第04話 一騎当千

「俺は――」


 南天城麻璃亜みなみあまぎ まりあに膝枕された俺は名乗り返そうとした。

 が、彼女の指先が唇に触れ、遮られた。


南の狂犬マッドドッグこと、棚架一郎たなか いちろう


 狂犬。

 いつの頃からか呼ばれるようになった、俺の綽名だった。


「知ってたか」

私程わたくしほどではないにせよ有名ですわ。悪名あくみょう高き狂犬」


 南天城は、それにしても、と嘆息し、


「10人程度の不良相手に為す術無く敗れるとは、名前負けではなくて? 駄犬ですわね。首輪無しの野良犬ストレイドッグ


 からかうような笑みを浮かべ俺を見下ろしてくる。


 一方で俺は背筋が凍る思いだった。進学校の南高ミナミと違い、北高キタ不良ヤンキーの巣窟だ。さっきの連中の腕っぷしも並ではなかった。一対一なら俺も後れを取りはしないが、10人相手では――ふたりが限界だった。


 なのにこの女は、この細腕で造作も無く、連中を圧倒していた。

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