第12話 模擬戦②
「ファイアボール!」
ハンスの放った魔法は左手で握りしめている闇球に吸い込まれた。
「くっ!これもダメか」
「俺に魔法は効かないってさっきから言ってるでしょ。属性を変えても無駄」
闇球は生活魔法のクリーンと魔球を掛け合わせたものだ。
クリーンは埃や汚れを吸収廃棄する闇魔法で、闇球はこの性質を受け継ぎ、相手の攻撃魔法を吸い込んでしまう。
対抗魔法として俺が編み出した魔球シリーズの闇ヴァージョンである。
「貴様!魔法を無効化する魔導具を使うとは卑怯だぞ!」
「魔導具?これはれっきとした俺のスキルだ。
というかなんで魔法でばかり攻撃してくるんだよ。
これは騎士科のクラス分け試験なんだけど?」
「魔法剣士の私が魔法を使うのに不自然はないだろう。
だが、剣での試合がお望みとあらばこちらとしても吝かではない」
そう言ってハンスは細剣を構えた。
▽
ストレージから片刃の剣を取り出す。
この剣は新しく覚えた職業スキルである造形を使って自作したものだ。
片刃の剣といったが実際にはそう見えるだけの刃のない鉄の棒である。
俺はこの学園に入学する際騎士科を選んだ。
スキルレベルの低い剣術だけでは不安が残るため、唯一最大レベルまで上がる武器スキルである棒術を習得した。
なので最初はただの鉄の棒を作った。
だがそれでは余りにも格好がつかないため剣の形に造形し直したのである。
その姿形に満足して素振りをしてみたところ違和感を覚えた。
棒を振った時よりも剣速は上がり威力も増したように感じたのだ。
Qちゃんによると、剣の形にしたことによって、棒術に剣術が加わったのではないかということだった。
俺が剣の形をした鉄の棒を作ったことにより、この世界のスキルシステムに誤作動が生じたのだ。
スキルを極めるためには通常長い年月を要するため、複数の武器スキルの鍛錬を同時に行う者はほとんどいない。
なのでこれまでこのようなエラーは起きなかったのではないだろうか。
それに加えて自作した武器という点も大きい。
刃がないので平たい鉄の棒であるが、俺はあくまでも剣を作ったつもりなのだ。
これらの偶然が重なった結果、俺はこの世界で唯一武器スキルの最大レベルの限界を突破した者になったのである。
『すでに投擲術と投球術でスキルレベルの限界は突破していましたが?』
(そういえばそうだったね……)
『棒術と打撃術もシンクロするのでこちらも同様です。
補足しますと合わせて剣術Lv15相当にあたりますが、
マスターにとってその武器は剣なので、棒術の武技は使用できません。
ただ、打撃術の武技であるフルスイングだけは使用可能です。
剣であっても全力で振ることはできますから』
(か、解説ありがとう……、で、そろそろ始めてもいいかな?)
『どうぞ。ただし手加減はしてください。
ダメージを吸収する魔導具があるとはいえ、
マスターが全力で殴れば相手は死にます』
(了解した。だいぶレベルも上がったしね)
ドット・ピリオッドLv27//人族//錬金術師
固有スキル
クエストLv-
譲渡Lv-
万能細胞Lv-
イザナ因子Lv2/10
職業スキル
錬成Lv8/10
ゴーレム作成Lv6/10
造形Lv2/10
スキル
魔球Lv10/10
投球術Lv3/3
打撃術Lv3/3
投擲術Lv10/10
棒術Lv10/10
剣術Lv2/2
Q&ALv-
生活魔法Lv-
視点切替Lv-
自動照準Lv-
自動追尾Lv-
浮遊Lv-
球拾いLv-
未使用SP2391
先に動いたのはハンスだった。
距離を一気に詰めてきたハンスは鋭い突きを放つ。
(速い!)
『身体強化魔法を使っているようです』
咄嗟にハンスの細剣に自動照準を合わせ、自動追尾を発動した自作の剣を振るう。
気づいた時にはハンスの突きを軽々と弾いていた。
▽
ハンスは焦る。
最速の突き技を間断なく叩き込んでいるがそのすべてを弾かれている。
いくら突こうとどんな武技を放とうとも簡単にあしらわれた。
ハンスにはドットの剣筋を目で追うことすらできなかったのだ。
(くそ!くそ!公爵家の私がこんな奴に負けるわけにはいかない!くそ!)
思えば最初から躓いていた。
魔法を放つと同時に相手へ接敵し突き技で相手を翻弄する。
それがハンスの戦い方だったが、ドットに魔法はすべて無効化された。
それでも自分の勝利を疑っていなかったハンスだったが、いざ近接戦になってみるとまったく手も足も出なかった。
ハンスは生まれて初めて挫折を味わったのだった。
「フルスイング!」
ドットの放った武技はハンスの剣を弾き飛ばしただけでなく、魔導具の防護壁を一撃で破壊した。
ハンスは折れた右腕を抑え天を仰ぐ。
▽
(やば、今変な音が……)
『折れましたね。あれほど手加減をと申しましたのに』
(まさか折れるとは思わないじゃない……)
審判役の教師が俺の勝ちを宣言し模擬戦は終了した。
ハンスに近づき声をかける。
「ハンスすまん。つい力が入りすぎた。折れたよな?」
「ヒール」
ハンスは回復魔法も使えたようで自分で直してしまった。
多才な奴である。
「ドットだったか、次は負けんぞ」
ハンスはそれだけ言うと踵を返して試験会場から去っていった。
「なんて不愛想な奴だ」
クリスと合流し独り言ちる。
「これであいつの選民意識が改善されるといいんだが」
騎士科のクラス分け試験はこうして幕を閉じた。
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