第2話 クエスト/チュートリアル

 一瞬の暗転の後、眩い煌めきが目に飛び込んできた。


 俺に降り注いでいた光芒が徐々に収まってゆく。


 視界が晴れると神父のような男性、小綺麗な身なりをした男女とメイドが、ベッドに横たわっている俺を心配顔で見下ろしていた。


 両親のカールとナタリー、そして俺付きのメイドであるミーナだ。


 彼らを視認した途端それがわかった。


 俺はドット・ピリオッドなのだから当然のことだ。


 というのも、今回の件で前世の記憶を思い出しただけなのである。


 それが必然の帰結なのかはわからないが、ドットよりも日本人としてのアイデンティティーがより強くなってしまったのは確かだ。


 ドットの倍以上生きた記憶をもっているのだから仕方のないことだろう。


 「おはよう。あれ?みんなどうしたの?」


 ―が、今は落馬事故から生還できた僥倖を素直に受け入れようと思う。







 真夜中目が覚める。


 長い間寝ていたためか生活リズムが大分狂ってしまったようだ。


 「これから眠れそうもないし、ステータスの確認でもするかな」


 【運気上昇】と【健康】は妻と娘に残してきたので、俺は【クエスト】と【譲渡】の二つのスキルしかもっていないはずである。


 しかしドットが昏睡状態から快復したのは祝福の儀を行ってスキルを得たから、ということになっている。


 何かしらの治療を行うスキルや魔法を習得していなければ辻褄が合わないのだ。


 意識を自身の内側に向ける。


ドット・ピリオッドLv1//人族//錬金術師

固有スキル

 クエストLv-

 譲渡Lv-

 万能細胞Lv-

 イザナ因子Lv1

職業スキル

 錬成Lv1

スキル


 ステータスは想像していたよりも素っ気ないものだった。


 「職業とスキルだけ……、HPや魔力の値は表示されないのか」


 『クエスト/チュートリアル①を達成しました』


 「ん?あの時の声と同じ人か……、ねえ、それはどういう意味?」


 やはり一方的に話しかけてくるだけのようだ。


 「おーい。無視ですかー」


 返事が返ってくることはなかったが、いつの間にかARのように歯車マークが目の前に浮かび上がっていた。


 PCやスマホでは設定に使われているピクトグラムだ。


 「……」


 歯車をタップしてみるが反応はない。


 次に長押しを試してみたところ同じく反応はなかったが、視界内であればどこにでも移動させることができるようだ。


 「なるほどね」


 歯車を二度軽く叩いてみる。


 すると半透明のスマホの画面のようなものが現れた。


 自在に拡縮できるそれには、クエスト、スキル、装備、所持品のタブが設定されていた。


クエスト/チュートリアル①

報酬/SP100

概要/ステータスを確認してみよう。


 報酬を受け取り、画面右上の隅にある×印でポップアップを閉じると新しいクエストが発生していた。


クエスト/チュートリアル②

報酬/スキル【生活魔法】

概要/スキルポイントを消費してスキルを覚えよう。


 「本当にゲームみたいだ」


 ―が、この世界のスキルはポイント制ではなく、厳しい鍛錬の結果ようやく身に付けることができるというものである。


 自分だけ別仕様ということだろうか。


 とにかくタブをスキルに切り替えてみた。


 先ほどの固有スキル、職業スキル、コモンスキルが並んでいる。


 「んー、とりあえず万能細胞とイザナ因子をみてみるか」


 この二つは【運気上昇】【健康】の代わりに習得したものだろう。


 【万能細胞】に触れるとテキストポップアップが表示された。


万能細胞

 細胞を複製、増殖、変質させることができる。

 その効果により四肢の欠損どころか、細胞の一片さえ残っていれば全身を復元可能である。

 世界を渡る際、空白のスキル欄によって生じたエラーが原因となり癌細胞が転じたものと考えられる。

 なお、自身の支配下にある為危険はない。

     


 「昏睡状態を快復させたのはこのスキルっぽいな。

  それにしても凄いスキルだ……、これがあれば絶対に死なないよな……」


イザナ因子

 スキルや職業などの進化の要因となるもので、スキルレベルを最大値まで上げた者は覚醒者と呼ばれる。

 イザナ因子キャリア同士はその存在を認識することができる。

 その他の詳細は不明。


 『クエスト/イザナを受注しました』


クエスト/イザナ

報酬/不明

概要/不明。


 「なんだこれ?

  クエストの目的がわからないと何もできないじゃないか。

  おーい、天の声さーん。聞いてますかー」


 『……』


 「頑固なやつだな……。まあいいか、クエストを進めよう」


 空欄となっているコモンスキルに触れると習得可能なものがリスト表示された。


 スキルは星の数ほどあるが、素養がない限りいくら努力しようとも身につくことはない。


 しかもコモンスキルには成長限界というものがあり、その値に達するとそれ以上レベルが上がらなくなる。


 通常限界値を知る術はないのだが、表示されたリストにはその全てが記載されていた。


 「世間で言われている通りスキルレベルは10で最大なのか」


 ざっとリストに目を通してみると、こっちの世界では聞いたこともないスキルが多分に含まれている。


 投球術や打撃術のスキルが発現したのは元高校球児だった影響だろうか。


 「どっちも成長限界が低い……、補欠だったのも納得だな」


 とりあえずSP100以下で覚えることができる目ぼしいスキルをピックアップしてみた。


スキル名/成長限界Lv/消費SP

魔法

 火属性魔法/2/100

 水属性魔法/6/100

 風属性魔法/3/100

 土属性魔法/5/100

武器  

 剣術/2/100

 盾術/1/100

 槍術/5/100

 棒術/10/50

 投擲術/10/50

補助

 身体強化/5/100

 敏捷強化/5/100

 隠蔽/10/100

 気配遮断/4/100

 気配察知/4/100

 苦痛耐性/10/50

 毒耐性/10/50

 暗視/-/30

その他

 魔球/10/10

 投球術/3/10

 打撃術/3/10

 視点切替/-/10

 自動照準/-/10

 自動追尾/-/10、等々。


 上記のスキルが全てではないが使えそうなものはこれぐらいだろうか。


 大分前世の記憶に影響されているように感じる。


 苦痛耐性や毒耐性の成長限界が高いのは長い闘病生活を送っていたからだろう。


 ちなみに魔球は高校時代に遊んで投げていたへなちょこカーブの呼称である。


 「剣術の才能はなかったか……、これでは騎士にはなれないか」


 「んー、そもそも天職が錬金術師だからなー」


 「魔法も中途半端だし将来はポーション屋になるしかないのかな……」

  

 「冒険者になるという選択肢もあるが、

  はたして棒術と投擲術だけでやっていけるものだろうか」 


 俺はこうして日が昇るまで悩み続けるのだった。                       

                         



 


 



 


 


 


 


 


 


 


 

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