第4話 違和感


学校祭アンケート記入日から一週間後。

二-二クラスの鱶丸と空は生徒会室前に来ていた。

 「失礼します」

空のノックと挨拶により開かれる扉。

 「…いらっしゃい」

中央で並べられた幾つかの机のその先。他よりも若干豪華な見た目をした机に一人の女性がいた。

 「二年二クラスの海原と山鳩です。よろしくお願いします」

 「よろしくお願いします」

会釈と共に告げられた二人の言葉を受け、椅子に座っていた丸眼鏡の女性が立ち上がる。

 「はい、よろしくお願いします。それでは、そこに座ってください」

 「「はい」」

促されるまま、二つ繋げた机が向かい合うように合わせられている中央の卓の椅子へと座る二人。

 「知っているとは思いますけど一応自己紹介しますね。

私は天野 巫胡。生徒会会長です」

その正面に、陰気な印象を受けるもっさりとした長髪の少女・天野はメガネの位置を戻しながら腰を下ろした。

 「沙紀美君から話は伺ってます。特に規則も無いですし、お教えする事は可能ですよ」

若干聞き取りづらい籠った声で要件は知っていると告げる天野。

 「お、ホントですか?」

 「はい、本当です。……ただ、一つだけ問題が」

しかし、彼女は僅かに視線を逸らし、頬を掻きながら口ごもった。

 「なにか、別のところに問題でもあるんでしょうか」

 「問題、ってほどではないんですが、少しだけ」

歯切れの悪さに何か問題があるのかと尋ねた空だが、どうも違うらしい。

その割りには何故か煮え切らない様子に空と鱶丸は小首を傾げる。

 「……いえ、まぁ。いずれ皆さんにお伝えする事ですし、少し早いですがお二人にはお話ししましょうか」

呟くようにそう言うと天野は立ち上がり、会長席に置かれている紙のうちの一つを手にして二人の前に戻ってくる。

 「これ、今回の出店希望のリストです。一年生から三年生まで、それと部活単位で希望している方々のものが記載されています」

 「あ、ありがとうございます」

さきほどまでとは打って変わり、天野は憂う様子無くリストを空に渡す。

 「……少々、驚くかと思いますが嘘は書いてませんので悪しからず」

不穏に聞こえる言葉を残して再び正面に座り直す天野。

彼女が移動している間、顔を見合わせていた二人は互いに眉根を潜めて困惑しながらもリストを覗いた。

 「……え」

 「これ、マジですか?」

 「えぇ。大マジです。

『どうせなら』と思われたらしくて。許可は既に下りてます」

苦笑いを浮かべる天野に対し、二人は開いた口が塞がらないまま彼女に頭を下げてから、どうするべきかを考えながら生徒会室を後にした。








 同日・五限目。

 「えーっと、まずみんなに伝えたい事がある」

教卓の前に立ち、クラスの全員に向かって立っている鱶丸と空。

週に一度、二限分確保されている総合学習の時間を使い学校祭の話し合いを進める事となったため、二人は教師の代わりにそこに立っていた。

担任である漆は教員用の机に腰を落ち着け、様子を見守っている。

 「学校祭の被り云々の話なんだが、ちょっとややこしい事になった」

珍しく歯切れの悪い鱶丸の発言にどこか不穏な雰囲気を帯びるクラスメイトたち。

しかし、鱶丸は直ぐに言葉を繋げた。

 「と言いっても大したことじゃない。人によっては面白いと思う事だから安心してくれ」

彼の言葉で少しだけ空気が元に戻る。

その隙を突いて、鱶丸は一気に説明した。

 「学校祭の出し物だが、全学年と部活が喫茶店で一致した。だから、どの喫茶店が一番なのかを決める各種対抗戦が設けられた」

瞬間、静まる一帯と鱶丸の隣から聞こえた小さな吹き出し笑い。

再び困惑を思い起こして鱶丸と空が見合った少し後、教室が一気に傾いた。

 「「「「「どういう事?」」」」」

 「………まぁ、そうなるよな」

にわかに騒がしくなり始める教室内。

各々が隣の席の人物や友人と鱶丸の発言を理解しようと会話を始める。

 「あー、まぁ、みんなの言いたい事は分かるし、何言ってるか分らんって考えも分かる。俺も聞いた時、委員長とそんな感じになった」

溜息交じりに言葉を放つ鱶丸。

だが彼の言葉に耳を傾ける者は無く、教室内の騒がしさは増す一方だった。

 「はいはい!みんな静かに。驚くのはいいが決まった事だ。内容を聞き逃したら困るのは君らだぞ」

そんな中で響いた漆の声により、教室の中は再び静かになった。

 「ありがとう先生。

それでだ、詳しく話すとだな。まず今回の出し物は喫茶店で統一される。その中でそれぞれのクラス・学年・部活動の特色を出した内容にする事になった。

…まぁ、特色と言っても難しく考える必要はない。三年や部活はまた変わってくるかもしれんが、一・二年は自由にやっていいそうだ。名目ってやつだな。

んで、最終日に、独創的で賞、面白いで賞、頑張ったで賞、の三つの選考を行い、それらを総合した最優秀で賞を貰ったところが優勝って感じだ。

と言っても、ちょっとしたトロフィーみたいのが貰えるだけだから気張る必要はない。[好きなことやったら運よく貰えた]くらいの考え方でいいと思う」

鱶丸の言葉で僅かに騒がしくなる室内。各々が思いついた事を相談し合っているのだろう。

 「ちなみに、競い合う事になったから準備期間を一週間増やしたそうだ。俺らのクラスを含め、普通の喫茶店をしようとしていたところがいくつかあるらしいからな」

 「マジで?それだとちょっときつくないか?」

 「ただでさえ少ないのに、実質的な負担増えてるし。準備間に合うかな」

ぼそりぼそりと上がる不満の声。

彼らの言う事は最もだ。

本来のやる事に加えて、一週間を要すると判断された問題の追加。言うなれば、端まで詰められた本棚に更に本を入れているようなもの。実際に要した期間の有無に関わらず[やるべき事が増えた]という心理的圧迫が他の障害にならないはずもない。諸々含めて、作業に遅れが生じるのは明白だ。

 「と、言うと思ってな。既に先生が手を打っておいたぞ」

その問題を既に予期していた、と漆は教員机の椅子に座ったまま告げた。

 「この前はああ言ってしまったがな、君たちの言う事には一理ある。その上で今回の校長の思い付きだ。何人かの教師で直談判…ってほどではないが話をしてきた。三年は受験もあるからな。変にストレスを増やしたくなかった担任が何人かいたみたいだ。

お陰で、ってわけでもなさそうだったが、開催日の一週間延期が決まった。まぁ、準備期間が振出しに戻ったって事だな」

生徒が最も気にするだろう問題を既に解決していた漆。その事を特に誇るでもなく報告する様子は、クラスメイトたちから感嘆の視線を集めるのに充分だった。

 「流石サメちゃん……」

 「なんでも言ってみるもんだね」

小さく上がる賛美。

当の漆は聞こえていないのかプリントの作成に戻っていた。

 「って事らしい。

ついでに言えば、喫茶店の内容をサクッと決めればそれだけ他の準備期間が増える事になるわけだ。委員長・副委員長としては今日中にでも決めて、明日から早速取り掛かりたいと思っているんだが……」

 「んだな。今日くらいしか全員いる時間なさそうだし」

 「だねぇ~。また放課後居残りはヤだし」

鱶丸の提案に賛同する声が教室内からちらほらと上がる。

思いの外の好感触に目配せした二人は小さく頷き合い、メモを取る準備を始めた。







 驚くほど速く題材が決まったその日の放課後。

鱶丸を含む、二クラスの男子生徒たちは虚ろな目をして席に着いていた。

 「……なぁ、委員長」

 「なに、副委員長?」

部活へ行くため、少しづつ減っていく生徒の中、ようやく自身の席に腰を下ろせた鱶丸は、隣で伸びをしている空に話しかけた。

 「……ホントにやるの?筋肉喫茶」

 「うん。多数決で決まったしね」

疲労を帯びた瞳で問いかけるも何のその。空は事も無げに返答した。

 「多数決…って。このクラス、女生徒の方が少し多いから男対女の投票戦になったら絶対勝てないんだが……」

 「けど、メイド喫茶よりはいいでしょ?絶対被るし」

 「そりゃあまぁそうなんだけどさ。もう一つあっただろ。水着喫茶っての。発想は悪く無かったと思うんだ」

 「それはみんなが言ってたでしょ。絶対変な人が来るからヤダって。

それに明らかに期待してる男の子もいたし、ダメ」

 「……上半身裸で接客する店の客層がまともなわけないと思うんだ」

 「でもみんなで見せ合うの好きでしょ?それとあんまり変わらないって」

 「くっ……次から次に」

 「全部鱶丸が言った事だけどね」

抗議に対し、ああ言えばこう言うを地で行く空。

しかし、彼女の言う通りそれらは全て教壇に立っていた鱶丸が言った事だった。

 候補として挙がった幾つかの喫茶店のうちから絞られた二つーー即ち、【水着喫茶】と【筋肉喫茶】。

これらは最後の最後まで接戦を演じ、困りかねた漆が多数決を取ったのだ。

結果、水着喫茶は僅差で敗退。票が見事に男女で別れると言う必然的奇跡が起きた。

クラスの半数(男)から上がる非難批判の嵐。

それらに対して鱶丸が言い放ったのが、先ほど空の言っていた言葉だった。

おまけに『筋肉を人に魅せる大会まであるんだ。おかしな事じゃない』とまで言っていたのだ。今更撤回の余地は生まれないだろう。

 「『脱ぎたくない人は無理しなくていい。ウェイターのローテーション分さえ確保できれば後は裏方で大丈夫だ』そう言ってくれたお陰で通ったところもあるし、もう変えられないと思うよ」

 「うっ……」

 「まー気持ちは分かるけどね。前に立ってたら中立でいなきゃいけないし、言いたい事言えないから。

後ででいいなら話聞くけど…?」

話しながら詰めていた通学鞄を手に立ち上がる空。

美術部に入部しているため、これから部活に向かうつもりなのだろう。

 「…いや、もう大丈夫だ。ごめんな、引き留めちまって」

 「ううん。準備してただけだし平気だよ。

それじゃあまた夜にでも」

 「おう。定番の品くらいはまとめておくよ」

スマートフォンを見せた空はその手を振り、部活へと向かって行った。

 「さてと、俺も帰るか」

空を見送り、自身も荷物をまとめ始める。

すると、廊下から盛大な足音が響き……

 「アーニーキ!」

二クラスの生徒とは違う学生が現れた。

 「あれ、青乃。お前もう補習はいいのか?」

 「そりゃ勿論。本当は先週一緒に帰りたかったんスけどね~」

青乃と呼ばれた男子生徒は[別のクラスだから]だと、特に気にする様子も無く鱶丸の隣の席ーー空の椅子に着いた。

 「姐さんとも会いたかったんスけど、出し物の話が伸びちゃって」

 「はは、まぁそうだよな。こっちも少し危なかった」

机をノックしつつ事情を説明する青乃。

彼の言う【姐さん】とは、鱶丸の古くからの友人である空の事だ。

この青乃 白哉という男は以前あった一件以来、鱶丸をアニキ、空を姐さんと呼び、慕うようになった。弟の沙紀美対しても『実の兄と思ってくれ』と言うほど、鱶丸に肩入れしている。

 「この後なにか用事あったりするのか?」

 「無いッスね。やる事も終わってるし」

 「そっか。んじゃ一緒に帰るか」

 「ッス!」

鱶丸の言葉に嬉しそうに頷き、青乃は鞄を肩に掛ける。

 「…てか、いつまで敬語っつうか、そういう話し方するんだ?」

 「一生ッスかね」

 「たまにみんなにからかわれるからやめてほしんだけど。同い年だし」

 「嫌ッス」

 「あ、そう…」

廊下を行きながら雑談に花を咲かせる二人は特に寄り道する事も無く、学校を後にした。









 商店街の雑踏を行く人の影。

ほんのりと赤らんだ空が人々の帰路を急かす中、店へと向かう二人がいた。

 「なんか、久々ッスね。アニキと二人で遊ぶの」

 「そういやそうか。夏休み中は補習ばっかだったもんな」

 「……えぇ、ホント、苦行以外の何でもなかったッス」

 「はは、お疲れさん」

帰宅する人々が大半とは言え、未だ活気の衰える様子の無い商店街。

辺りに見えるスーツ姿の大人や、学生服の少年少女は今日一日の疲労を偽るため、それぞれの脚が赴く店で束の間の安息を過ごすのだろう。

鱶丸と青乃もその一組だった。

 「けど、なんか小腹空きません?」

 「あー確かにそうだな。なんか食うか?」

 「ッスね。この辺ならイカ焼きかファストフードかって感じッスけど」

心なしか切なさを腹部の奥に覚えた二人は周囲の軽食が摂れる店を探す。

彼らの住む甲斐総市は観光地としても有名なため、出店のような小腹を満たすのに丁度いい店が多い。

市に住む人々が多く訪れる側のこの商店街もそれは同じで、数こそ少ないもののおやつ感覚で食事ができる。

……のだが。

 「珍しいな。今日はファストフード以外空いてなさそうだ」

 「みたいッスね。まぁ、そんな日もあるか」

近くにある通りで寄れる店の殆ど全てが学生ないし主婦で埋め尽くされていて気軽に買えそうにはなかった。

 「もう少し先にも幾つか店あるけど、どうする?」

 「んー、別に食べたいのがあるわけでもないッスし、そこでいいんじゃないッスかね」

青乃の視線の先にあるのは学生の定番とも言えるハンバーガーショップ。

 「だな。最近食ってなかったし丁度いいか」

特に異論もない鱶丸は頷き、二人はそこへ入っていった。






 「……しかし、あれだな」

 「ッスね」

それぞれ、バーガーとフライドポテトを一つずつ注文し向かい合って席に着いた二人。

少し前まで喫茶店にありそうな商品案の出し合いをしていたのだが。

 「なんか、学生多いな」

 「しかもめちゃめちゃ」

周囲の妙な学生の多さに今更ながら疑問を覚えていた。

 「見た感じ隣町の工業生っぽいッスけど、遠足か何かッスかね」

 「いや、そんなわけないと思うが……」

言いつつ口ごもる鱶丸。

高校によっては行事の中に遠足がある事自体は知っている。しかし、それは近隣の重要な建築物を見に行ったりだとかであり、決して【近くでご飯食べよう!】のような初めてのお使いレベルのものではない。

考えられるとすれば、工業生全員の中が良いか、もしくは行動パターンが皆同じ、のどちらかになるのだが。

 「いや、それも無いよな。……たまたま、か」

 「……?」

小規模な学校ならまだしも鱶丸たちの通う高校と同程度から少し多い生徒数なのだ、あり得るはずもない。

恐らく、【夏休み明けだけど遊びたい。でも明日もあるし遠出は出来ないから近場にしよう】といった思考が偶然噛み合ったのだろう。

 「……まぁ、なんにしてもあんまり長居する気にはならないな」

 「そうッスね。落ち着かないし」

お互いに顔を見合わせて頷くと二人は残っている分を手短に食し、店を後にした。





_____________________________________



 およそ半月後。

学校祭の準備もいよいよ大詰めとなった時期に、甲斐総高校で妙な事件が起きた。

 「幽霊?」

 「はい、そうなんです。宿直の先生ーー鱶丸君の担任の方が見たとか」

 「佐碼先生が?」

生徒会室にまとめた資料を提出しに来た鱶丸は、会長の天野からそんな話を聞いていた。

 「一昨日の出来事らしいのですが……」

そう言って内容を話し始める。

 一昨日の深夜二時頃。数度目の見回りをしている際、教室から小さな物音がしたらしい。

泥棒……な訳もないが、念のため確認しに行ったところ、やはり人影はなかった。

風で窓が揺れたのだろうと考えた漆はそのまま教室を後に、見回りを再開しようとしたのだが、また音がしたのだ。

場所は窓ではなく、恐らく天井。

若干不安になりながらも鼠か何かだろうと言う安易な考えを肯定するため振り向いたところ……。

 「……大きな、一ッ目があったそうな」

 「あったそうな…って」

 どこか怪談風に話した天野は、それこそ怪談話のような締め方をした。

 「これ、聞いてどう思いました?」

 「聞いてって言われてもなぁ…」

資料を受け取りながら問われ、返答に困る鱶丸。

彼のクラスを受け持つ体育教師・白佐碼 漆。

体育教師には珍しい【空ぶらない熱量】で生徒と接する彼女は、学校の中でも特に人気の高い教師だ。

その一因として【嘘を吐けない】という性格がある。

多感な時期でもある高校生に於いて、誰かに嘘を吐かれると言うのは非常に怖く恐ろしい事の一つである。下手な慰めや、その場限りの言い訳を良しとしない学生が多い中、殆どの教師はその生徒を心配するあまり甘ったるい言葉で真実を隠してしまう時がある。

だが、漆は励ましの言葉こそ投げ掛ける事はあっても嘘を吐いた事は一度もなかった。

それが私生活にまで及んでいるかは分からないが、少なくとも、学校での彼女の在り方を知っている鱶丸としては嘘を吐いているとは思えなかった。

 「……でも、幽霊だもんなぁ」

 「そう、幽霊なんですよね」

しかし、事情が事情だ。

ただでさえ暗く恐ろしい校内で、更に、物音が響いた中で見た幽霊……などと言われても、そんなのは見間違いだと思われても無理はないだろう。

……今の鱶丸以外には。

 「正直、あり得ないとは思いますけど、佐碼先生が見たって言うなら少しは気に掛けた方がいいかもしれないですね。見回りの人数を増やすとかして」

 「やっぱりそうなりますよね。私も同じ意見です」

受け取った資料の中身を確認しつつ返事をした天野。

彼女は資料の中身に問題がないと考えたのかそれらを胸に抱えると、鱶丸に視線を向けた。

 「…まぁ、単なる話題作りの為にお話しした事なのであまり気にしないでください。少し怖がりになっただけで白佐碼先生の様子もおかしなところはないですし、今鱶丸君が言っていた内容をそのまま校長先生にも伝えておきますので大丈夫だと思います」

 「……そうですか」

会長机に移動しつつ告げられた言葉に妙な不安感を覚える鱶丸。

理由は言うまでも無く、妖怪の事だ。

幽霊と妖怪。正確には別のモノである二つだが、現代の考えとしての境界線はかなり曖昧な部分がある。

殆どの人間は定義としての説明は出来ないだろう。

それは教師である漆も同じだ。

他の科目の教師ならまた話は変わってくるだろうが、専門的に学ぶ分野としては程遠い体育教師だ。知っている可能性は低い。

知識不足からくる勘違いーーその可能性は充分にある。

……しかし。

 「それじゃ、お願いします」

 「はい。承りました」

直接的に関わってこない以上自ら赴くべきではないだろう。

仮に自身(ふかまる)を狙っている妖怪憑きだった場合、下手に刺激して不要な犠牲が出てしまうとも限らない。

また、妖怪憑きであるなら人の多い授業中や日中に襲ってくるとは考えにくい。襲撃が成功しても取り押さえられてしまえば目的は達成できない。

……だとすれば、襲われる可能性があるのは放課後や休日登校をした時だろう。

 「……気を付けるか」

 「うん?何か言いましたか?」

 「いえ、特に。沙紀美はもう終わったんですか?」

 「あぁ、うん。今日の業務は終了したので、もう教室に帰しましたよ」

 「そうですか、ありがとうございます。それじゃあ」

手短に天野のへ別れの挨拶を告げて生徒会室から廊下へと出た鱶丸。

スマートフォンを覗き、時間を確認した彼は身体を向き直し、一年生の教室へと向かう。

 「一緒に帰るか。何かあったら嫌だしな」

そう言って、沙紀美を迎えに行った。



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 それから一週間後。

不気味な沈黙を保ったまま学校祭前日になった。


to be next story.

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