第4話 パワーレベリング

 俺には同い年の双子のいとこがいる。


 そのリリアン(兄)とリズ(妹)が現在我が家に逗留中だ。


 二人はおよそ一月ほど滞在し、辺境伯軍による護衛付きのレベル上げを一緒に行おう予定である。


 いわゆるパワーレベリングというやつだ。


 貴族の子弟は十二の歳になると王都にある全寮制の学院に通うことが義務付けられている。


 その前に少しでもレベルを上げておこうというのである。


 ちなみに姉のケイトも今年入学して王都の学生寮で暮らしている。


 そしてレベル上げの日を翌日に控えた俺たち三人は、庭でそれぞれの鍛錬に励んでいた。







 「ドットは剣術を覚えないのか?」


 騎士の天職を得たリリアンは一心に剣を振っている。


 こいつは俺よりも身長の高いイケメンだ。


 「俺に剣の才能はないよ」


 「そんなのやってみないことにはわからないだろ」


 俺は剣術のスキルレベルが2までしか上がらないことを知っている。


 本当に剣の才能がないのである。


 「そもそも俺は錬金術師だし、

  父さんから将来は自由にしていいと言われているからね」


 「ならわたしはドットのお嫁さんになる……」


 先ほどから俺に回復魔法をかけ続けていたリズが突然宣言した。


 「それは許さん!」


 「なんで俺じゃだめなんだよ!このシスコンが!」


 超絶美少女のリズがお嫁さんになってくれるならこれほど嬉しいことはない。


 「シスコン?意味は分からないが不快な響きだな……」


 『リズがマスターに嫁ぐ可能性は低いでしょう。

  聖女の天職を得たリズには、

  既に幾つもの縁談の話が上っているいるものと思われます』


 (うるさいぞQちゃん!俺はリズと結婚する!)


 「おいリリアン!手が止まっているぞ!さっさと剣を振れ!」


 「くっ!とにかくお前にリズはやらん!」


 俺たちが言い争いをしているうちに、天然のリズは俺に回復魔法をかけるという作業に戻っていた。


 一方俺が何をしているのかというと錬成のスキルレベル上げである。


 無属性の魔力を万能細胞で水属性の魔球に変質させて水球を作り出す。


 その原水を錬成して純水に変えているのだ。


 不純物を取り除いた水球をストレージに収めて純水であることを確認する。


 これを延々と繰り返している。


 『錬成のスキルレベルが2に上がりました』


 (ようやく上がったか……)


 気付けばストレージの一マスに百球以上の水球が収納されていた。


 『同一物であれば一マスに999収納することができます。

  純水で錬成Lv3まで上げることができるのでまだまだ入りますね』


 (そ、そうだね……)


ドット・ピリオッドLv1//人族//錬金術師

固有スキル

 クエストLv-

 譲渡Lv-

 万能細胞Lv-

 イザナ因子Lv1

職業スキル

 錬成Lv2

スキル

 魔球Lv5

 投球術Lv1

 打撃術Lv1

 Q&ALv-

 生活魔法Lv-

 視点切替Lv-

 自動照準Lv-

 自動追尾Lv-







 木漏れ日が青々とした下草や灌木の茂みを照らし出している森の中を、辺境伯軍の兵士と父に護衛されながら進む。


 (少し離れたところに木の生えていない場所があるな)


 俺は今【視点切替】を使って近辺を俯瞰している。


 ゲームのように自身を中心に360度どこでも見ることが可能だ。


 画面の中にいる自分を見ているといったところだろうか。


 (Qちゃんさ、俺の目線ってどうなってる?目玉だけぐるぐるしてないよね?)


 『そのような状態にはなっておりません』


 (なら安心して使えるな。ただ慣れないと少し酔うねこれ)


 視点を一人称に切り替えて目頭を揉み解す。


 しばらく進むと先ほど発見した開けている場所に到着した。


 やはりここが目的地だったらしい。


 「ここで狩りをするぞ。皆はゴブリンを生け捕りにしてきてくれ」


 父の合図とともに家臣たちが四方へと散っていく。


 護衛として残っているのは父だけである。


 リリアンとリズは緊張しているのか落ち着きがない。


 俺は暇だったので適当な木目がけて投球練習をすることにした。


 庭では一度も全力で投げたことがなかったので、魔球にどれだけの威力があるのか確かめるのだ。


 高校時代はピッチャーではなかったが、投球術を習得したせいか身体が流れるように動く。


 指先から離れ放たれた魔球は狙い通りに見事命中し、樹幹を粉砕された木は大きな音を立てて倒れた。


 「「「「……」」」」


 魔球の威力にも仰天したがその球速も凄まじかった。


 150キロ以上出ていたのではないだろうか。


 「これが最近ドットが身に付けたという魔球か……。

  一度も聞いたことのないスキルだな……」


 父が何やら思案しているとゴブリンを抱えた家臣たちが次々と戻ってきた。


 手足を縛られ猿轡までされたゴブリンが計九体並べられている。


 「よしお前ら!今日はレベルを一つ上げることが目標だ。

  まずはドット、お前がやれ」


 尻込みしているリリアンとリズを見た父が俺を指名してきた。


 「父さん、殺し方は何でもいいの?」


 「構わん」


 一応腰には剣を佩いているが悪臭を放つゴブリンに近づくのは憚られた。


 俺は威力を押さえた火球を作り放り投げる。


 火球が着弾するとゴブリンは一気に炎に包まれ消し炭となった。


 直後ゴブリンから流れ込んできた何かが俺の身体を火照らせた。


 『レベルが上がりました』


 「おお!レベルが上がったみたい!」


 そして何故か父に拳骨を落とされた。


 「痛っ!父さん何するのさ!」


 「馬鹿もん!森の中で火属性のスキルを使う奴があるか!

  火事にでもなったらどうするつもりだ!」


 普段は温厚な父に初めて殴られ、とぼとぼと後ろへと下がるのだった。


クエスト/初めての魔物討伐

報酬/100SP

概要/魔物を倒してみよう。


クエスト/ゴブリン討伐

報酬/初回のみ100SP 

概要/ゴブリンを討伐せよ。


 報酬を受け取りあとは大人しく見学する。


 リリアンは剣、リズは光属性魔法のライトアローでゴブリンに止めを刺していた。


 二人とも俺とは違い一体ではレベルが上がらなかったようだ。


 リリアンは三体、リズは五体倒したところでレベルが上がった。


 ゴブリンに個体差でもあったのだろうか。


 『上級職になるほどレベルは上がりづらくなります』


 (やっぱり錬金術師は下級職だったか。まあ、レベルが上がりやすいならいっか)


 記念にゴブリンの魔石を一つずつ貰い帰還することになった。


 「三人ともなかなか筋がいいぞ。

  中には魔物ですら殺生することを躊躇う者もいるくらいだからな。

  よし!明日からは三人だけでレベル上げするといい。

  もちろん護衛は付けるがな」


 「「「はい!」」」


 「それからドットは剣術を習得するように。剣術は貴族の嗜みの一つだからな」


 ただでさえ貴重なSPを剣術には使いたくはないが、父は家長命令だと言わんばかりに睨みを利かせてきた。


 俺は仕方なく頷くのだった。


 




 


 


 


 


 


 


 


 


 

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