第8話 クエスト/街の守護者

 「僕はね、ただの冒険者さ」


 ゲイルはそう名乗っていたが後から話を聞いてみると、この国に7人しかいないSランク冒険者のうちの一人だった。


 Qちゃんによるとイザナ因子キャリアだという。


 (この変な感じがそれか)


 イザナ因子キャリア同士は互いにそれと認識することができる。


 『しかも覚醒者ですね』


 辺境伯軍の魔術師部隊や魔法の使える冒険者と共に城壁の歩廊にいるゲイルを見上げる。


 (そんなに強そうには見えないけどなー)


 ゲイルはどこか飄々としている優男だ。


 『ちなみにイザナ因子は一部の国や地域では魔王因子などとも呼ばれています。

  これは覚醒した魔物が魔王種へと進化する例が多いためです』


 (え?イザナ因子って魔物も持ってるのか……)


 街へハーピーの群れが飛来してくるまでの間に、Qちゃんからイザナ因子についての講義を受ける。


 イザナ因子キャリアの大多数は覚醒前にその生を終える。


 人以外の生物も宿主になることがあり、魔物が覚醒するとより強力な個体へと進化して最終的に魔王種となる。


 そして、世界樹はイザナ因子が植物に宿って覚醒した珍しい例だ。


 イザナ因子覚醒者は宿った素体の性質によって善悪に大きく偏る。


 よって人であっても魔王種に進化する可能性があるという。


 まだ講義は続いていたが、それもどうやら終わりらしい。


 城壁の歩廊や家屋の屋根で配置に就いていた者たちから騒めきが起こった。


 『新たなクエストを受注しました』


クエスト/街の守護者

報酬/SP3000

概要/大反乱スタンビートからエイデンの街を護りきれ! 







 様子を見ようと城壁の上まで飛び上がる。


 「マルスじい!」


 マルスはピリオッド一門で幼い頃からの知己である。


 「ドット様、遂に奴らが姿を現しましたぞ」


 東の森の方角を見るとまだ大分距離があるようだ。


 「ゲイル殿が敵を引き付けてから放つ範囲攻撃が開戦の合図となります」


 「僕は剣士ですから多数を相手にするのはあまり得意ではないんですけどね。

  ……一発です。一発撃てば僕は役立たずになるので後は頼みます」


 ゲイルはまだ点の集合体でしかないハーピーの群れを見ながら呟く。


 それから程なくして、奴らは目視できるところまで近づいてきた。


 ハーピーはどの個体も醜悪な面構えをしていた。


 ゲイルは腰に下げた剣を抜き放ち腰を落とす。


 「死出の旅路……」


 両手で握られた業物と思われる諸刃の剣に魔力が集まってゆく。


 「ゴー、トゥー、トラベル!」


 突き出された剣から眩い閃光が解き放たれた。


 閃きは城壁目前まで迫っていたハーピーの群れを包み込むように広がっていく。


 光が収まると扇状に広がっていた群れの中央がぽっかりと開かれていた。


 ゲイルは一撃で魔物の数を半分以下まで減らしたのを確認すると、その場に崩れ落ちた。


 待機していた冒険者がゲイルを安全な場所まで運んでいく。


 「魔法放てえ!」


 都市防衛に残された魔術師部隊はマルスの号令とともに魔法を放った。


 「遠距離攻撃のスキルもちは屋根の上からハーピーを地上へ落とせ!

  決して一人にはならずPTでの行動を徹底しろ!」


 マルスは冒険者たちへも指示を出していく。


 こうしてエイデン防衛戦の長い一日が始まった。







 俺はマルスとの打ち合わせ通りに、光属性の魔球である光球を城壁の頭上に設置していく。


 この光球は俺の魔力と連動しており、魔力の続く限り発光させることができる。


 つまり無限に魔力を生成することができる俺の光球が消えることはないのだ。


 俺は魔球でハーピーの頭を粉砕しながら光球を設置していく。


 城壁の歩廊を走り回り一周する頃には、暗闇の中に明かりの灯されたエイデンの街が浮かび上がっていた。


 光球の他に光源はなく、街が静まり返る中、冒険者たちの怒声だけが響き渡っている。


 魔術師や弓兵には護衛が付き、彼らに守られながら魔物たちを次々と撃ち落とす。


 地上に落とされたハーピーにPTを組んだ冒険者たちが確実に止めを刺していく。


 この一連の流れがすでに出来上がっていた。


 有利に戦闘を進めていた防衛側だったが次第に魔物に押され始めた。


 ハーピーの中にも頭の回る奴がいるようで、優先して魔術師や弓兵を狙いだしたのだ。


 「くっ!前線が崩れてハーピーが街中に雪崩れ込んできやがった」


 『このまま侵入を許せばいづれ住民にも被害が及びます』


 「そうはいっても俺一人ではな……」


 俺は魔球をハーピーに投げつけながら考えをめぐらす。


 単体攻撃手段しかもたない自分だけでは埒が明かない。


 なんとか頭上の連中を地上へと落とす方策を考えなければならない。


 「うあ」


 ずっと走り回っていたため疲れで足が縺れて転んでしまった。


 ひんやりとした石畳が火照った身体には心地良い。


 「はあ、はあ……、石畳……、石か……」


 この街の路地や広場はすべからく石畳で舗装されている。


 そして俺のストレージには大量のゴブリンの魔石が収納されている。


 「ふう、やってみますか」


 俺は魔石を辺り一面にぶち撒けた。


 ゴーレム作成のスキルを使用するのはアースゴーレムを作って以来だ。


 ゴーレムを作るためには魔石を消費するため、スキルレベル上げは後回しにしようと考えていたのである。


 飛行タイプのゴーレムを作るのはまだ無理だろう。


 なので空高く跳躍できるゴーレムをイメージする。


 とはいえ材料は石だ。


 軽量化を図るため細身の身体を想像する。


 アスリートのような滑らかで強靭な足腰をしたストーンゴーレム。


 矛盾しているが強烈なイメージと込める魔力の量で捻じ伏せる。


 石畳に両手をつき唱える。


 「錬成!」


 地面についた手のひらから赤い魔力が魔石に向かって迸る。


 俺を中心にして幾筋もの赤い閃光が広がっていった。


 周りにいた冒険者たちが何事かと固唾を飲んで見守る中術を発動させる。


 「出でよ!ストーンゴーレム!」


 俺が命じたことはただ一つ。


 ハーピー目掛けて飛び上がり、そのまましがみ付け―だ。


 一体、二体と石畳から次々と生えてくるゴーレムは、やはりマネキンのような容姿をしていた。


 生まれたばかりのゴーレムは、ハーピーを見つけると助走をつけて飛び上がる。


 ゴーレムに拘束されたハーピーはたまらずに地上へと落下した。


 それを見ていた周りの冒険者たちが止めを刺しに群がっていく。


 「今がチャンスだ!いけー!」


 「この街を守るんだ!」


 「うおお!」


 俺は黙々とゴーレムを作り続ける。


 今回は裏方に徹しよう。


 俺はゲイルのように強くはないのだから。







 すべてのハーピーを討伐し終わった頃、東の空が明るみ始めた。


 冒険者たちが勝鬨を上げると、屋内に潜んでいた住人たちが次々に表へ出て来た。


 エイデンの街の勝利を祝福するかのように暖かい朝の光が住人たちを照らす。


 そして辺りは歓声に包まれた。


 


 



 


 

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