第42話『裏町へ』


雷は機体が大変な事になっているので二人に説教をかました。二人共正座させられており、猫もこれには苦笑いをする。


「さて。俺の機体をどうしてこんな事にしたんだ?」


「……」


普通に考えて積載量的に終わっているスーツ。ため息も出る。呆れと怒りを含めた説教はまだ続く。


「なぁおい、これ着れるのか?」


「……」


猫も流石にこれは無いと言っており、雷はと言うと更に問い詰めているようであった。本当にヤバイ。修羅が浮かび上がっているようであった。


「流石にちょっとさぁ……こりゃないよねぇ……」


「と言うか犬も止めなよ、何があったんだよこの部屋の中で」


「……うぅ……」


犬はこの間止めなかった。と言うかむしろノリノリであった。その結果がこのクソゴテ機体である。


「……ま、これ以上問い詰めても無駄だ、……とりあえず戻しなさい」


とは言え正直着れさえすれば問題ないのでさっさと分解させて止めさせる。二人に正座を止めさせ、立ち上がっていいと言う。


「はい」「はい……」


二人の説教が終わったところで、憐は猫に自分たちが裏町に行くという事を告げる。二人は裏町が嫌いだった。そりゃまぁ色々あったのだからそうもなる。とは言え行くのであれば止める気は無いのが猫。出来るのはせめて生きて帰って来ることを願うだけであった。


「さて。一週間くらい俺らは裏町に行くわ」


「……マジ?あんなところに行くのか?」


「あぁ。……ある理由があってな。お前らは流石に巻き込めねぇ」


裏町と聞くと体を震わせる犬。当然だが一度あそこで売られかけたのだ、と言うか売られたのだ。二度と戻りたくない場所であった。猫も同じ。両親のアレがあって行く気にはならない。


「……もう裏町には行きたくありません」


「……俺も」


「だろ?……だから俺らだけで行く。……その間は……大会には出ねぇ」


と言うと二人はさっさと荷造りを始める。色々面倒くさいがやっておくに越したことは無い。と言う訳で話も早々に二人に別れを告げて、行くのであった。


「……分かった。……ただ、一つだけ言っておく。……あそこでは気を許さない方がいい」


「……忠告ありがとうな。……じゃあ行ってくる」


そして裏町についた。とりあえずここに来るまでに何回か変な奴に付きまとわれたが、それらはとりあえずぶん殴っておいた。裏町はそこかしこに肉の塊が地べたに這いつくばっており、誰の物かも分からない血も沢山ついている。これでまだ入り口ちょっと先と言うのだからドン引きである。


「さて来たな」


「しっかし……死体まみれだなこりゃ」


先程から靴の裏に付きまとう血を振り払いながら進んでいく二人。肉の腐った臭いと嫌な気分にさせられる姿が多量に見えるが、今は関係ないので無視してある場所に向かう。


「いや多分血でしょ、肉と」


「アレは?」


「死体」


雷は自分で言ってなんだがこんな死体まみれの場所に誰が来るんだと思った。普通の感性を持っているのなら近寄る事すら嫌であろう。そりゃぁ史上最悪の町呼ばわりもやむなしである。


「……正直こんな場所に行く奴とかいるの?」


「あぁいる。何せ裏町にゃカジノって奴がある。金持ちの奴らが暇なときに行くのさ」


とここで今回行くところを説明するついでに、どうして人が来るのかを説明していく。まずここで厄介な場所は二つ、一つはこの後に行く予定の闘技場と言う場所、そしてもう一つは今から行くところのカジノと言う場所であった。


「……えぇ……?そいつらは襲われないのか?」


「あぁ。金持ってる奴は良いカモだからな」


「……聞かない方が良かった」


実際、この場所には金を持っている奴らが大勢来る。暇を持て余している彼らにはうってつけの場所なのである。特に人気なのが処刑場を兼ねた闘技場と言う場所。あそこは地獄である。本当の意味でコロッセオと言うべき場所であり、何人人が死んでいるのか分からない場所。クソ・フルコースで、ございます。


「そうだ、とは言えカジノ自体は奴らが仕切ってる訳じゃねぇ。一応三つ目の入場口にそれがあるんだからな」


「へー……そこは安全?」


そう聞くと、憐はなぜ大丈夫なのかを話していく。金持ちを殺してしまえば貰える金はそれだけになってしまう。それであれば生かしておいて搾り取れるだけ搾り取ればいい。ただし金が無くなれば……まぁ。うん、そういう事なのである。


「金かかるのよ、えげつない程に」


「うわぁ……そう言う奴ね……」


怖いなぁと思っている雷であるが、別に自分は殴り倒せるので大丈夫やろと判断していた。ちなみに憐は現金を使い、コインを買うと枚数を数え始めた。一応ちょろまかすようなことはしないと思うのだが、念のためである。


「さて、これがカジノ。そしてこれがコイン」


「早いなぁ……さっきチンピラぶちのめした時に変な話してたけど」


先程入る前に変な奴らに絡まれたのでボコボコにした時、雷は今日のコロシアイに史上最悪の男が出ると聞いた。とは言え誰なのかは分からず、また正直今回はそのコロシアイとやらに出る気は無いのでどうでもいいと判断したのであった。


「そうか?……と言うかぶちのめしたのかお前……まぁいいや」


「さて、俺らの今日の資金、五十万。お前にやる」


四十五枚のコインを雷に渡すと、自分は五枚ほどのコインを持ってどこかに行こうとする憐。自分は四十五枚も持って、憐はたった五枚という事に大丈夫なのかと心配になる雷。


「……お前は?」


「五万で十分だ」


憐が大丈夫だというのだ、問題ないのだろう。そう判断したので今回の目的を誰もいないトイレの中で話していく。それは荒唐無稽と言わざるを得ないものであった。


「今回はあのボスとか言う奴を誘い出さねぇとならん、つまり俺らはカジノ荒らしをします」


「はぁ……稼げばいいのか?」


「そう言う事だ」


つまりはえげつない程カジノからコインを入手し、稼ぎきってしまえば多分ボスとかが出てくるだろうと判断したのだ。とても無理難題であろう。しかし憐はある理由からこれを大丈夫だと思っていた。そう、このカジノ、確率を操作していないのだ。完全な実力台。それでも難しく設定されているのだが。まず雷が向かった場所はスロット台。その中でひときわ目立つ台があった。何と二面しかないのだ。


「スロットか……何でこの台二面しかないの?」


「あぁ、そりゃ二面スロットって奴でな。……まぁ目視出来る奴なら多分できるよ。……普通の人間はまぁ無理だろうけど」


百分の一の当たりを、二面当てるだけ。だが超が付くほどに高速で回っている面を、目押して二回当てる事がどれだけ困難なのか分かるだろう。しかも一回十コイン、つまりは十万である。倍率は十倍。当たれば一発百コインである。正直他のでよくね?と言うのも客がいない理由だろう。


「……まぁね」


そう言う雷の目には、ほとんど止まって見えるスロットの面が見えていた。恐らくこれなら何とかなるだろう。そう考えた雷はそのスロットに挑むことにしたのであった。


「二面スロットか……」


一方の憐はと言うと、半丁で既に二倍にしたのでルーレットに挑むことにした。ここのルーレットは基本的に一コインから始められるので、サクッと決着が付く。ローリスクハイリターンという奴であった。


「ルーレットでもするか、おい赤に十ベット」


「さぁさぁ皆さま、お賭けになりましたか?ではルーレットをスタートしましょう!」


ルーレットが始まる。しばらく玉が回り、そして玉は赤の26番に入る。喜ぶ奴も残念がる奴もいた。憐はと言うと当然だろうというようにその結果を見ていた。


「……赤の26でございます」


「はい当たり。ま二倍程度じゃねぇ……次行くぞ、黒の12」


そして次の試合へと進むことになるのであった。


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