第16話 イザナクエスト/大賢者の証跡

 『錬成Lv9以上は賢者の石でしか上げられません』


 「え!?どうして教えてくれなかったのさ!?」


 『聞かれませんでしたので』


 とんでもないことを言い出したQちゃんに賢者の石の製法を問い詰めるとあっさりと教えてくれた。


 「古龍エンシェントドラゴンって実在したのか……」


 古龍とはこの世界の創世神話に登場するいわば御伽噺の中の存在である。-と今まで思っていた。


 『実在していましたが、討伐されて以来その存在は確認されていません』


 「どこのどいつだよ!古龍を殺した馬鹿は!

  俺が賢者の石を作れないじゃないか!」


 『古龍に死の概念はないためこの世界のどこかで復活しているはずです』


 「俺に古龍を探せと?」


 『ええ。もしくは他の製法で作るかですね』


 「なんだ、古龍の血液を使わない方法もあるのか。

  最初からそっちを教えてくれればいいのに」


 『その問いに答える権限がありません』


 「またそれかよっ!」


 それ以降Qちゃんは口を閉ざしてしまった。


 仕方がないので学園の図書室で調べることにした。







 図書室に籠り何の成果も得られないまま数日が過ぎた。


 規模から考えてここは図書館といっても差し支えないだろう。


 錬金術関連の蔵書だけでも相当な量がある。


 俺はここで賢者の石の製法を求め手当たり次第に本を読み漁っている。


 Qちゃんの言って言った通り、賢者の石の材料は古龍の血液で間違いなさそうだ。


 だがわかったのはそこまでである。


 どの本にも古龍の血液を使わない賢者の石の製法は見つからなかった。


 古龍の居場所についても手掛かりは何もない。


 ほとんどの著者が賢者の石は想像上の産物であると結論付けていた。


 しかし、Qちゃんが古龍の血液を使わない他の賢者の石の製法があると匂わせたからにはそれは必ず存在する。


 Qちゃんは答えられないことはあっても嘘を吐くことはないのだ。







 息抜きのため辺りをぶらつく。座りっぱなしのため尻が痛いのだ。


 頭を空っぽにして本のタイトルだけ目で追っていく。


 やはり魔術関連の蔵書が多い。


 図書室を利用しているのはフード付きローブの制服を着ている魔術科の生徒ばかりだ。


 騎士科の連中は一部を除いて基本脳筋なので図書室に近づく者はほとんどいない。


 部屋の外周に沿って歩きそろそろ一周しようかというころ、見知らぬ文字が目に飛び込んできた。


 棚に取り付けられているタグは未分類となっている。


 この一角にある本のおよそ半数は大陸の共通言語以外で書かれたもののようだ。


 「!?」


 思わず声に出そうになるのを堪えて一冊の本を手に取る。


 そこには日本語でこう書かれていた。


 「転生したら錬金術師だった件……」


 『イザナクエスト/王都へ、を達成しました』


 「え!?この本が聖遺物なの!?」


 まさかこんな身近で見つかるとは思わなかった。


イザナクエスト③/大賢者の証跡

報酬/2000SP

概要/賢者の石を錬成し錬金術師としての力を示せ。


 これが新しいイザナクエストだ。


 聖遺物を入手したタイミングで賢者の石を作れというクエストを受注したということは、この本に古龍の血液を使わない製法のヒントが隠されているのだろう。


 俺は一度鈴蘭亭に戻ることにした。







 『泥棒は犯罪ですが?』


 「ぶー、ただ借りただけですー」


 『学園外への本の持ち出しは禁止されていましたが?』


 「後でちゃんと返すよ!」


 硬表紙と遊び紙を捲った最初のページには前書きが添えられていた。



『転生したら錬金術師だった件』という表題ではあるが私は転生者ではない。


転移ではなく転生と表現したわけを理解している諸君が拙著を手にしたのであれば謝罪しなければならないだろう。


というのもこれは小説ではなく錬金術に関する自身の私見を記したものであるからだ。


もし君が錬金術師であるのならばこのまま読み進めてもらいたい。


君の追い求める答えはこの先にあるだろう。


拙著がこの世界の理を解き明かす一助となることを願う。


― 制約の錬金術師 ―



 それほど厚くないこの本を読み終わるのにさほど時間はかからなかった。


 「古龍を殺したのはこの恥ずかしい二つ名を名乗る錬金術師とその一味か。

  どうやら全員日本人のようだけど異世界召喚でもされたのか?」


 そのあたりの事情は何も明記されていない。


 著者が述べる通りこの本は錬金術と賢者の石に関する事しか書かれていなかった。


 結論から言うと古龍の血液を使用しなくても賢者の石の生成は可能である。


 制約の錬金術師 によると、この世界に存在する生物の血液であればなんでもいいとのことだ。


 なぜ賢者の石の生成には古龍の血液を使用すると今日まで語られ続けてきたのかというと、他の生物の血液を使って賢者の石を作るのが現実的ではないからである。


 重要なのは古龍の血液に含有されている膨大な魔力で、他の生物ではそれを補うことは難しいらしい。


 『つまり無限に魔力を供給できるマスターには賢者の石の錬成は可能ということです』


 「それ言っちゃってよかったの?」


 『マスターが聖遺物を入手した時点で情報規制は解禁されました』


 「ふーん……」


 いったい誰に規制されていたのだろう。神様だろうか?


 そういえば制約の錬金術師は古龍を神と称していた。そして神殺しは大罪であるという。


 Qちゃんに聞いても答えは返ってこないだろうから今は考えないことにする。

  

 「それにしてもどうやって錬成するか……、材料は血だしな……。

  まあとりあえずやってみるか!だめなら他の方法を試せばいいだけだ!」


 空の魔球を自分の血で満たす。


 「錬成!」


 この時の俺は賢者の石を生成することの意味をまだ理解していなかった。


 




 


 

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