第19話 サバイバル訓練
久しぶりに学生寮の自室のベッドで目を覚ました。
懐には黒猫に
昨晩は夜遅くに帰ってきたのでまだクリスとは顔を合わせていない。
起こすのも悪いので賢者の石を作りながら待つことにした。
(賢者の石があれば死者を生き返らせることもできるの?)
『遺体が残っていれば可能ですがおすすめはしません。
いわゆるあの世と呼ばれるような世界は存在せず人は死んだ直後に転生します。
つまり死者を蘇生するということは既に転生済みの命を奪うということです』
(一応は可能なわけだね)
『……、人が輪廻に干渉すれば重大なシステムエラーが起きる可能性があります。
現にマスターはこの世界で生成不可能だったはずの賢者の石を手にしました。
表現は悪いですがマスターはこの世界にとってはウィルスのような存在であるともいえます』
(ということは俺は誰かの意思によってここにいるというわけだ)
『そういうことです。
マスターが転生直前に余計なことをしたせいでエラー訂正コードがうまく働きませんでしたが』
(なんかこの世界が仮想現実であるかのような言い方だね)
『その問いに答える情報を持ち合わせていません』
いつもと言い回し方が異なっている。本当に知らないのかもしれない。
『クリスが起床したようです』
気付けばヨルも起きており毛繕いをしていた。
▽
「お、ようやく帰ってきたか。極秘任務とやらは上手くいったのか?」
クリスは寝ぼけ眼をこすりながらベッドに腰かけた。
「極秘任務?ああ、あれは嘘だ。内緒だけどな……実は賢者の石を作ってたんだ」
留守にしていた間のことをクリスに説明する。
「マジか……、-で、もう創ったのか?」
「何を?」
「何をってお前、賢者の石といえば人体錬成だろうが」
「人ではないがこれを創った」
猫の姿のヨルを抱きかかえそう答える。
「……、なんでこんなちんちくりんを……」
「む、失礼なのです!びびりクリスのくせに生意気なのです!」
ヨルさんがお冠である。
「ね、猫が喋った……、賢者の石はこんなこともできるのか……。
-って、誰がびびりクリスだこの野郎!」
ヨルがシャドウゴーレムに変化してクリスに詰め寄る。
「うああ!あの時の黒い奴!」
「ほら、やっぱりびびりなのです!」
「お前がいきなり現れたら誰だって驚くだろ!」
「お前ではないのです!ヨルはヨルなのです!神崎夜子なのです!」
そう言ってヨルは人の姿となり中二病チックな決めポーズをとった。
「か、可愛い……。
はっ!まさかドットはこんな可愛い子とあんな事やこんな事を既に……」
「してないしてない!まだ何もしてないって!」
「まだ……だと?そのうちするってことじゃねーか!
この野郎抜け駆けしやがって!」
この部屋では何もしないと約束させられてようやくクリスは落ち着いたのだった。
▽
寮に戻った翌日から二泊三日でサバイバル訓練が実施された。
キャンプ地はクラスによって異なり、Aクラスは王都から最も離れた未開拓の森で訓練をすることになった。
王都から離れるほど魔物は強くなるため俺たちがそこに割り振られたのだ。
馬車に揺られること半日、ようやく現地に到着した。
「まさかあんなに揺れるとはね」
これまで貴族用の馬車にしか乗ったことがなかったため、馬車での移動がこんなにも辛いものだとは思わなかった。
「く、殿下をこのようなものに乗せるとは……」
「おいモンド、殿下と呼ぶなって何度も言ってるだろうが」
仲良し主従も揃って尻を擦っている。
ちなみに俺には苦痛耐性があるので尻は痛くないのだ。
「はあ、はあ、途中から馬車を降りて走ってきたのは正解だったな」
最近リリアンの脳筋化が進行している気がする。
「あなた達ねえ、馬車で移動するのにクッションを持ち込むのは常識よ」
別の馬車に乗っていたキーラが合流して呆れている。
貧乏男爵家のお嬢様には常識だったらしい。
「この五人が同じ班か」
二年に進級してからよくつるんでいるいつもの顔触れである。
「「「「……」」」」
ばつが悪そうにクリスが答える。
「ドットはずっと休んでたから別の班に組み込まれたんだ。すまんな」
「え!?」
▽
クリスに教えてもらった自分の班に合流する。
待っていたのは魔術科の知らない女教師と白毛の猫人族のニーナ・ケイシー、この国ではマイノリティである金髪碧眼のカルロ・アマーティの三人だ。
「あれ?もう一人は?」
班は四人の生徒と引率の教師一人で構成される。
「……」
ニーナは無口のようだ。無視されたわけではないと信じたい。
「身内に不幸があったとかで休むってさー。名前はー…知らない」
-と面倒そうに答えたカルロとはほとんど話したことがない。
年齢不詳のディアナ・ムーサと名乗った教師からはなぜか睨まれている。
楽しくキャンプするつもりで来たサバイバル訓練だったがそうはならないようだ。
学校をずる休みした罰だろうか。
そして肝心の森であるが、冒険者があまり寄り付かないようで下草が生い茂っている。
「ヨル、この森の様子を調べてきて」
「カー!(了解したのです!)」
俺の影から飛び出してきたカラス姿のヨルは一声鳴いて森の奥えと消えていった。
「……」
「影の中に飼っているのかい?」
「まあ、使い魔みたいなものかな」
「あれがただの使い魔のわけがなかろう。
私の鑑定眼でさえ何も見えなかったぐらいだ」
ディアナ・ムーサが急に顔を近づけてきたと思ったら耳元で重苦しく呟いた。
「おいピリオッド、どうやって錬成Lv10まで上げた?
【錬成陣】とは【錬成】の上位スキルだろう?」
『【鑑定眼】はヨルも所持している【隠密】でなければ対抗できません』
とはいえ圧倒的にSPが足りない。
早めにヨルの代わりに経験値とSPを稼いでくれる者を創る必要がありそうだ。
「あー、なんか知らないうちに上がってたんですよね。はは……。
そんなことよりも早くいかないと日が暮れてしまいますよ!」
俺は適当にごまかして森の中へと分け入った。
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