第一章
第一話 『ドウジョウするなら金をくれ』
私たちが住む、魔界アルドラマは、七つの国を“七魔王”が統治する連合国家である。七つの国はそれぞれの魔王が持つ“
また、七魔王たちは一万年に一度開催される『七魔王の総選挙』に出馬する権利を有しており、統一魔王の座を巡り選挙戦を繰り広げるのが古くからの慣しである。
総選挙を管理、監督する者を魔界選挙管理官、通称『魔管』と呼び、
その補佐役を『魔管補佐官』としてアルドラマ国より任命される。
清廉な人格と秀逸な知性と体力、高いエレメンタル値に秀でた者たちが厳正な審査により選出され、総選挙に立候補する七魔王たちの適性を調査し、監督指導するのがその役割・・・であるべきはずなのに、私のこの度の行動は恥ずべき行為であり、今後このようなことが起こらぬように反省いたします。
アン
987枚目/反省文1000枚
といった反省文を一晩で千枚も書かされた。
おかげで、今日から『魔管補佐官』として赴任地の『エルデネ』に向かわなきゃいけないのに睡眠不足で死にそうです。
それよりも
上司でもあるギルモイ教官に超平手打ちしておいてよく退学処分にならなかったものだ、退学どころか補佐官任命取り消しにすらなってないのはほんと不思議です。周りからもさんざん理由を聞かれたけど、そんなことはボクが一番知りたいくらいなのです・・・。
最初の赴任地“エルデネ”に向かうため“
“カンタローザ”に赴任する親友オジーとの待ち合わせの時刻はとっくに過ぎていた。
「しゃー!!遅いニャ!ちゃんと時間くらい守りニャさい!せっかく首の皮一枚でつながった補佐官ニャんだから!」
「オジィィィィィ」
ボクは抱きついてオジーのモフモフ頭にめいっぱい頬ずりした
「にゃにゃ?!ニャンだ?どーした?」
「ごめんごめん。一回遅れたくらいであんまり怒んないでよ〜オジ〜」
「ギニャー!!おまえ待ち合わせ一回もまともに来たためしニャいだろ!」
ニャンやかんや小言をいいながらも優しいオジー。
でもこんな小言も、しばらく聞けないのかと思うとちょっと寂しいな・・・。
「ア〜ン!オジ〜!」
ターミナルに入ろうとした時、長大なリムジンの窓から顔をのぞかせたのは、魔管養成学校一の女子力を誇る、テンタシオン。
その重力に逆らうほど突き上げた爆乳は見るもの全てを圧倒させる。
通称、魔乳のお嬢さま。
そして彼女も今回任命された魔管補佐官の一人。
赴任地“ルネリア”へと向かう道すがら、たまたま近くを通りかかったのだ。
「お二人とも、ご一緒に向かわれるの?よろしければお近くまでお送りしましょうか?」
ツイてる・・・
今日はほんとツイてる・・・これで交通費が浮く!
実を言うと、ボク『お金』がぜんっぜんありません!
魔管と違って補佐官は給料が激安だから金銭的にはとても厳しいんです。
今回、エルデネまでのバス代金は、昨日見つけた“半額キャンペーン”を使って足りない分は、オジーに借りようかと思ってたところに胸突き出してやってきたのが、そうテンタシオンさん!
あなたなんです。
リムジンってはじめてのったけどほんと凄い!
うわぁソファーもフッカフカだし広すぎる!
寮のベットより広い!
「アン・・・ちょっとは遠慮しニャよ・・・テンタシオンなんかゴメンニャ・・・」
そんな興奮気味のボクにたいして、オジーはちょっと遠慮気味。
「どうぞお好きに、遠慮なさらなくともよろしいですわ〜ご自宅だと思っておくつろぎくださいね〜」
にっこり笑うさすがは余裕の金持ちスマイル。
しばらく走るとリムジンの隣にターミナルから出発した国際バスが並ぶ。
「ミャーでもちょっと、国際バス乗りたかったニャー」
実は旅好きのオジー。
たまに話す彼女の旅話は大好き。
だからオジーも久々に乗れることをちょっと期待していたのだ。
「テンタシオンは国際バスのったことニャいの?」
「そうねぇ一度もありませんわ」
「そういえば国際バスの車内で食べ放題の“バスパン”知ってるニャ?あれくだらニャいけど美味しくニャい?あれって決まった時間の便に乗らないと出てこないニャ」
「あっ、それ知ってる!
各バス会社が提供する車内飯は正にそこでしか味わえないグルメなのだ!!
「くっだらないパンニャけど、この先あの味知らずに死ぬのはちょっともったいニャいって思うニャ。他にもあのターミナルには有名な立ち食いヌードルがあるニャよ。久しぶりに食べたかったニャ」
「分かる、分かる、そういうのって国際バスを利用しないと味わえないよね。そう考えると、ちょっと残念だった気もする」
ずっと話を聞いてたテンタシオン。
「私は食したことございませんが・・・なんですのそれ?私も食べたいのですけど。買ってきていただけません?」
「いやいや無理ニャ。国際バス乗らニャきゃ。お金積んでも買えないニャ」
さっきからひとりだけ蚊帳の外が気に入らないのか、
やたらと絡んでくるテンタシオン。
「いやです!今すぐ食べてみたい。知らずに死ぬのはもったいないんでしょ?私。絶対食べますわ!これじゃ不公平よ」
「むちゃくちゃ言わないでよー国際バスの車内飯だもん、無理だよ」
「車内飯?立ち食い?何それ、私そんなジャンル知らないんですけど。さっきから二人して自慢ですか?!そもそもお金でも買えないってどういことですか?!」
「ま、まぁ、落ち着いて別にすごく美味しいってわけじゃないんだよ」
テンタシオンは座席をバンバンと叩きながら叫んだ。
「私だけ知らない世界があるなんて許せません!今すぐお戻りなさい!アルフレッド!私も国際バスで行きます!」
「はい!お嬢様!」
長い車体を百八十度回転させ、来た道をまっすぐリムジンが逆走していく。
「ちょっと、待って!エルデネはーー?!」
ターミナルに戻ってきた三人。
夕方近くになり、先ほどよりもバスの行き交いが増えている。
「わざわざ、パンやヌードルのために・・・」
「ミャ・・・」
「あなたたちがわたくしに火をつけたのではないですか?」
ウキウキしているテンタシオン。
仕方無くターミナルの隅にある『立ち食いヌードル』を食べにいくことに。
「ヌードル3つニャ。一つアブラ、カラメマシマシで」
「オジーなんですのここ?ひどい衛生状態ね」
テーブルがぬるぬるすると文句を言ってたテンタシオン。
運ばれてきた名物のヌードルを食べて驚く。
「ふわっ!何よこれ?!美味しすぎるわ!」
「でしょ?これも旅の醍醐味ニャ!」
ヌードルを必死ですするテンタシオンを見てオジーは嬉しそうに笑った。
そんな二人の笑顔を見てボクもたまらなく嬉しくなってくる。
すると場内アナウンスから『カンタローザ』行きと『ルネリア』行きの最終案内が流れてきた。
「ミギャー!テンタシオン!早く食べないと乗り遅れるニャ!」
「もう一口!もう一口だけ・・・」
エルデネ行きのバスはまだ時間がある。
急いで立ち上がる二人を見てボクは少し寂しい気持ちになってきた。
そんな気持ちを察してかオジーがいう。
「エルデネはもうすぐ感謝祭だから楽しんでくるニャ」
「感謝祭か〜そんな余裕あるかなぁ」
「元気で頑張るニャよ!アン!」
そういってオジーはボクにハグしてくる。
少し照れながらテンタシオンもボクを抱きしめ、そして二人は出て行った。
とうとう一人になってしまった。
エルデネ行きまではまだ時間があるし・・・
そうだもう一杯お代わりしよう。
ふと横を見ると恰幅の良いおじさんがトッピングの“コカトリス揚げ”にむしゃぶりついていた。
「・・・美味しそう」
思わずそう呟いてしまった。
するとおじさんは嬉しそうにコカトリス揚げへの情熱を熱く語りだした。
永遠と続きそうなおじさんのウンチクをボクは苦笑いしながら聞いていた。
「おねーちゃんどこまでいくの?」
「エルデネです」
「ふ〜ん。エルデネか、おじさんが安く乗せて行ってやろうか?」
おじさんの突然の申し出にちょっと驚いてしまった。
でもおじさんの怪しげな雰囲気や、半額キャンペーン以上に安くなるなんてこと正直信じられない。
「大丈夫です!半額キャンペーン利用しますから」
するとおじさんが横からボクのモバイルをのぞき込んでくる。
「ねえ、このキャンペーン終わってんじゃないの?」
おじさんの言葉に思わずボクはチケット売り場に走った。
大行列のチケット売り場。
オペレーターの無常の声が
「エルデネまで9600リンクです」
「ウソ?!半額キャンペーン中だって書いてありましたよ。ほら見て、ここ!ここ!」
「え?いや、これもう終わってますよ。ほら」
モバイルを見直すと、半額キャンペーンの期日はとうにすぎていた。
呆然と立ち尽くしているとオペレーターがボクの魔管補佐官バッジを見て不思議そうに訪ねてきた。
「あの〜魔管の方なら“IDカード“お持ちですよね?見せていただければ無料になりますけど?」
「あ、IDカード・・・?なんですかそれ?」
そうするとオペレーターは使用カード一覧と書かれた説明書を見せてきた。
“IDカード“とは魔界選挙管理委員会に属するものだけが持てるクレジット機能付きの、いわばタダ飯カードなのだ!
「あ、IDカード!!えっ?えっ?そんなのもらってないし?!あ・・・」
アンは昨日の出来事を走馬灯のように思い出す・・・
超平手打ちが見事に決まった・・・ギルモイ教官・・・手に持ったボクの・・・IDカード・・・宙に舞う!
「しまったぁ!!」
その時だ。
「4000リンクだけど乗ってくかい?」
振り返るとさっきのおじさんがニコニコ笑って立っていた。
「アルドラマ大陸観光へようこそ、ヒック?」
もっともらしい名前を言って
国境をまたいで走る認可を受けた
車内をみると、イスは破れているし、車体の所々に穴が空いていて、そこから抜けてくる風は間違いなく底冷えする寒さだろう。
とはいえ値段を考えると文句は絶対言えない!
ボクは一人、オンボロマイクロバスに乗り込んだ。
すると車内には先客の姿があった。エルデネに向かう行商の親子。お母さんの膝を枕にして小さな女の子はスヤスヤと眠っている。
ビーっと音が鳴ってドアが閉まり、バスがゆっくりと走り出した。
「ヒック、本日はアルドラマ高速バス、ヒック、あれ?しゃっくりが・・・アルド、ヒック、ラマ駅、ヒック、くそ、ヒック、ヒック、エルデネ駅、ヒック、止まら、ヒック、ねぇ!ヒック、ヒック、にご乗車、ヒック、頂き・・・」
さっきから、おじさんはしゃっくりが止まらない。
ボクは少し不安になりながら、赴任地の“エルデネ”に関する資料を取り出した。
“エルデネ”
アルドラマの中でも辺境に位置する火の都“エルデネ”は、広大な穀倉地帯を有し、“農業”と“酪農”を中心とした我が国最大の
魔王イラかぁ・・・優しい魔王だったらいいのになぁ・・・
ボクはふとエルデネの資料の間に挟まったファイルが気になる。
“DD”
この人がボクの上司になるのか。
でも、魔管の中でも聞いたことないな・・・
あ・・・!そうだ!
財布の中身をざらりと開ける。小銭ばっかり全財産は800リンク。
でも嘆いてばかりいられない。
よし!あと一ヶ月、給料日まで生き抜くためにはこの人にお金を借りるしかないようですね。
可愛い後輩を見捨てるはずがないっしょ!だって魔管なんだもんね!
根拠のない自信で勝手に安心したボク。
ガタン!
マイクロバスはガタガタ揺れながら、アルドラマ大陸を南北に横断する
「いいんですか?」
「どうぞ気にしないでつかってください。私はこの子と一緒に使いますから」
「ありがとうございます!」
お母さんの体温をちょっと感じる。
それにしても時間が経つにつれバスの中がどんどん寒くなる。
床の穴から吹き抜ける風が底冷えを誘う。
つんつん・・・ん?ボクの服ひっぱってる・・・?
隣を見るといつの間にかさっきまで寝ていた女の子がちょこんと座ってた。
「オネェちゃんこれあげる」
女の子はとても小さなイチゴをボクにくれた。
「ありがとう」
「わたしチカ。オネェちゃんは?」
「アンだよ、よろしく」
いちごを食べてみると・・・
んーすっぱい、でも不思議、なんだか暖かいよこれ。
さっきまで底冷えしていた寒さがやわらいだ気がする。
「美味しい?エルデネの“
チカが自慢するように胸を張る。
まぁちょっとすっぱいけど・・・
エルデネで取れた苺は体を温めることができるなんて。
「じゃぁ、チカちゃん火苺くださいな〜。と言っても800リンク分しか買えないけど」
「ありがとう!オネェちゃん!」
お母さん、なんだか申し訳なさそうにしてますけど・・・。
「わ〜外が真っ赤だ〜」
「炎壁がこんな近くにあるなんて・・・どうしたのかしら・・・」
親子の言葉にアンは窓の外を見た。驚いたことに先ほどまで見えていた穀倉地帯の暗闇がいっぺん、視界一面に暖かい赤色が広がる。気づけばバスから見える景色は全て、炎の壁に変わっていた。バスが近づくにつれて炎の壁は、並び重なる様に立ち上がる巨大な火柱であることがわかった。よほどの火力なのだろう。窓が外気で熱くなっている。
「ふわぁ〜」
マヌケな声を漏らしながらボクは突如目の前に現れた異様な光景に見惚れていると、バスはいつの間にか国道を外れ、道なき道を走っていた。
揺れがどんどん激しくなり、お母さんが慌ててチカを抱き抱えた。
急いで運転席に近寄ると、おじさんは泡を吹いて失神していた。
ガガガッキン!
金属の断裂音が響きバスはコントロールを失い炎壁の方へ向かっていった。
「なにこれ?!」
おじさんの足は完全に石化してアクセルを踏み込み外すことが出来ない。
アンは必死でハンドルを切ったが間に合わずバスは炎壁に飲み込まれてしまう。炎が窓を突き破り容赦無く車内へとなだれ込んでくる。
アンは石化して重くなったおじさんを無理やり担ぎ、震えるチカを抱き抱えた!
ダメだ。流石に動けない!
このままじゃみんな死ぬ。
ザワつく・・・
なにかわからないが、体の内側がザワついていく・・・
アンは今までにない不思議な感覚にとらわれていた。
自分だけ時間がゆっくりになったような感じがして体の中に何かが流れ込んでくる。
窓ガラスが熱風で溶け、一気に流れこんできた炎がアンの体に吸い寄せられていく。
すると、
先ほどまで抱えきれなかった三人の体をアンは担ぎ上げた?!
バスが惰性を失い大きく跳ね飛ぶ。
アンは三人を抱えたまま、炎壁の中へ飛ばされていった。
空中に投げ出されたアンの瞳には炎の光で明るく照らされたエルデネの空が映っていた。
炎の音に混じって、なにか“記憶の片隅”に語りかける声を感じる。
炎がアンの体を覆っていく!
不思議・・・炎の中なのに熱くない
そうか、死ぬのは初めてだから、最後ってきっとこんな感じなんだ〜
そのとき
アンの瞳に一台のホバーバイクが映り込んだ!
ハンドルを握っている赤い髪の男が手をのばしていた。
あ・・・さっき資料で・・・
エルデネの魔王・・・イラ?
イラは片腕でアンを強くひきよせ抱きかかえた。
アンは無意識にイラの手を握りしめていた。
「またボクは夢をみてるのかな?」
アンは、死に際に
イケメンとは出会えたみたいだってバカなことを考えてた。
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