第7話 スタンビート
ザラマート王国は大陸のほぼ中央に位置する。
辺境伯領と緩衝地帯を挟み隣り合っているのがヴォロフ帝国である。
此度の
かつてはマレリッキ王国という独立国家だったが、領土拡大政策を推し進める帝国に滅ぼされたのは俺が生まれる前の話である。
帝国はザラマート王国にもその牙を向けてきたが、辺境伯軍が護りを固める砦を落とすことができず、休戦状態に陥ってから幾久しい。
なので父が率いる辺境伯軍が国境を越えて
あくまでも越境してきた魔物の群れの討伐という守勢の立場しかとることができないのだ。
父から情報を得ようと思ったが屋敷にも庁舎の執務室にもおらず、結局冒険者ギルドへと戻ってきた。
一般市民の外出禁止の触れはすでに出され、ギルド前広場で屯しているのは冒険者だけである。
ギルドではすでに部隊編成を終え、領主つまり父からの指示を待っている状態だった。
討伐に打って出るのはCランク以上の冒険者に限られそれ以下の者は街の防衛にあたるらしい。
最初こそ騒めき立っていたギルド内だったが今では大分落ち着いている。
自称ベテラン冒険者のおじさん曰く、
「あの城壁がある限りエイデンに被害が及ぶことはねーよ」
だそうだ。
空を飛べる魔物もいるのではと思ったが、ただ盗み聞きしていただけなので何も言わなかった。
俺はこっそりと冒険者ギルドを抜け出した。
▽
「こっちの森に来るのは初めてだな」
空を跳ねるように移動しているのだが先ほどから魔物の姿が全く見当たらない。
普段豚狩りをしているのは北の森でここは東の森にあたる。
『この辺りは辺境伯軍が管理しているため魔物は駆除済みなのでしょう』
「だといいけどね」
動物の異常行動は天変地異の前触れといった迷信はこの世界でも同様である。
俺は言い知れぬ不安に駆られながらも先を急いぐ。
しばらくすると森の木よりも高い城壁が目に飛び込んできた。
地面に降りて壁を見上げる。
壁は両国を分断するように南北にどこまでも続いていた。
その威容にあっけにとられた俺は、誰何されるまで国境警備兵の接近に気付くことができなかった。
「おい!子供がこんな所で何をしている!」
「あ、俺はこれでも冒険者です!―ってあれは何だろ?」
先ほどまで見上げていた壁を越えて空を飛ぶ何かが侵犯してきた。
『新しいクエストを受注しました』
クエスト/ハーピー討伐
報酬/初回のみ100SP
概要/ハーピーを討伐せよ。
「あれがハーピーか……」
まだ距離があるので定かではないが、上半身が人型で下半身と腕が鳥の姿をしているようだ。
警備兵が弓に矢を番え狙いを定めて撃ち出したがハーピーまで届くことはなかった。
「くそっ!」
俺は魔球を作り出して【自動照準】と【自動追尾】を使い全力投球した。
魔球に頭部を吹き飛ばされたハーピーは俺たちの前に落下してきた。
「……、今のは魔法か?」
「まあ、そのようなものです」
そう答え、風球を使い垂直に飛び上がる。
壁よりも高い位置から向こう側を覗くと、ハーピーの群れが空一面を覆いつくしていた。
その群れの後方には地上からも魔物が大挙して押し寄せている。
俺は呆然とその光景を眺めながら地上へと落ちていった。
「あれを相手にするのか……」
地上に降りると警備兵が近付いてきた。
「君はエイデンまで戻って今見たものを伝えてくれ。
一応伝令は走らせたが、君が飛んでいったほうが早そうだ」
ここで出来ることは何もない。
一人でちまちま倒していてもあまり意味はないだろう。
「わかりました。このハーピーの死体は証拠として持っていきます」
そう言って俺は空へ飛び立った。
物見気分でここまでやって来た自分が恨めしい。
前世の記憶に引っ張られ、ここがゲームの中の世界ででもあるかのように錯覚していた。
今生の俺はあくまでもドット・ピリオッドである。
そのことを心に刻み込みエイデンの街へと急いだ。
▽
エイデンへ戻ると街を取り囲んでいる城壁の外には辺境伯軍が整列していた。
父の姿を見つけた俺はそこに着地して叫ぶ。
「父さん!」
「ドット!?早く避難せんか馬鹿者!」
「そんなことより国境警備兵からの伝言です!
魔物の群れは地上だけでなく空からも大挙しています!」
ストレージから首無しの死体を取り出す。
「ハーピーか……、数は?」
「ハーピーは数千、地上の魔物は見当もつかない……」
俺の曖昧な報告を聞いた父は考え込む。
「少なく見積もっても数万……、
いくら強固な城壁といえども危ういかもしれんな……、
全軍を投入したいがそれでは街が―」
父の呟きを最後まで聞き取ることはできなかった。
「カール様、ついに帝国と戦争ですか?」
整った顔立ちの冒険者然とした長身の若い男が、いつの間にか気配もなく隣にたたずんでいた。
「え?誰?」
「やっと戻って来たかゲイル!
よし!魔術師部隊は残していくからマルスが指揮をとれ!」
「ハッ!お任せくだされ!」
父の副官の一人であるマルスが拳で胸を打つようにして敬礼する。
「エイデンのことは任せるぞマルス!それとゲイル!」
それだけ言い残し父は辺境伯軍を引き連れて出陣していった。
ゲイルと呼ばれていた男は随分と父から頼りにされていたようだ。
「ゲイルさん?って一体何者?」
「ん?僕かい?僕はね―――さ!」
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