第17話 イザナクエスト/禁忌と革新者

 「錬成!」


 両手で挟み込んだ血入りの魔球がバチバチと帯電し赤い魔力が迸った。


 血液を注ぎ込むごとに膨張しようとする魔球を強引に捻じ伏せ形を維持する。


 「錬成自体は問題ないが終わりが見えない……。

  Qちゃん!睡眠耐性を最大値まで習得!

  それからヨル!帰還しろ!」


 俺の影からヨルが現れる。


 「レベル上げは一時中断する!ヨルは字を書けるか?」


 コクコクと頷くヨル。


 「では俺がこれから言うことをメモして、学生寮で同室のクリスまで届けてくれ!」


 クリスには冒険者ギルドの極秘任務でしばらく留守にすると伝える。


 賢者の石をいつ錬成し終わるのか予測がつかないための措置だ。


 俺はすべての指示を出し終えて再び魔球に意識を戻した。







 賢者の石を錬成し終わるのに十日ほどかかってしまった。


 不眠不休で作業した結果完成と同時に眠りに落ちた。


 俺が目を覚ましたのはそれから三日後のことだった。


 寝起きのためまだ頭が回らないが、何か暖かくて柔らかいものに包み込まれているようだ。


 「ん!?」


 気付けばヨルを抱き枕代わりに抱擁して尻を揉みしだいていた。


 「ヨ、ヨル!?どうしてこんなことに」


 『すけべえマスターおはようございます。三日ぶりですね』


 どうやら睡眠耐性を習得しても完全に眠らない体質になるわけではないらしい。


 「三日も寝ていたのか……」


 ヨルはコクコクと頷いている。


 ストレージからサンドウィッチを取り出し三日ぶりの食事をとる。


 錬成中はヨルに身の回りの世話をしてもらっていた。


 それもあってかヨルとの距離が異様に近い。


 今も俺の隣に腰掛け肩を密着させている。


 (俺何もしてないよな……)


 頭から妄想を追い出しステータスを確認すると【錬成】が【錬成陣】へと進化していた。


 『スキルが進化したことにより錬成時間が大幅に短縮されます。

  さらにはポーションなどを作成した際に、完成品のレアリティを一段階引き上げる効果があります。

  もっともマスターは薬品作成スキルを所持していないため作れませんが』


 「まったく、一言多いんだよQちゃんは……。それにしても綺麗な石だねヨル」


 コクコクと頷くヨル。


 血色に光輝く賢者の石を見ていると達成感が込み上げてくる。


 『いちゃついてるところ申し訳ないのですが、新しいイザナクエストを受注しています』


 賢者の石を生成するという偉業を成し遂げたというのにQちゃんは平常運転だ。


イザナクエスト④/禁忌と革新者

報酬/3000SP

概要/賢者の石を使用して新たな生命を生み出せ。


 「んー、新しい生命か……。ヨルに使うのがベストだよね」


 ヨルは成長して意思があるように見えるがただ賢くなっただけである。


 現状では俺の指示通りにしか行動することはできない。


 なぜかべったりと纏わりついているが、おそらく俺が寝言で何か呟きでもしたのだろう。


 『その前に【万能細胞】と賢者の石の合成をおすすめします』


 「スキルと合成ってそんなことできるの?」


 『マスターの身体はすべて万能細胞で構成されているので、ご自身と合成するということは、スキル【万能細胞】と合成することと同義です』


 「んー、不老不死になりそうで怖いんだけど?俺はそんなこと望んでないからね」


 『?万能細胞は不死性をもつ癌細胞が転じたものなので、当然その性質は受け継がれているため元からマスターは不老不死ですが?』


 初耳だ。再生スキルの上位版程度にしか思っていなかった……。


 ショックは大きいが思い悩むのはまだ早いと無理やり思考を切り替える。


 「そ、そうだったのか……、そうか……。

  -で【万能細胞】と賢者の石を合成することにどんな意味があるの?」


 『賢者の石はどんな不可能をも可能にする物質ですが例外もあります。

  賢者の石でそれを量産することはできないのです。

  再び作成するためには血液を錬成するという手順を踏まなければなりません。

  【錬成陣】に進化して錬成時間が短縮されたといっても、やはり賢者の石の生成には数日を要します。

  ですが【万能細胞】と合成することによってその問題も解決されるのです』


 『賢者の石は一部を除きどんなものでも創造できます。

  【万能細胞】もマスターの体組織であれば微細なものでさえ再現可能です。

  同じような性質を持つ両者が同化することによって賢者の石の複製が可能となります』


 複製が出来るのであれば確かに楽だ。


 賢者の石を作るたびに数日を要していては効率が悪い。


 「なるほど……、了解した」


 俺は賢者の石を自身の胸に当て錬成陣を展開する。


 「賢者の石よ!俺の血となり肉となれ!錬成!」


 赤い閃光が迸り胸から身体中に広がっていった。


 自身を構成する細胞が一つまた一つと創りかえられてゆく。


 全身が赤く染まると発光はしだいに収まっていった。


 実感はできないがきっと何かが変わったのだろう。


 俺は魔球を造り出し赤い錬成陣に魔力を通す。


 「錬成!」


 あれほど苦労して創った賢者の石があっと言う間に出来てしまった。


 左手に収まっているそれを見つめる。


 『賢者の石で【錬成陣】のスキルを最大まで上げることが可能です』


 「マジかよ!なら量産するしかないね!」


 一瞬よぎった不安はQちゃんの一言でかき消された。


 


 


 


 


 


 


 


 

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