第14話 眷属

 王立レブルエスト学園での授業は正午には終わる。


 午前中は座学と実技の授業が行われ午後からは自主訓練である。


 もちろん何もしなくても誰からも文句を言われることはない。


 とはいえ何かしらの鍛錬をしている生徒がほとんどだ。


 この学園の騎士科の生徒は、卒業後無条件で王国騎士団への入団が認められる。


 貴族の嫡男でもない限り、出世しようと思えば強くなって騎士団でのし上がっていくしかないのだ。


 では強さとは何か。この世界では本体LvとスキルLvが全てである。


 なお本人のレベルを上げても身体的な強化を得られるわけではなく総魔力量が増えるだけだ。


 だが、スキルも魔法と同様に魔力を消費するため、本体Lvを上げることも強くなるには重要なファクターなのである。


 そのため学園の所有する初級ダンジョンに籠る生徒も多い。


 一方で俺とクリス、そして同じくAクラスになったいとこのリリアンは、午後からスキルを使用しない(二人はね)実戦形式の打ち合いをしている。


 スキルLvはただ素振りをしているよりも相手がいたほうが上がりやすいのだ。


 殺す気で斬りかかっても【自動照準】と【自動追尾】を使ってどんな攻撃も弾き返してしまう俺は、二人にとって格好の練習相手といえるだろう。


 スキルポイント制の俺にはこの訓練に意味はないが、二人の剣術Lvがそろそろカンストするというので付き合っているのだ。


 リリアンの剣戟を軽々と弾く。


 次々に打ち込まれる剣をいなし続けて数時間、突然リリアンの剣が止まった。


 「上がったかも。……、あ!剣術が剣聖に進化したぞ!

  よし!よし!やった!ううぅ……」


 大喜びしていたと思ったらしまいには嬉しさのあまり泣き出してしまった。


 リリアンが泣くほど喜んでいたのには理由がある。


 イザナ因子キャリアでない者のスキルが進化するのは極々稀なことなのだ。


 宝くじで一等に当選するほどの僥倖に恵まれたリリアンを祝福する。


 「やったなリリアン!まさか二人同時に剣術の上位スキルを得られるとはな!」


 実は今日、クリスの剣術も剣鬼へと進化していたのだ。


 「これもドットのおかげだな!」


 「うう……」


 二人には俺のスキルの事を話しており、本気で打ち込んできても問題ないと事前に説明していたのである。


 これでようやく自分のことに専念できるようになり、翌日から経験値稼ぎと錬金術のスキル上げを再開するのだった。







 「錬成ゴーレム作成!」


 自身の影の上にハーピーの魔石と闇球を置いてゴーレムを作成する。


 赤い閃光が収まると影に置いた触媒は消え去っていた。


 「無くなったということは成功した?

  影をイメージして作ったからシャドウゴーレムといったところか。

  まさか実体のないゴーレムまで作れるとはなあ」


 壊れ難いゴーレムを作成しようと考えた結果思いついたのが影である。


 というのも、ゴーレムも魔物を倒せば成長するとQちゃんから聞いたからだ。


 それに加えてゴーレムが得た経験値の一部は製作者へと還元され、おまけに【ゴーレム作成】のスキルレベルも上がるという。


 経験値稼ぎと【ゴーレム作成】のスキルレベル上げを同時にできるというわけだ。


 強力な個体を作ってそれらをゴーレムにお任せするのである。


 「シャドウゴーレム」


 自身の影に向かって呼びかける。


 すると影の中から揺らめく靄が立ち上ってきた。


 次第に姿かたちが整えられていき最終的には黒いマネキンが出来上がった。


 『やはり女形ですね』


 Qちゃんを無視してシャドウゴーレムへと手を伸ばす。


 「触れない。想定通り物理攻撃の通じないゴーレムを作れたね」


 『迷いなく胸を触ろうとするとはさすがマスターです』


 「別にいいでしょ!

  見た目はガキでも中身はおっさんなんだからお触りするのは当たり前だろ!

  って、あれ?急に揉めるようになったぞ」


 どうやら実体化もできるようである。


 『いつまで人形の胸を揉んでいるつもりですか』


 「ち、違うし!ステータスの確認をしてるだけだし!」


名無しLv1//シャドウゴーレム//魔女

固有スキル

 闇属性魔法Lv1/10

 影魔法Lv1/10

 飛行Lv1/10

職業スキル

 毒生成Lv1

スキル


 「名無しか、そうだな……、よる……、うん。ヨルにしよう!」


 それにしてもスキル構成が貧弱だ。少々心配である。


 死んでもらっては効率が悪い。


 『スキルを譲渡すれば良いのでは?』


 「それだと譲渡した後で、そのスキルを覚えたくなった時に困る」


 『SPは消費しますが再習得は可能です』


 「え!そうなの!?」


 習得可能スキル一覧を確認してみると、妻と娘に譲渡したはずの【運気上昇】と【健康】が見つかった。


 両方とも消費SPが多かったため気付かなかったのだ。


 「そういうことなら話は変わってくるな。

  スキルを譲渡してヨルを強化してやろう!」


 長い付き合いになりそうなのでSPを奮発してスキルを覚えさせていく。


ヨルLv1//シャドウゴーレム//魔女

固有スキル

 闇属性魔法Lv1/10

 影魔法Lv1/10

 飛行Lv1/10

職業スキル

 毒生成Lv1

スキル

 隠蔽Lv1/10

 気配遮断Lv1/10

 気配察知Lv1/10

 敏捷強化Lv1/10

 暗視Lv-

 自動照準Lv-

 自動追尾Lv-

 共有ストレージLv- 

 球拾いLv-

 マッサージLv-


 こんなところだろうか。


 譲渡したスキルの成長限界は、その相手に依存しているようで俺のものとは異なっている。


 そして適性のないスキルは習得することすらできないようだ。


 俺の手から離れたスキルはSP制ではなくなりこの世界のシステムに準拠する。


 魔物を狩っているうちに勝手に上がっていくことだろう。


 「いいかいヨル、君にはこれからレベル上げをしてもらう。

  それにあたって注意事項が二つある。

  ひとつ、なるべく人の目に触れないように行動すること。

  ふたつ、俺の許可なく人へ危害を加えないこと」


 ヨルはコクコクと頷いている。


 「それじゃあ頼んだよ、ヨル」


 そう言うとヨルは再び俺の影の中へと潜っていった。


 


 


 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る