投げ銭で配信者をダメにしよう!

狂飴@電子書籍発売中!

本文

 ※※このお話は完全にフィクションです。特定の動画配信サイト及び配信者を誹謗中傷する意図はありません。※※


 突然ですまないが、俺には結構金がある。家賃収入ってやつだ。小さいアパートの大家をやっている。どんなに不況でも人はどこかに住まなければならない。住んでいる以上は金がかかる。すると大家には金が入ってくる。世の中はそうやって回ってる。そんなわけでこんなご時世でも、貧困に喘がずむしろ少しばかり余裕がある方だ。


 そんな俺の楽しみは、動画配信サイトでの投げ銭だ。それも千円とか一万円とかじゃなくて、一気にドンと十万円ほどぶっこんでやる。もちろん流行っていたり、有名な配信者やVには効果がないので、できれば顔出しをしている冴えないやつがいい。


 チャンネル登録者数も、投げ銭が設定できるギリギリのところで止まっているやつが好ましい。平日深夜の雑談放送で、視聴者が二十人つくかつかないかくらいのが狙い目。そして何より投げ銭を貰い慣れしていないことが一番重要だ。


 貰い慣れていない配信者に、突如として高額の投げ銭をするとどうなるか。もうそれはパソコンの前で笑い転げてしまえるくらいの愉悦に浸れる。


 趣味の話ばかりだったものがメッセージを何度も読み返してくれたり、名前を呼んでくれるのもそうだが、最高なのはリクエストを聞いてくれるようになることだ。

 最初は笑顔でピースしてとか、ポーズとってとか、小さな要求を通す。そのうち段々際どいことをさせて、俺の言うことをなんでも聞いてくれるようになる。フットインザドアってやつだ。


 男だと、なんでも馬鹿なことをやってくれる。バブを一箱ぶち込んだ風呂に飛び込ませたり、100均で買ったもので自作コスプレをさせたり、投げた金でギターを買わせて弾き語りをさせたり、マイクを買って歌わせるのもなかなか面白い。


 女だと、女の部分を切り売りしてくれる。ケバ目の化粧をして、肌を露出する服を着て、ちょっとエッチな雰囲気を頑張って出してくれる姿は哀れ過ぎて涙が出る。腕や足をやたらにズームするようになり、部屋まで見せてくれたらラッキーだ。特定する遊びが出来る。


 そんな承認欲求の怪物どもに「自分の配信は価値がある」のだと誤認させることで滑稽なことをさせるのは、麻薬のような中毒性があり一度ハマるとやめられない。

 知らない赤の他人の時間に、人生に、有限の価値をつけてやれるのだから。媚びてくる声の心地良さは、投げ銭をした人間にしかわからないだろう。


 遊ぶだけ遊んで他のコメントが散見されなくなったら、もうその配信にはコメントせず、ただ見ているだけにする。金がもらえなくなった配信者たちは、焦って必死になる。

 それまでスルーしていたウザ絡みコメントをも拾うようになるが、もう遅い。純粋に楽しんでいた層は戻ってはこないのだ。


 サブスクライバー限定にしたアーカイブが廃墟のように佇んでいるのを見届けたら、そのチャンネルを登録から外して、おしまい。また次の冴えないやつを探しにいく。その繰り返しだ。


 今日も俺は動画配信サイトを彷徨う。誰かの人生を安価で買い叩くために。

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