第10話 同居人
いざ王都へやって来たものの、イザナクエストの成果を何も得られないまま一週間が過ぎ、王立レブルエスト学園入学の日を迎えてしまった。
そもそも聖遺物とやらが何なのかがわからない。
これがゲームであれば、足元には矢印が現れ、目標までの距離がご丁寧に表示されて聖遺物の眠る地へと案内してもらえるのだろう。
もちろんそんな機能はスキル【クエスト】には付いていない。
おかげでこの一週間街中を歩き回りすっかり王都の地理に詳しくなった。
実を言えば早々に聖遺物探しは諦め、途中から王都観光をしていたほどだ。
先ほど引き払ってきた鈴蘭亭もその時に見つけた宿である。
(風呂付で食事も旨い実に良い宿だった)
『結局王都観光しただけでしたね』
(焦ることはないさ。なんせ学園を卒業するまでに六年もあるんだから)
『マスター、学園長の祝辞がようやく終わったようです。
感情を持たないはずのこの私をイラつかせるとは只者ではありませんね』
(感情がない?最近大分フランクに接してくれるようになったQちゃんが?)
『……、ええ、私はただのスキルですから』
(まあいいけどね)
その後、生徒会長が登壇し学園長も辟易するほど朗々と祝辞を述べるのであった。
入学式が終わり寮へ入る頃にはみなへとへとになっていた。
▽
自室に入ると既に同室の者が寛いでいた。
どうやら向こうも気付いたようだ。
俺にではなく、イザナ因子キャリアであることにだ。
だが、互いにそれを口に出すことはない。
「俺はクリストファー・トーレス。クリスと呼んでくれ」
ベッドに横たわっていたクリスは起き上がって手を差し出してきた。
「ドット・ピリオッドだ。よろしく」
クリスの手を取り俺も自己紹介する。
「ん?トーレスだって?……、まあいいか」
トーレスの姓を名乗れるのはこの国では王家の者だけである。
「お前が同室で良かったよ。
俺が王族だとわかると態度を変える奴が多くてさ」
「学園内で身分は関係無いって聞いたけど」
「建前上はそうだが、俺たちが相部屋な時点で政治的背景が窺われる。
辺境伯は王家にとって軍事、経済ともに脅威となる相手だ。
そこで子同士によしみを結ばせたいってとこだろうさ」
辺境伯はザラマート王国屈指の大貴族なのだ。
王国で流通している小麦の三割はピリオッド領産であり、オーク肉に至っては過半数を占めるほどである。
そしてもともと最強の名を欲しい侭にしていた辺境伯軍は、先日の
「考えすぎじゃないか?俺は辺境伯の
「それを言ったら俺なんて十八男だぞ。はっはっはっ!」
学園寮が個室ではないと聞いて落胆していたが、こいつとなら何とかやっていけそうだ。
▽
「ほお、ドットは錬金術師なのか。なら二つ名が欲しいところだな」
「二つ名って鋼みたいなやつか?」
「そうそう鋼とか焔とか格好良いの付けようぜ!」
「「ん?」」
二人の間にしばしの沈黙が流れる。
「「お前も転生者か!」」
自分の他にも転生者はいる、もしくはいたと確信はしていた。
というのもこの世界にも醤油やマヨネーズが存在していたからだ。
まさかこんな形で出会うことになるとは思ってもみなかった。
「そうか……、平成の次の年号は令和っていうのか……」
話を擦り合わせてみると、クリスは俺よりも後の時期から転生してきたようだ。
どうやら向こうとこの世界の間に時間の連続性はないらしい。
結局その日は夜遅くまで前世談義、主に漫画やアニメについて語り合った。
翌日はクラス分け試験があるというのに。
それにしても水の呼吸って何だろうか。
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