第十話 『エルデネの感謝祭』
まただ・・・
もう何回目だろう
あの“ユメ”の続き・・・
硬いベッドの上
二人の男がボクを見下ろしている・・・
背の低い老人が何か言っている
¢>▲*成だ。あとは君のⅡ£€:@¢ルを・・・
%£$・・・
背の高い金髪の男が手をかざすと
ボクの体を眩ゆい光が包んでゆく・・・
暖かい
全身が暖かい・・・
そして、背中が・・・
なんか重いっ!!
「えっ?」
「目が覚めましたか?もう夜中の3時、21時間も寝てましたよ」
DDが椅子に座って、アンを踏みつけている。
「え!踏んでるし!」
「あなたが、ベットから転げ落ちて何度も床を転がるので押さえておきました。床暖房が暖かくて気持ち良かったでしょう?では起きて資料整理の続きをやってください」
「うぅぅ・・・はい」
「終わったら連絡してください」
「はい、あ!ボク、モバイル失くしてしまってどうやって連絡すればいいですか?」
「さぁ?考えてください」
謎な一言を残して、部屋を出ていくDD。
山積みの資料と格闘しながら苦手な書類仕事にアンは頭を抱えていた。
21時間も寝たのにまだ眠気が襲ってくる。
洗面所へいって目覚ましがわりに顔を洗おうとすくった水は、凍るように冷たかった。外はすっかり冷え込んでいるようだ。
気合いをいれて顔を洗う。鏡に映る自分の髪が元の白銀色の髪へと戻っていた。
途端に、イラとの『キス』の瞬間が頭をよぎる。
顔がみるみる赤くなる。顔を両手でパチンと叩いて仕事へ戻った。
「オイサー・・オイサー・・・」
「?」
外から聞こえてくる独特な掛け声。
冷たい空気が流れこむのを我慢して窓を開けると、たくさんのひとたちが“ペコス“をつなげた街灯のロープを魔王城から街道の入り口まで吊るしている。ペコスの柔らかい光に街が照らされてとても綺麗だ。
そして、一つ一つのペコスに嬉しそうに『エレメンタル』を灯すイラの姿がみえた。
「魔王なのに・・・あんなに笑うんだ・・・ふふ。」
アンは一つ背伸びして、また仕事へと戻った・・・。
翌朝・・・
殲滅兵器に吹き飛ばされ『時計』が無くなってしまった“元“時計台の広場にエルデネの民たちが集まった。その中心には魔王イラがいる。
「エルデネのみんな!オレは魔王選挙に出馬してこの国を幸せにしたい!でも魔王城や街や畑の復興もしなければならない・・・。これから大変だけどオレと一緒に歩んでくれ!」
エルデネの民から『オイサー!』の返事がかえってくる。
イラが片手を天に突き上げると、巨大な火柱が天高く登ってゆく。
イラの作った大きな『エレメンタル花火』がエルデネの青空に赤く輝いた。
「今日から!エルデネ感謝祭だ!オイサー!!」
『オイサー!!』
エルデネとカンタローザーの国境沿いに停まる一台の車。
その脇でカメラを構えているミケくんとミーナ&ナーミは言葉を失っていた。
「なに?あれ・・・」
「ぽっかりなくなってるのな・・・」
「いや〜綺麗になくなってますね!」
ミケくんの構えたカメラには昨日“殲滅兵器エキゾートス”がその一部を吹き飛ばしたカンタローザ鉱山が映し出されている。
そんな彼らの背後、エルデネの街の上空に大きな花火が炸裂した。
「綺麗なのな〜ナーミ」
「うん・・・ミーナ」
「うぉぉ〜!エルデネ名物エレメンタル花火!はじめて見たっす!テンション上がってきた〜」
「まだ誰も取材に来ていないはず!チャンスなのな!」
「大急ぎでエルデネにむかうわよ!」
「了解っす!!」
街は一気に活気にあふれ、様々な出店が顔を出し始めた。
半壊した魔王城では、『選挙事務所』が設置されていく。
その様子を横目に見ながらシナモンティを飲むDD。アンの作った書類に目を通している。
傍ではそわそわとはやく感謝祭に行きたそうにしているアン。
「ここ、誤字です」
「はい!!直します!」
凄まじい速さで、DDから書類を奪い誤字修正するアン。
「ここ、数字が違います」
「はい!!計算し直します!」
鬼気迫る勢いのアンをみて、メリスがクスクスと笑う。
「アン補佐官、私もDDの厳しいチェックを受けましたよ。懐かしい」
「やっぱりメリスさんって魔管だったんですか?!」
「言いましたよね?後輩って」
「わかりませんよ!それだけで!」
「彼女は、優秀な部下でしたよ」
「なんでメリスさんは、魔管やめちゃったんですか?」
「え?!・・・それは・・・その・・・」
興味津々でメリスの回答を待つアン。
「書類は完成です。我々は明日アルドラマへ戻りますが、それまでは自由・・・」
「はい!!!行ってきます!」
DDの言葉を最後まで聞かずにアンは部屋を飛び出していく。
そんなアンの後ろ姿を見ながら、DDはメリスに問いかける。
「目的には少し近づけましたか?」
「・・・はい、少しだけ」
広場でアンはがっくりと落ち込んでいた。
急いで来たのはいいけど・・・
ボクは、お金がない!!!
お金を借りてくればよかった!!
バカーボクのバカー!!
するとアンの視界に『エルデネ名物大食い競争』&『参加無料』の文字が飛び込んできた。
ふふふ・・・なんて悪運が強いの?もぉ怖いわ。ボク怖いわ。
「ボク!参加します!」
大食い大会受付カウンターにアンは駆け込んだ。
「お!アンちゃんも参加かい?」
「パブロさん!?」
「今年は、“フライドコカトリス”だ、俺がシッカリと揚げたやつだからたくさん食ってくれよな」
パブロに手を振り、アンは出場者席に座る。
横並びのテーブルに座る参加者たちは、すでに獲物を狙う鋭い目つき。優勝の2文字しか頭にない。壇上の出場者、そして集まった大勢のギャラリーを司会が熱く盛り上げる。
「さぁ、今年も始まりました!『エルデネ名物大食い大会』。さっそく出場者を紹介しましょう。『さすらいの違法運転手エスコ』まだコカトリスの石化治療中だが参戦!度胸が半端ない!!」
客席に向かって、張り出た立派なハラをポンと叩くエスコに観客が湧く。
「続いては、『我らが炎壁守備隊の隊長ロキ』去年大会準優勝!雪辱を今年は果たせるか!!この戦いに勝ったら、結婚する。そんな死亡フラグ全開の情報も届いております!」
司会の突然の発表に色めき立つ観客席と、秘密をバラされ顔を真っ赤にするロキ。
「さぁそしてこちらがニューフェイス。『魔王イラ様の嫁候補。魔管補佐官アン』」
「なんですかその紹介!いつボクが嫁候補になった!!」
「あれ〜???みんなの前で、イラ様と・・・キッスしなすったじゃないですか?」
バァァァァン!!
激しくテーブルを叩く音が会場中に響き、盛り上がった会場に緊張が走る!
「おおぉっと!ここで昨年の大食い覇者、『クィーンオブクィーン!魔王筆頭秘書官メリス』が何かをアピールしております!まさに怒れる雌牛だー!!」
「だれが雌牛じゃい!!それよりも、アン補佐官!!イラ様と『キッス』ですって?どういうことですか!?説明しなさい!!」
「えー!不可抗力ですよ!」
メリスのじっとりした視線に、あたふたするしかないアン。
「え・・・、えーっと・・・、とりあえず勝負開始!!」
カァーン!
ゴングが鳴った途端、直前までのやりとりが無かったかのように猛烈な勢いで食べ始めるメリス。そしてそれに追随するアンとロキ・・・。
エスコは一口食べてその動きを止めてしまった。
「こ・・・これは!?」
エスコは席を立ち、フラフラとコカトリスを揚げているパブロの前に立った。
「あんたか?これ揚げたの・・・」
「そ、そうだが・・・なにか?」
エスコの突然の行動に、観客たちに緊張が走る・・・
「あんた名は?」
「パブロだ・・・」
「オレと・・・やらないか?」
会場全員の時が止まった・・・。
「お・・・おーっと急な“告白”タイムになってしまった!エスコ選手、調理場から離れようとしません!!気になる関係だが、ここはひとまず大会を見届けましょう!エスコ選手脱落!!」
そんなエスコをよそに、ロキは完全にペースを崩していた。
司会がバラしてしまった『この戦いに勝ったら、結婚する』というフライングコメントを、会場に来ていたフレアの孫娘にして恋人のマタリスに聞かれてしまったからだ。
小さくガッツポーズをしてくるマタリスに、ロキは恥ずかしさと嬉しさでもうお腹いっぱいだった。そして、フライドコカトリスを掴む自分の指をおもいっきり噛んでしまったロキは棄権となった・・・。
「ロキ選手脱落!残る勝負は一騎打ち!負けられない女の戦いだー!!覇者メリスか挑戦者アンか」
そこにふらっとやってきたイラを見つけ、司会が絡む。
「おおっと!イラ様、この戦いどう見ますか?いや!むしろこの戦いでどちらを選ぶおつもりですか?!」
「はぁ?選ぶって・・・」
キュピキュピーン!!
殺気を超えた気配を感じるイラと司会、そしてエルデネの民たち。
余計なことを言うんじゃないオーラー全開のメリスとアン。
そこに居合わせたMBCの3人、ミーナがすかさず突撃取材を敢行する!
「魔王イラ様、MBC女子アナのミーナ&ナーミです!」
「なんと!イラ様に取材だ〜!」
「イラ様、聞いてましたよ!出馬宣言早々に“美人秘書”と“魔管”との交際スキャンダルですか!?」
「はぁ??ちがうちがう、はっはは・・・助けて」
ミーナ&ナーミを撒くようにイラは会場から逃げ出した。
そして『エルデネ名物大食い大会』勝負の結末は・・・?
時間いっぱい食べ続けた二人。
係員によってそれぞれが食べたコカトリスフライの数が集計され、司会の元へ結果が伝えられた。
「優勝は・・・。優勝は・・・・・・」
司会のやけにじらす演出に固唾をのむ観客たち。
「優勝は!魔王筆頭秘書官!メ〜リ〜ス〜!!!」
巻き起こる大歓声の中、両腕を天にかざすメリス。
がっくりと膝をつきうなだれるアン。
三連覇の偉業を成し遂げ、大きなトロフィーと副賞の星芋一年分を抱え、メリスは振り向くことなく去っていった。
夕暮れ時・・・。
エルデネの門の前で完全に食べ過ぎてぐったりとしているアン。
目の前にはまっすぐ魔王城までの道がつづいている。
ボロボロだけどペコスに照らされた街はとても暖かい。
「ほら」
アンの顔の前にシナモンティが差し出される。
「イラ様・・・」
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