第6話 飛行

 冒険者になっておよそ半年、ギルドの依頼も受けずにオークをひたすら狩り続けている。


 冒険者ランクも初めてオークを討伐した途端に勝手に上がった。


 今ではこういうものだと割り切っている。

 

クエスト/オーク討伐

報酬/1SP 

概要/オークを10体討伐せよ。


 「うっし、あと一匹殺ればクエスト達成だ。やっと500SP貯まるな」


 このクエストもゴブリンの時と同様に、報酬は初回のみ100SPでそれ以降は1SPしか貰えなくなった。


 500SPを必死で稼いだのは【浮遊】を習得するためだ。


 ゴーレム作成と初回のオーク討伐で得た200SPは温存していたので、残りの300SPを貯めるのに半年かかった計算になる。


 本当は【飛行】を覚えたかったのだが1000SP必要だったので諦めた。


 要は【浮遊】で妥協したのである。


 というわけで俯瞰に視点を切り替えてオークを探す。


 「さてと、豚ちゃんはどこかなー。……お、いたいた」


 そろそろと風下から目視できる所まで近づき、両手に水球を作り出した。


 攻撃力という点では無属性の魔球には劣るのだが豚狩りではこれを使用する。


 ゴブリンのように魔球で頭を吹き飛ばすことも可能なのだが、それではギルドに卸した時の値が下がってしまう。


 オーク肉はボア肉のような獣臭さがなく食用として大変人気の食材なのだ。


 そして、無駄になる部位がなく骨でさえもスープの出汁を取るために使われるくらいなので買取価格が高い。


 なのでオークに傷一つ付けることなく狩るために水球を使うのである。


 「よっと」


 水球をオーク目掛けて適当に放り投げる。


 【自動照準】と【自動追尾】があるのでこれで十分なのだ。


 オークの顔面を見事に捉えた水球は割れることなくそのまま顔に張り付いた。


 魔球のスキルレベルをカンストさせた結果出来るようになった芸当である。


 水攻めにされた二匹のオークはもがき苦しんでいる。


 なんとか水球を引き剥がそうとするが、水なので当然掴むことはできない。


 あとはオークが窒息死するのを待つだけである。


 『クエスト/オーク討伐を達成しました』


 さっそく500SPを消費して【浮遊】を習得した。


ドット・ピリオッドLv16//人族//錬金術師

固有スキル

 クエストLv-

 譲渡Lv-

 万能細胞Lv-

 イザナ因子Lv1/10

職業スキル

 錬成Lv3/10

 ゴーレム作成Lv1/10

スキル

 魔球Lv10/10

 投球術Lv3/3

 打撃術Lv1/3

 剣術Lv2/2

 Q&ALv-

 生活魔法Lv-

 視点切替Lv-

 自動照準Lv-

 自動追尾Lv-

 浮遊Lv-







 『何度も説明しましたが、浮遊は浮く事が出来るだけで空は飛べませんよ?』


 「ちゃんと考えはあるって何度も言ってるでしょ」


 【浮遊】を発動する。


 身体が軽くなったと思った刹那、すっと1メートルほどの高さまで浮き上がった。


 浮遊中は常時魔力を消費するようだが、万能細胞で無限に供給できる俺には関係がない。


 全力で魔力を投入してみたが5メートル程度が限界のようである。


 空中で走ったり泳いだりしてみたが前進する気配はまったくない。


 『だからあれほど言ったではありませんか、浮くだけだと』


 「ここからが本番だよ」


 決して強がっているわけではない。


 進まないのは動力源がないからだろう。


 なければ作ればいいだけの話である。


 生活魔法の送風を背後へ向けて放つ。


 「お!前進したぞ!」


 『……、歩く速度よりも遅いようですが……』


 「ただの実験だから問題ない。まあ見ててよ」


 少し高度を下げ、手のひらに魔力を集中させる。


 「俺にはこれがあるのだよ!風球!」


 握りしめた魔球の内部では緑色の魔力が渦巻いている。


 それを地面に向け角度をつけて叩きつけた。


 風球が割れた際に起こった衝撃波に乗り、俺の身体は大砲に込められた弾丸のように打ち出された。


 「これだけの速度が出せれば飛んでいると言ってもいいんじゃない!?」


 『ですがそのうち落下しますよ?』


 たしかに俺の身体は緩やかにだが落下している。


 「それはこうするんだよ!」


 着弾する寸前、風球を同じように地面へと叩きつけた。


 俺は再び空へと飛び出す。


 こうして空に何度も放物線を描きながらエイデンの街へと帰還した。







 冒険者ギルドへ顔を出すとどうやら様子がおかしい。


 夕暮れ時に混雑するのはいつものことだがどこか殺気立っている。


 とりあえずギルドに併設されている解体作業場へと向かう。


 魔物を納品するときは通常買取カウンターで行われるのだが、俺の場合納品数が多いので直接持っていくのだ。


 「おう!ドット、今日は買取はできねーぞ!」


 豚狩りをするようになってから懇意になった作業場の責任者であるフランクのおっちゃんだ。


 「何かあったんですか?」


 フランクは渋面を作りながら口を開いた。


 「ああ。隣国の国境付近の街で大氾濫スタンビートが発生したらしい。

  場合によっちゃー辺境伯領にも流れてくるかもしれねーって話だ」


 俺は踵を返して屋敷へと急ぐのだった。


 


     


 



  


 

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