第11話 模擬戦

 王立レブルエスト学園には騎士科と魔術科がある。


 学園には貴族だけでなく、貴族や教会、商業ギルド、冒険者ギルドなどから推薦された者も通うことが可能だ。


 それらは主に平民であるが、王国中から優秀な人材を集めようという意図により入学を許されている。


 なので学園内で身分による差別が禁止されているのである。


 「なるほどなー。クリスは王都が地元なだけあってさすがに詳しいな」


 「王子の俺が言うのもおかしな話だけどさ、

  元日本人としては身分差ってやつに馴染めなくてな」


 「あー、それわかるわー。ただ金持ちの家に生まれたって感覚しかない」


 「ドットが羨ましいよ、王族は勝手に外出とかできなかったからな。

  だけど学園生になればある程度の自由は許される。

  俺は冒険者になりたかったんだ」


 「やっぱり異世界転生といえば冒険者だよね。

  ちなみに俺はこの間Aランク冒険者に昇進したぞ」


 「まじか……、お前スゲーな……」


 もともとEランクだったのだが、ハーピーを討伐してDに上がり、覚醒者を殺して一気にAランク冒険者まで飛び級したのだ。


 これは謎だらけのギルドカードが勝手に判断した結果であり、冒険者ギルドは関知していない。


 こうやって駄弁りながら、筆記試験を終えた俺たちは次の試験会場へと向かった。







 騎士科に進んだ俺たちの次の試験は模擬戦だ。


 魔術科の実技試験は目標物に対してただ魔法を放つだけだが、騎士科では実際に対人戦が行われる。


 といっても安全は考慮されており危険はない。


 模擬戦では一定量のダメージを吸収する魔導具を身に着けるのだ。


 勝敗は相手に負けを認めさせるかその魔導具の防護壁を破壊すれば勝ちとなる。


 事前説明では模擬戦の勝ち負けでクラスが決まるわけではないということだったが、戦う側からしてみれば目の前に倒すべき対象がいれば本気で狩りにいくしかない。


 ―と思っていたのだが、いざ模擬戦が始まってみるとどうも様子がおかしい。


 試験は五組同時に行われている。


 その内の一組にクリスがいるのだが、対戦相手は戦わずに負けを宣言したようだ。


 「おい!まだ何もしていないじゃないか!」


 「殿下相手に剣を向けるわけにはいきません」


 そう言われたクリスは引き下がるしかなかった。


 他にも上位貴族に対して忖度が行われているような組も見られる。


 観戦席にいた俺のところへ戻ってきたクリスが愚痴る。


 「現実はこうだ。これでは鍛えてきた意味がない」


 「まあ、俺たちが異端なだけであいつらの感覚のほうが自然なのかもね」


 模擬戦は次々と消化されてゆき残すは俺の組だけとなった。


 「ハンスブラント・トーレス。ドット・ピリオッド、前へ!」


 トーレス姓ということはこいつも王族の一員なのだろう。


 会場に降りてハンスと対面する。


 「おいドット!そいつは俺のいとこだからぼこぼこにしていいぞ!」


 クリスが楽し気に叫んでいる。仲が悪いのだろうか。


 「まったく品のない奴だ。王家の名が汚れる」


 「ハンスだったか?俺は誰であろうと手は抜かないからな」


 「田舎貴族風情が言うじゃないか。公爵家の僕が尊き血の力を見せてやろう」


 背の高いハンスはにやついた笑みを浮かべ俺を見下ろしている。


 (むかつくなこいつ)


 『マスターよりも高身長だからですか?』


 (違うし!そこもだけどね!)


 魔球を使えば勝負を一瞬で決めることはできるが、ハンスには新しく得た俺の力の被検体になってなってもらうとしよう。





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る