第7話 束の間
刻限を告げる鐘の音が鳴り響く
それは鱶丸が沙紀美を待ち始めてから一時間以上が過ぎた証拠だ。
「……ちょっと、遅いな」
早朝、先に登校する際に彼から聞いた話では、放課後の予定は大体三十分~四十分程度と言っていた。
仮に不測の事態が起きたとしても、余程の事がない限り一時間は超えないだろう……そう鱶丸は考えていたのだが、予鈴の音が響き終わっても現れる様子はなかった。
「予定通りに進んでないのか?それとも、沙紀美の予想が間違ってたのかな」
弄り飽きたスマートフォンをスリープ状態にし、教室の入り口を見やる。
空は既に教室を後にしていた。
他の生徒もとっくに部活や帰路に向かっていて、残っているのは彼だけだ。
「青乃も遅いな。約束破るような奴じゃないんだが……」
本来なら一緒に待っているはずの青乃もその場にはいなかった。
「昼飯買いにコンビニに行ってたとしても流石に遅いよな」
背もたれに背を押し付け、椅子の片足でバランスを取る鱶丸。
くわくわと揺れる天井を見上げるも、青乃がまだ来ていない理由は分からない。
「沙紀美はともかく、青乃は変だよな……」
独り言ち、しばし無言になる。
揺れる天井を見続ける事数回。
「よし」
鱶丸は思いついたかのように立ち上がると、鞄を肩に掛けた。
右手に持っているスマフォの電源を起動し、SNSで誰かにメッセージを送る。
「これですれ違いになっても大丈夫だろ」
送信の完了を見届けて再びスリープにしてポケットにしまうと、教室の出口へと向かって行った。
…のだが。
「いや、移動する必要はない」
「……?」
逆側の入り口から聞こえてきた声に振り向く。
そこに居るのは、青乃を背負った森田と、同様に沙紀美を背負った那須だった。
背負われている二人の衣服は乱れ、微かに埃で汚れているようだ。
「……は?」
突然の出来事に言葉を失うも鱶丸はすぐさま沙紀美たちの方へ駆け寄る。
「沙紀美!青乃!?何だこれ、どうしたんだよ!!」
二人に声をかけるも起きる様子はない。呼吸はあるため死んではいないだろうが、呼びかけても反応がないというのは尋常ではない。
「おい!!お前らが何かしたのか!?」
「ち、違いまっ」
那須の言葉も聞かず鱶丸は森田の襟首を掴み上げる。
「待て待て待て!落ち着け!!」
「出来るわけねーだろ!!」
声を荒げて掴む手に更に力がこもっていく。
「お前、マジで…やめ……」
「鱶丸君!!!違います!」
「何が違うん・・・」
「よく考えろ、馬鹿野郎」
言い切るよりも早く、どこからか鱶丸の頭に手刀が飛び、その衝撃で森田の襟元から手が離れた。
「いってぇ!?誰だよ!」
「オレだよ、クソ馬鹿」
攻撃されたと思しき方向に振り向く。
そこに居たのは、陶器やらガラクタやらが集まったような人型のナニカだ。
「……誰?」
「ゲホ、ゴホッ…!
すまん、助かった。セト」
「うるせーバカ。ガキにやられてんな」
音も無く現れた異形と呼べる存在に悪態を吐かれ口ごもる森田。
「…お前がやったのか」
セトと呼ばれた、恐らくは妖怪を鱶丸は睨みつける。
「だから違うって。なぁおい、大丈夫かコイツ」
「セ、セトさん!あんまり煽らないでください!」
「へーへー。ま、いーや。とりあえずこっちこい」
呆れたようにため息を溢したセトは教室の中に入るようみんなを促す。
「そうだな。誰かに見られたらまだ困る」
「……そうかい」
廊下を確認する森田の言葉に渋々頷いた鱶丸はセトを睨みつけたまま教卓近くの席まで向かった。
それに続くようにして森田と那須も教室へ入り、背負っていた二人を付近の、机に突っ伏す形で椅子に座らせた。
「……で、誰がやったんだよ」
二人が座らされたのを確認し、机の上に腰を下ろしたセトを問い質す。
「知らない奴だ」
そうして、返ってきたのは怒りを逆なでするだけの答えだ。
「知らないって……」
「事実なんだから仕方ないだろ」
「…っ!ざけんな!そんなんで納得できるわけないだろ!!」
椅子を弾き飛ばし、怒りのまま立ち上がる鱶丸。
間髪入れず、セトも勢いのまま鱶丸の襟首を掴み上げる。
「だとしても!オレ達がやったわけじゃないって事くらいはすぐわかんだろ!!
どう見たって、倒れてた二人を助けてきた、そうだろ!?」
「ぐっ……!」
「おい!やめろ!!」
森田の制止も聞かず、セトは更に続ける。
「いいか。オレはお前がどうなろうが知ったこっちゃねぇ。けどな、オレの相方に手ぇ出そうってんなら話は別だ。
興味がないままでいてほしいっつんなら、行動には気を付けるんだな」
言い終えると同時、セトは押し飛ばすように解放した。
騒音と共に床へ尻もちをつく鱶丸の元へ那須が慌てて駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか、鱶丸君!」
「あ、あぁ。平気だ」
「セト!気を遣ってくれんのはありがてぇが、保護対象を傷つけるってのはダメだろ!」
「はん!話聞いてなかったのか?オレはこいつの命になんか興味はねぇって。
それに、その馬鹿には早いうちに灸をすえてやらねーとって思っただけだ」
相方と言った男の怒声を気にも止めず、再び机に座るセト。
「どういうことだ?」
彼女の言葉に、森田は訝し気に聞き返す。
「…あの女が帰る時に言ってた言葉は覚えてるか?
アイツは、遅かれ早かれまたオレ達のとこへ来る。その時に、すぐ冷静さを欠いちまうような奴がいれば足手まといにしかならねぇ。だからだ」
「だから…って。だとしても、もうちょいやり方があるだろ」
「あぁ。あるだろうな。けど、これ以上に効果的な方法は無いんだよ。あったとしても、それはあの女と対面してなきゃ無理だ。
優しく言って変われたかどうかを確認出来る時に、死んじまったら笑えねーだろ」
「そりゃあ、そうだが……」
「いや、その通りだと思います」
セトの持論に言い返そうとするも続かない森田。
だが、彼の隣から彼女を肯定する言葉が聞こえていた。
「…鱶丸君。平気か」
「はい。怪我とかはないです。けど」
腰の辺りを押さえて話すのは鱶丸だ。
彼は森田に頷いて怪我の有無を答えると、申し訳なさそうに続ける。
「さっきはすみませんでした。焦ってたとはいえ、手を出すべきじゃなかったです」
そう、頭を下げた。
「…いや、大丈夫だ。と言うか、悪いのはこいつだしな。
こっちこそ済まなかった」
それに対し、森田も謝罪を口にした。
「ケッ、気色わりぃ。
まぁいいや。とりあえずこの辺にはもうあの女はいなかったぜ」
そんな二人のやり取りを見て気分が悪くなったのだろうか。セトは「うへぇ」と吐く真似をした。
「そうか、わかった。ありがとな、セト。
……でも、後で説教だ」
「へーへーへーへー。わーってるよ。
……あぁそれと。そこの二人は寝てるだけだ。それじゃあな」
気怠そうに返すと、セトの姿は見えなくなった。
「……ったく、これだから年寄りは嫌だ、なんて言われるんだよ。時代が違うっつーの」
彼女の気配が完全に消えた事を確認した森田はため息を吐く。
「それでも正しい事を言ってたと思います」
「いい、いい。気にするな。あいつはあーいう奴だから。気なんか遣わなくて大丈夫だ」
「は、はぁ」
くたびれた様子で椅子に腰を下ろす森田。
しかし、直ぐに真剣な表情に変わる。
「で、さっきの話の続きだが。
……今回、彼ーー青乃君、だったか?と沙紀美君の前に現れたのは、例の三人をやったのと同じ奴だと思う」
「えっ」
唐突な、けれど当然な推測を耳にした鱶丸は僅かに動揺をみせる。
それはそうだろう。もしこの考えが正しければ、二人に危険を招いたのは他でもない、鱶丸(じぶん)自身なのだから。
「そいつは女だったんだけどな、どうも、刀を持っていたみたいなんだ。それに妖怪のセトと渡り合ってた。憑かれてる俺が言うとアレかもしれんが、あいつは中々強い。なのに、あの様子じゃちょっと押されてたっぽい」
だが、森田は彼の葛藤を意にも返さず話を続ける。
「犯人の目星は[鋭利で刃渡りのある刃物を持った、人を三人も切り裂くけるような大柄の男]なんだが、体格と性別以外がぴったり当てはまってる。
事件内容が人外レベルの時点で性別は関係ないと思ってる俺たちからすれば、あの女でまず間違いないだろう。
…疑ってなかったとしても、あれだけの身体能力があれば充分容疑者に値するけどな」
「じゃ、じゃあ、もしかしたら今ごろ二人は……」
ちらり、と、未だ気を失っている沙紀美と青乃を見る鱶丸。
脳裏に過るのは、とても嫌な映像。
「あぁ。死んでいたかもしれない。
……どうも、沙紀美君に関しては事情が少しばかり違うみたいだけどな」
含みのある言い方に眉根をひそめる。
「【シエル】。鱶丸君はこの言葉に聞き覚えあるか?」
「……いえ。少しも」
「あの女ーーノエルは、沙紀美君の事をそう呼んでいた。戦闘中も彼を気に掛けるような事を言っていたし、沙紀美君……と言うよりかは、[シエルに見える沙紀美君]である内は大丈夫かもしれない。
ただ、その周りの人間の命には興味はなさそうだったけどな」
「それって、どういう……」
「分からん。現状ある情報だけじゃ、[無差別殺人]、[妖怪憑き狩り]、[シエルを探す]、[妖怪憑きに攫われたシエルを探す]のどれなのかも決められん。
この中なら、攫われたからーーってのが一番可能性が高いだろうが、だとしたらろくに接点がないはずのあの三人を殺す理由が説明できない。
一応、鱶丸君を狙う時の道具として使おうとしたから、ってこじつけは出来るが、だとしたらやりすぎだ。彼女の実力があれば脅すだけで充分過ぎるほど効果がある。殺す…ましてやバラバラにするなんて非効率だ。
まともな人間ならリスクの方がデカすぎて思いとどまる」
淡々と理由を説明する森田の言葉で鱶丸は表情に陰りを見せる。
初めは鱶丸(じぶん)を狙っていたかもしれない人物が、何故か弟である沙紀美に妙な執着を見せている。
森田の言葉を借りれば[妖怪憑きの鱶丸(じぶん)が沙紀美(シエル)を攫ったから狙われているかもしれない]と言えるのだろうが……
「……でも、沙紀美は間違いなく俺の弟です。シエルなんて名前じゃないし、まして攫ってきただなんて、あり得ないです」
「…あぁ。分かってるさ」
真っ直ぐ森田の目を見据えて、鱶丸は言い切った。
「……さて、頃合いか」
「…?」
鱶丸の心からの言葉を受け止め、微笑んで頷いた森田。彼は時計を見て頷くと、椅子から立ち上がる。
「沙紀美君と青乃君を起こしてやってくれ。そろそろ、先生を連れてきた那須が来るはずだ」
教室の出口を見つつ告げられ、鱶丸は初めて那須がここからいなくなってた事に気が付いた。
「俺達はこれから事後処理をするからよ。お前らはさっさと帰った方がいい。質問攻め嫌だろ?
事情聴取の真似事は後で俺らがやるから、それまでに話をまとめとけ」
言いながら、少し離れた位置に落ちていた鞄を拾い上げ、彼に手渡す森田。
「は、はぁ」
それを受け取った鱶丸はあまりよく状況を飲み込めていないのか、生返事を返した。
「……ん、那須から電話が来たな。ほれ、さっさと行け」
「あ、は、はい」
どこか強い口調で言われ、指示されるままに二人を起こそうとする鱶丸。
変わらず机に突っ伏す形で座っている彼らの肩に手を置こうとすると、「そうそう」と、森田が続けた。
「沙紀美君の首元に絆創膏が貼ってあると思うが、あまりに気しないでやってくれ」
「……?わかりました」
とりあえず頷き、今度こそ沙紀美達を起こし始める鱶丸。
そうして、最初に目が覚めるも状況を飲み込めていない青乃を引き連れ、二度目の催促までに起きなかった沙紀美を背負い、鱶丸は教室を後にした。
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暗闇が、広がっている。
そこに何かを置けば吸い込まれて見えなくなってしまうんじゃないかという程の真っ黒な闇が、どこまでもどこまでも広がっている。
「……ここは?」
その中に、一人の少年が立っている。
身寄りもなく、導べも見当たらないこの場所に、ただ、ぽつり、と。
「どうしてこんなとこに……?僕は確か…」
辺りを見回し、少年は、薄れている記憶を手繰り始める。
初めに思い出したのは生徒会室を出て行った時の事だ。
夏休み中に申請された部活や各委員会の資料をまとめ終え、兄の待つ教室へと向かう最中、彼はふと寄り道をしていこうと考えた。
特に理由はない。本当に、ただ何となく外を歩きたくなったからだ。
ついでに花壇や木々でも見てこよう。そう新しく沸いた思いも添えて。
そうして辿り着いた桜の木の下。
夏ももう終わりに向かっている頃だ。桃色の花弁なんかは一つとして散っていない。
……けれど、そこには、思い起こしていた桜の木よりも美しく見える女性が立っていた。
ぎらつく太陽の光を浴びて白銀に輝く長い髪。
照り返しを錯覚し、思わず目を覆ってしまいたくなるような透き通った白い肌。
そして、触れたいと考える事さえ出来ない程に整った美しい顔立ち。
とても同じ人間だとは言えないくらい完成された、見た事も無い少女。
なのに、少年は僅かな既視感を覚えていた。
『……見つけた』
『え?』
まとわりついてくる夏の暑さを拭い去るほど澄まされた声。
『シエル。やっと、見つけた』
その声は、少年を聞き覚えのない言葉で呼んだ。
『……あの、どうかしましたか?御兄弟を迎えに来られたとか……』
見た事も無い制服に身を包み、聞いた事もない名前を口にしたその少女を、少年は僅かに警戒しながら話しかける。
『きょうだい……?……えぇ、えぇそう。姉弟。私は姉弟を迎えに来たの』
まるで、知らない言葉を使われたような反応を示すも、瞳を閉じ噛み締めた風に頷く。
『そ、そうですか。でしたら、あちらに職員室が…』
ーーあぁ。この人はきっとマズい人だ。
少年の中に、そんな想いが過る。
『…えぇ。そうね。姉として、御挨拶に行くべきね』
『は、はぁ』
やはり、不可思議な事を口走る。
ーー今時、用事もないのに学校に来て、職員にお礼か何かを言いに来るなんてやっぱり変だ。先生には悪いけど、押し付けてしまおう。
疑いが確信に変わり、生徒会としての最低限の義務を果たそうと心に決めた少年。
『でも、その前に』
『……え?』
そんな彼が少女の前へ行き、職員室まで案内しようとした時、彼女は少年を抱きしめた。
『寂しい思いさせてごめんね。もう、大丈夫だから』
耳元から鼓膜へ。鼓膜から脳へ。一瞬にして伝わっていく少女の優しい声。
………それが、少年の思い出せる一番新しい記憶だった。
「……結局、あの人は何だったんだろう」
今思い返してもやはり謎の多い彼女の行動。
少年にとって彼女は[校内に居たおかしな女性]でしかなく、一度だって会った記憶はない。
「けど……」
知らぬ間に左耳へとのびてしまう指先。
微かに、彼女の声が残っているような不思議な感覚は、少年に妙な温かさを覚えさせる。
「……悪い人じゃ、無かったのかな」
胸中に訪れる不意な安らぎは、まるで……
そう、既視感に答えを示せそうになった時。
「…雨?」
どこからともなく、雨音が聞こえてきた。
「こっち、かな」
反響する音に従い闇を進んで行く。
壁のようなものはなく、地面さえ自身で踏みしめなければ確認出来ない程不確かな空間は、やがて[それ]を少年に見せた。
「なに、これ」
映画館のスクリーンを想起させる画面が映すのは深い森だ。
冷たい雨が降りしきる中を駆ける二人の子供。びしょ濡れの服も構わず走り続けている。
木々を抜け、ぬかるみを抜け、二人が行きついた先は見晴らしのいい崖だ。
上がった呼吸のまま辺りを見渡す片方の子供。
月が雲に隠れているせいで顔は見えない。だが、その子がもう一人の子供をどこかへ逃がそうとしている事だけは分かった。
けれど、辺りには隠れられそうな岩陰さえない。見えるのは、来た道に生えている木と、背にある荒れ狂う海。
轟雷と聞き違えてしまうくらいに猛る波音は、辺りを見ている子に最悪の場合を想定させるのに充分だった。
『……とも…ら、いっそ…』
ノイズの混じる言葉を溢し、もう一人の子を見つめる。
『……!!』
振り返った先。森の中から聞こえるいくつもの足音と怒号。
『…ね。かな……えに…から』
映像を見ている少年に聞き取れる声は少ない。
だが、当人にしてみればそれの言葉は決して受け入れたくない事だったのだろう。
『…!………!!!』
片方の子に抱き着き、涙を流しながら拒んでいる。
そうして、その時は訪れてしまった。
森の中から現れる、一人の人間。
背丈は分からずとも、手元から伸びる微かな金属の光沢が、二人にとって危険な人物だと教えてくれた。
ゆっくりと、恐怖を煽るように歩み寄るそいつは二人に近寄ると、光沢を示す金属ーー恐らくは刃物ーーを大きく、振りかぶった。
瞬間、雷鳴が轟いた。
爆発にも似たその音は、天空を駆け巡ったわけではない。
二人の子供の間近くから飛翔する龍のように天を突いていた。
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「うわっ!!」
「うお!?」
ほんのりと涼しい風が吹き渡る歩道で上がる二つの驚き声。
太陽は中天より傾き、日差しも心なしか柔らかくなっている。
「あ、あれ、今の雷は…?」
そんな中で焦りを見せているのは鱶丸に背負われた沙紀美だ。
「雷…?そんなの聞こえなかったな。
てか、ようやく起きたか。沙紀美」
「あ、アニキ。僕、どうなって……」
自分の身体の下に兄がいるだけでなく、辺りを見回してみれば、そこは校内でも校舎内でもないのだから尚更沙紀美は頭を悩ませてしまう。
「ん?あぁまぁ、ちょっと色々あってな。詳しくは家に帰ってから話すよ」
しかし、鱶丸から返ってきたのは言いようのない微笑みだった。
「…アニキ?」
「それより、気分が悪いとかないか?」
「え?あ、うん。……喉が渇いたくらい、かな」
どこか強引な話の転換に驚くも沙紀美は返事を返す。
「ははっ!余裕そうで安心したよ。鞄に入ってるから自分で取りな」
「うん…」
一先ずは平気なのだと分かったからだろう。鱶丸は嬉しそうに笑うと、手首に掛けている鞄を軽く揺らして中に入っている事を教えた。
「それ、青乃が買ってくれたやつだから後でお礼言っとけよ?」
「ホントに?困ったなぁ。夏休み前にも奢って貰ったのに……」
取り出したサイダーで喉を鳴らしつつ沙紀美は申し訳なさそうに苦笑いする。
「俺からも何回かは言ってるんだけどなー。
『弟欲しかったんで平気ッス』とか言ってたし、しょうがねぇかもな。こっちからもなんかあげたりすればいいんじゃねーか?」
「そういうものかなぁ?」
どことなく違和感の残る解決策に首を傾げる沙紀美。けれど他に良い案も無いので、後でお菓子でもプレゼントしよう、と決めた。
…時だった。
「………?」
「ん?どしたの、アニキ」
突然鱶丸は足を止め、正面を見据える。
不思議に思い、沙紀美も同様に道の先を見ると。
「……はぁ。ここには何人人攫いがいるのかしら」
長い白銀の髪と太刀を携えた、セーラー服の少女が立っていた。
to be next story.
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