第22話 ティアとケイト

 昨晩鈴蘭亭に置いてきたポンコツの元まで行く。


 ダンジョンに放り込むわけにもいかず結局連れ帰ってきたのだ。


 彼女たちに対して責任を負いたくないという理由で普通のゴーレムを作ったのだが面倒なことになってしまった。


 部屋に入るとポンコツはベッドに腰かけていた。


 「んー、ほんとこの子どうしよう……」


 『廃棄しないのであれば【隠密】の習得は絶対条件です』


 ポンコツの見た目は人そのもので種族はゴーレムである。


 ステータスを見られたらいらぬ疑いをもたれる可能性大だ。


 幸いにもダンジョンに送り込んだシスターズ(属性以外何もかも同じなのでそう名付けた)は順調に経験値とSPを稼いでくれている。


 彼女たちにはゴブリン討伐の初回報酬が適用されるため、ポンコツに【隠密】を覚えさせる程度のSPは貯まっているのだ。


 「1000SPを消費するのは痛いが必要経費か……」


 『マスター、【隠蔽】をカンストさせてからでなければその上位スキルである【隠密】は習得できません。

  ですから消費SPは2000です』


 「そうだった……、せっかくシスターズが稼いでくれたのに……」


 俺は泣く泣くポンコツに【隠密】を習得させた。







 まず俺が習得した隠蔽Lv10/10を譲渡し、その後自身の【隠密】のうち1レベル分を分け与えた。


 そして再び自身の【隠密】をカンストさせる。


 同じスキルを習得することができないためこのような手順をとったのだ。


 そして、スキルを譲渡するついでにポンコツに魂を錬成した。


 うまくいけば冒険者として自立できるかもしれない。


ティア・ムーサLv1//ホムンクルス//無職

固有スキル

 身体強化Lv1/10

 鬼化Lv-

 暗視Lv-

職業スキル

 集中Lv1/10

スキル

 隠密Lv1/10

 生活魔法Lv-

 自動照準Lv-

 自動追尾Lv-

 草むしりLv-


 「ティア俺がわかるか?」


 「僕をこれから凌辱しようとしている鬼畜ご主人様」


 「ちっがーう!」


 「自分で創っておきながら僕を捨てようとしている鬼畜ご主人様?」


 「そ、それは……」


 「冗談で言ったつもりが……、そうか僕はいらない子なのか……」


 「違うから!ちゃんと面倒は見るから!」


 「本当?ご主人様?」


 上目遣いで訴えかけてくるティア。


 「う、うん。約束する(くっ!ちょっと可愛いじゃないか)」


 『言質を取られるご主人様……』


 (だまれ……)







 「僕はこれからどこへ連れていかれるのご主人様」


 「冒険者ギルドへ行ってティアの冒険者登録をする」


 ティアの足が止まる。


 「働きたくないでござる……、ご主人様酷い!」


 「うるさい!働かざる者食うべからずだ!」


 「ヨルはいっぱい働いているから食べられるのです!」


 先程からこの調子で全然冒険者ギルドへ辿り着けない。


 往来の真ん中を賑やかしていたためとある人物の接近に気づかなかった。


 「久しぶりねドット。女の子を二人も連れてるなんていい御身分ね」


 「げ!ケ、ケイト……」


 この王都で最も会いたくなかった人物である。


 「は!?ケイトですって!?わたしを呼び捨てにするなんて十年早いわよ!」


 -そう言って拳骨を落としてくる二つ上の姉は父そっくりである。


 「殴ることないだろ!」


 昨年は一度も実家に帰省しなかったのでわからなかったが、まだケイトの身長には追い付けていないようだ。


 「ご主人様、こちらの方は?」


 「姉のケイトだ」


 殴られたところは特に痛くはないがなんとなく頭を擦りながら答える。


 「ご、ご主人様!?あ、あんたまさか……、そういう趣味が……」


 「ないない!ティア、これから俺のことをご主人様というのは禁止な!」


 「……、ねえドット、僕お腹空いたんだけど」


 「冒険者登録が終わってからな」


 「昨日から何も食べてないのにこれ以上動けないよ」


 「食べたら冒険者ギルドにちゃんと行くか?」


 「いくいく!」


 「ヨルも食べるのです!」


 「ハア……、仕方ない先に食事にするか……。

  というわけだから俺たちはこれで」


 ケイトと別れて近くにあるスイーツ専門店へと足を向ける。


 そこはヨルのお気に入りの店の一つだ。


 「-で、なぜついてくるのケイト?」


 「ん?久しぶりに再会したんだもの、いろいろ積もる話もあるでしょ?」


 ケイトから離れるという目論見もあったのだが失敗に終わったようだ。


 しばらく歩くと大通りに面したその店に到着した。


 「え!?ここなの!?スイーツ専門の高級店で有名なお店よ!?」


 「へー、有名店だったのか。通りで美味しいわけだ」


 俺たちはドアに取り付けられた小気味好い鈴の音を響かせて店内へと入った。







 まだ開店した直後ということもあり店内は空いていた。


 ヨルとティナは次々と注文していく。


 「ケイトも好きなだけ頼んでいいよ」


 「……ええ、そうさせてもらうわ」


 二人はケーキやパイを運ばれてきた端から平らげていく。


 ヨルはケーキをホールごと食べているほどである。


 俺はプリンを、ケイトはいくつかケーキを注文しただけだ。


 ケイトは二人の食べっぷりに呆然としている。


 「この子たち凄いわね……。ドット大丈夫なの?」


 「大丈夫って何が?」


 「何がってお金よ!お金!わたしそんなに持ってきてないわよ?」


 「俺が払うから心配ないよ。いつものことだし」


 なぜかケイトの顔つきが険しくなった。


 「いつもですって?あんたまさか……、

  わたしよりも多く仕送りしてもらっているんじゃないでしょうね!」


 「は?そんなわけないだろ?

  というか俺はまったくもらっていないんだけど!」


 初耳である。もしかすると俺だけもらっていないのだろうか。


 『父君はマスターが冒険者としてどれだけ稼いでいるのか知っているのでしょう』


 「ならどうしてあんただけそんなにお金をもっているのよ!」


 「冒険者として稼いだにきまってるだろ!」


 「はあ?

  Cランクのわたしでさえこんな高級店に頻繁に通えるほど稼げないわよ!」


 「俺はAランク冒険者だ!」


 ギルドカードを差し出し証明する。


 「嘘でしょ……、ドットがAランク……。

  姉としての威厳が損なわれていく……。

  弟より優っているのが身長だけの姉ってどうなのかしら……」


 「身長のことは言うなー!」


 「店内で大きな声を出すのはよくないと思うな僕は」


 「姉弟喧嘩はやめるのです!仲良くするのです!」


 こうして実の姉であるケイトと二年ぶりに再会したのであった。


 


 


 


 

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る