


 俺はティアを覆うように大きな魔球で防壁を張り、ヨルは既に黒い精霊体となって襲撃に備えている。


 クリスは腰の剣を抜き、何やら精霊を召喚?したようだ。


 彼を護るように風と氷と思われる二体の精霊が待機している。


 「ヨル!相手を殺さずに生け捕りにしろ!」


 殺気が消えた直後、黒装束を着込んだ何者かが姿を現した。


 ヨルから伸びた影が対象を一瞬で拘束する。


 「残念!そっちは外れ!」


 影が拘束していた黒装束は霧散する。


 と同時に俺の目の前に現れた黒装束が斬りかかってきた。


 「腐蝕!」


 突き出した手のひらから発せられた禍々しい魔力に触れた小刀がぼろぼろと崩れ落ちた。


 腐蝕はそのまま黒装束に纏わりつき、その身体を飲み込んだ端から消滅させていく。


 (あれ?【腐蝕】って生物には効果が薄いんじゃなかったのか!?)


 このまま殺してしまってはクエストを達成できない。


 「残念。こっちも外れ」


 その言葉を後に残し黒装束は霧散した。


 『どちらも本体ではなかったようですね』


 ヨルの姿はいつの間にか消えており、既に奴の追跡に入っているようだ。


 影の中を自由に移動できるヨルに拘束されるのも時間の問題だろう。


 『拘束完了なのです!』


 「クリス、ちょっとティアを頼む」


 俺は窓から外へ飛び出した。







 冒険者ギルド前の広場で黒装束はヨルの影に捕らわれていた。


 『冒険者ギルドへ逃げ込んだので引き摺り出したのです!』


 黒装束を見下ろし詰問する。


 「お前は冒険者のようだが誰の差し金だ?」


 「答えると思う?」


 冒険者には守秘義務が課せられる。


 最初から簡単に口を割るとは思っていない。


 「腐蝕」


 装備を指定してスキルを発動させる。


 黒装束が崩れ去って中の人が全裸で晒された。


 女は拘束されているため恥部を隠すこともできずにもがいている。


 「くっ!どんな辱めを受けようとも何も話さないから!」


 「まだ若いな。お前もしかしてうちの生徒か?」


 襲撃時に発した声から女だとはわかっていたがこんなに若いとは思わなかった。


 冒険者ギルド前広場はすっかり人だかりができてしまった。


 素っ裸の少女が騒いでいたらこうなるのも当然だ。


 「……」


 「腐蝕」


 髪の毛を指定してスキルを発動させると、少女の艶やかな髪がすべて抜け落ちてしまった。


 「わたしの髪の毛……」


 少女は声を殺してはらはらと涙を流している。


 「答える気になった?

  俺は相手が女だからといって手加減はしないよ?

  だってお前は俺の友人と身内に手を出したからなあ!」


 「わたしは誰も傷つけていないわ!」


 「俺だけにではなく部屋にいた全員に殺気を飛ばしてきただろ?」


 クリスはあの程度でどうにかなるような奴ではない。


 だがティアは違う。まだ生まれてから一年も経っていないのである。


 身体に傷がなくても心にトラウマを抱えてしまったらどうしてくれようか。


 「いい加減俺の質問に答えたらどうだ?

  次はお前の奇麗な顔が潰れるぞ?」


 少女は目を見開き恐怖で震えている。


 すると人込みをかき分けて背の高い筋肉質のおじさんが飛び込んできた。


 いい身なりをしているので冒険者ではないだろう。


 「そこまでだ!ドット・ピリオッド!」


 「あなたに関係ないでしょう?」


 「私は冒険者ギルド王都本店のギルドマスターをしているギュンター・シェルマンだ」


 「だったら尚のこと手出しは無用です。

  冒険者同士の諍いにギルドは干渉しないのが原則でしょう」


 冒険者ギルド内であれば問題だがここは外である。


 そして先に手を出してきたのは彼女だ。


 「だとしてもやり過ぎだろう!彼女を開放するんだ!」


 「俺の身内に手を出した以上見過ごすことはできない。

  こいつの背後関係を明らかにした後憲兵に引き渡します」


 「君の身内に手を出しただと?

  カミラそれは一体どういうことかね?

  私が指示したのはドット・ピリオッドの調査だったはずだが?」


 (俺の調査だと?)


 『面倒なことにならなければ良いのですが……』


 ギュンターの上着で身体を覆ってもらったカミラという少女は口籠る。


 「そ、それは……、でもわたしは誰も傷つけていない!」


 「おい、心が傷付くこともあるんだぞ?わからないか?」


 カミラは理解できていないのか口を半開きにして呆けている。


 この後カミラの拘束を解いた俺はギルマスと話をすべく冒険者ギルドへと向かった。


 


 


 


 


 


 

 

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