第21話 クエスト/暗殺者のジレンマ

 二泊三日で行われる予定だったサバイバル訓練は中止となり、夜明けとともに学園へと帰還した。


 昨晩現れた赤い月は世界中で目撃されて様々な憶測が飛び交っていた。


 大災害の前触れだとか新しい魔王が誕生したとかほとんどが眉唾物の情報ばかりで、あれを賢者の石であると看破したのは各国の上層部や一部の者たちだけだった。


 学生寮に戻ってクリスに赤い月の詳細やディアナとの一件を説明し、俺は今鈴蘭亭にいる。


 というのも新しいクエストを受注したからだ。


クエスト/暗殺者のジレンマ

報酬/SP5000

概要/ディアナ・ムーサを殺害して破滅の因果に干渉せよ。


 「クエストの意味がよくわからないな。

  ディアナを殺さなければ俺が破滅するのなら躊躇う必要などないだろう?

  それにこのクエスト名の通りだとすると、ディアナを殺しても何かしらの不都合が俺に生じると解釈できるよね?」


 『マスターが人を殺すことによって罪の意識に苛まれる……とか?』


 「んー、ディアナが賢者の石を手に入れたら何か良くない事態になる気がする。

  そんな奴を俺が殺しても罪の意識に苛まれるなんてことになるかな……」


 『どちらにせよマスターに選択の余地はないと思いますが』


 「まあそうなんだけどさ……」


 最初から選択肢などないのだ。


 既にヨルにディアナの追跡をさせて現在の居場所も特定している。


 ただ、イザナクエストよりも高い報酬が気になっただけである。


 (ヨル、ディアナに動きは?)


 『まだマレリッキの宿屋にいるのです。もう殺してもいいのです?』


 (勝てそうか?)


 『余裕なのです!任せるのです!』


 念話が途切れた直後ヨルが背後に現れた。


 「は、早いな!?」


 「任務完了なのです!」


 ヨルは敬礼のポーズをとりニコニコしている。


 彼女に指示を出して暗殺させたのだからディアナを殺したのは俺だが何も感じなかった。


 やはり自らの手を汚していないからだろうか。


 『クエスト/暗殺者のジレンマを達成しました』


 ストレージを確認すると確かにディアナの死体が収められていた。


 部屋が汚れないように空の魔球に死体を取り出す。


 「『……』」


 魔球の中はサイコロ状にバラバラにされたディアナの肉片が詰め込まれていた。


 ここまでされては【万能細胞】持ちの俺以外では即死だっただろう。


 『10000SPが貯まったので【隠密】を習得しましょう。

  これでマスターのステータスを覗ける者はいなくなります』


 SPをすべて消費して隠密Lv10/10を覚えた。


 これで残りSPが再びすっからかんだ。


 「何かあった時のためにSPに余裕がないのは怖いな」


 俺は新しい眷属を創ることにした。







 サバイバル訓練をした名も無き森まで移動する。


 冒険者ギルドで調べたところ、冒険者たちからはゴブリンの森と呼ばれているらしい。


 もちろんここまで来たのには理由がある。


 ヨルに偵察させた際に発見したダンジョンで経験値とSP稼ぎをさせるためだ。


 そのダンジョンにもゴブリンしか湧かないらしく、冒険者が寄り付かないので好都合なのである。


 今回はシャドウゴーレムではなく実体のある個体を作る予定なのでここを選んだ。


 王都周辺で作っては移動する際に見られる可能性がある。


 シャドウゴーレムを作れば楽だったのだがヨルが嫌がった。


 彼女は俺の影の中を独り占めしたいらしい。


 今の俺ならホムンクルスも創れそうだったがゴーレムを作ることにした。


 というのもホムンクルスは人と変わらないのだ。


 自然の摂理の中で生まれたか人工的に創られたかの違いだけしかないのである。


 自身のなかで倫理的な葛藤もあったのは確かだが、実際のところ彼らに対して責任を持ちたくないというのが本心だ。


 というわけで早速ゴーレムを作成する。


 材料はゴブリンの魔石と火水風土光無属性の魔球、サイコロ状のディアナの肉片である。


 死体を使うのは実験的な意味合いが大きい。


 人の体組織をベースにしたゴーレムの強さと従順さ、そして各属性を付与した結果どんなスキルが宿るのかを見る。


 なので今回はヨルの時のようにスキル譲渡は行わない。


 六体分の材料をそれぞれ配置する。


 ディアナの死体を使ったがちゃんと俺の言うことを聞くだろうか。


 「錬成ゴーレム作成!」







 出来上がったゴーレムは人の姿をしていた。


 どことなくディアナの面影がある。


 しかし魂が入っていない以上ホムンクルスではなくゴーレムである。


 『皆女形の少女で見分けがつきませんね』


 素っ裸なので各属性に合わせた色の服を着せる。


 赤青緑茶黄白色の服を着たゴーレムが整列した。


 今のところ俺の指示には従っているようだ。


 彼女たちのステータスを見ていく。


名無しLv1//ファイアゴーレム//魔術師

固有スキル

 火属性魔法Lv1/10

 火属性耐性Lv1/10

 暗視Lv-

職業スキル

 魔力上昇Lv1/10

スキル


名無しLv1//ウォーターゴーレム//魔術師

固有スキル

 水属性魔法Lv1/10

 水属性耐性Lv1/10

 暗視Lv-

職業スキル

 魔力上昇Lv1/10

スキル


名無しLv1//ウィンドゴーレム//魔術師

固有スキル

 風属性魔法Lv1/10

 風属性耐性Lv1/10

 暗視Lv-

職業スキル

 魔力上昇Lv1/10

スキル


名無しLv1//アースゴーレム//魔術師

固有スキル

 土属性魔法Lv1/10

 土属性耐性Lv1/10

 暗視Lv-

職業スキル

 魔力上昇Lv1/10

スキル


名無しLv1//ライトゴーレム//魔術師

固有スキル

 光属性魔法Lv1/10

 光属性耐性Lv1/10

 暗視Lv-

職業スキル

 魔力上昇Lv1/10

スキル


名無しLv1//ゴーレム//無職

固有スキル

 身体強化Lv1/10

 鬼化Lv-

 暗視Lv-

職業スキル

 集中Lv1/10

スキル


 一人を除いて職業は皆魔術師で属性こそ違えどもほぼ同じスキル構成になった。


 【暗視】はゴブリンの魔石を使った影響だろうか。


 そして無属性の魔球を使用した個体は無職で魔法も覚えなかった。


 ディアナ要素が皆無である。


 とりあえず無職以外の五体をダンジョンへ送り出す。


 「この子はどうしよう……」


 『ダンジョンに潜らせたら死にそうですね……』


 無職の子は首を傾げている。


 


 


 


 


 


 

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