第23話 無職の本気
ティアの冒険者登録を済ませ王都近郊の森でゴブリン狩りをすることにした。
「来る途中にたくさんいたウサギじゃだめなの?」
「あいつらゴブリンよりも強いからティアが死ぬ。
こちらから手を出さない限り人を襲わないから、危険度がゴブリンよりも低いだけだからな」
森の入り口付近にちょうど良さげなソロのゴブリンを発見した。
ゴブリンはPTを組んでいることが多いので好都合だ。
「ヨル、森に入って他の魔物を警戒して。
こちらに気付いていなければ放置で」
「了解したのです!」
ヨルはいつもの敬礼ポーズをきめて森の中へと姿を消した。
「それじゃティア、ゴブリンに小石をぶつけて誘き寄せて」
「えい!」
ティアにも【自動照準】と【自動追尾】を習得させたので百発百中である。
ゴブリンは下卑た笑みを浮かべるとティアに襲い掛かった。
「殺らなきゃ犯られるぞ」
「僕がゴブリンに犯されるところを見たいなんてやっぱりドットは鬼畜ご主人様だね!
ヤー!」
ティアの振り下ろした剣はゴブリンの頭を叩き潰した。
さすがに【身体強化】【自動照準】【自動追尾】があればゴブリンは余裕のようだ。
「ところでティア、なぜ斬らずにに殴ったんだ?
それでは剣術スキルを覚えられないぞ」
「ゴブリンを切ったら血が出るじゃないですか?
その返り血が僕にかかるじゃないですか?
そしたら気持ち悪いじゃないですか?
つまりそういうこと」
「いいから黙って斬れ!」
「へーい」
「返事は、はい、だ!何だよへーいって」
森に足を踏み入れると【草むしり】が発動してティア周辺の草がふぁさふぁさと抜け落ちる。
俺はそれをストレージへと収納していく。
「ドットはどうして草なんか集めてるの?」
俺の行為に疑問を持ったティアが訊ねてきた。
何にでも興味を持つのはいいことだ。たぶん。
「ああ、この中には薬草も混じっているから後でギルドに卸すんだよ。
ぶっちゃけるとゴブリンを狩るよりも稼げるからな」
集めた草はストレージの中で薬草の種類毎に分別される。
なかには希少な物も混じっており本来は鑑定系のスキルがなければ見つけることができないものだ。
「ではなぜ僕はゴブリンを狩るの?」
「金稼ぎはあくまでもついでだ。
ここまで来たのはティアのLvを上げるのと武器スキルを覚えるためだから」
ティアがなにやら考えて込んでいる。
「鬼化して僕が全力で石をぶつければゴブリンは簡単に殺せると思う。
武器スキルは素振りでも覚えられるから戦う必要はない。
だからレベル上げとスキルの習得は別にしたほうが効率的だと思う。
ドットが学校に行っている間はレベル上げをして、午後からスキルの習得に励む。
こうすればドットがわざわざゴブリン狩りに付き合う必要もなくなる」
ティアはどうやら馬鹿ではないらしい。
そして、俺がティアのために時間を割かなくてもいいように考えて出した結論のようだ。
ここはティアの自主性を尊重してあげたほうが彼女の成長に繋がるかもしれない。
「よしわかった!それでいこう!それじゃあ今日はもう帰るか?」
「僕はまだ帰らないよ。これからこの草を使って鑑定スキルを覚える!」
「そうか。でも日が暮れる前には帰るからな」
「うん!」
【鑑定】は固有スキルや職業スキルで発現する以外では、習得難易度Sランクに分類されるほどの超レアスキルである。
だが今日だけは何も言わずに付き合ってあげることにした。
ティアが草をガン見しているあいだ、自作したミスリルインゴットをぐにゃぐにゃさせて【造形】のスキル上げをする。
あれほど働きたくないと言っていたティアだったが何か心境の変化でもあったのだろうか。
▽
「見えた!」
「え!?もう覚えたのか!?まだ一時間ぐらいしか経ってないぞ!?」
イザナ因子キャリアでもない者が、しかも激レアスキルをこんなに簡単に習得できるものだろうか。
『んー、無職にはスキル習得を助長させるような補正でも入るのでしょうか……』
(Qちゃんでもわからないことがあるの?)
『職業/無職に関する情報が不十分です』
とりあえずティアのステータスを確認する。
「あ……、ぼ、僕の胸は大きくないよ?」
ティアは顔を赤らめてもじもじしている。
「マジで【鑑定】を覚えてるよ……」
ティア・ムーサLv2//ホムンクルス//無職
固有スキル
身体強化Lv1/10
鬼化Lv-
暗視Lv-
職業スキル
集中Lv3/10
スキル
隠密Lv1/10
鑑定Lv1/10 NEW
生活魔法Lv-
自動照準Lv-
自動追尾Lv-
草むしりLv-
「んー、【集中】のスキルレベルの上りも早い」
『ホムンクルスの種族特性とも考えられますが……』
「ドット、僕お腹空いちゃった」
「ヨルもお腹ペコペコなのです!」
「そろそろお昼だし今日はもう帰ろうか」
王都へ戻って今朝立ち寄ったスイーツ専門店で昼食をとり(二人の希望で)俺は学生寮へ帰った。
▽
翌日、授業が終わって鈴蘭亭に来てみると庭でティアが剣の素振りをしていた。
「あ!ドットー!スキルをたくさん覚えたから見て!」
きけば昨日の午後から俺が置いて行った武器各種を使ってスキルを覚えていたそうだ。
今日の午前中も狩りには行かずにずっと素振りをしていたらしい。
ティアの胸を揉みながらステータスを見る。
『おい』
(コウシナイトミラレナインダヨ?)
「は!?何だこりゃ!?」
ティア・ムーサLv2//ホムンクルス//無職
固有スキル
身体強化Lv3/10
鬼化Lv-
暗視Lv-
職業スキル
集中Lv7/10
スキル
剣術Lv1/1 NEW
大剣術Lv1/10 NEW
短剣術Lv1/1 NEW
細剣術Lv1/1 NEW
盾術Lv1/1 NEW
格闘術Lv1/1 NEW
刀術Lv1/10 NEW
槍術Lv1/1 NEW
斧術Lv1/1 NEW
棒術Lv1/1 NEW
弓術Lv1/1 NEW
投擲術Lv1/1 NEW
隠密Lv1/10
鑑定Lv1/10
敏捷強化Lv1/10 NEW
生活魔法Lv-
自動照準Lv-
自動追尾Lv-
草むしりLv-
俺が置いて行った武器のスキルはすべて習得していた。
要経過観察だが、ティアのスキルの成長限界は1か10の二択なのではないだろうか。
いくらなんでも極端過ぎである。
「どうだった!?」
「あ、ああ、レベルが最大まで上がるスキルは【大剣術】【刀術】【敏捷強化】でそれ以外は1だな」
「なら武器スキルは大剣と刀だけ上げればいいってことだね!」
「それにしても成長限界がLv1のスキルが邪魔(いろんな意味で)だな……。
何か削除する方法ってないかな?」
『ありますよ。そ-』「消しちゃダメ!せっかく覚えたのに!」
Qちゃんの話を遮るようにしてティアが拒否反応を示した。
「ティアがそれでいいなら構わないけど」
『あー、これはアレですか。ティアはスキルマニアですね』
「ティアは頑張ってるみたいだけど働きたくなかったんじゃないの?」
「え?僕は働いてないよ?ただ遊んでいただけだよ?」
確かに狩りに行っていないので働いてはいないが、冒険者にとって自らの鍛錬は仕事の一部といっても過言ではない。
強くなれば生き残る可能性も上がるし、より稼げるようになるのだから。
『ティアはスキルを覚えるのが楽しくて仕方ないのでしょう。
マスターも前世でゲームをしていた時、同じような経験があるのでは?』
(あー、うん。理解した)
ティアは少し俺に似ているだろうか。
彼女にとってこの世界は、オープンワールドのMMORPGをしているような感覚に近いのかもしれない。
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