第41話『夢』


犬と出会った猫は気分も上がり、次々と大会を快勝して行く。既に何回か優勝しており、それなりに知名度も上がってきた。


「おらぁ!」


「勝者!猫選手!」


そんな彼はまだ奴らに金をせびられていた。しかし既に猫はそいつらの事を見限っていた。それもそうだろう。もう共に戦う価値など一切ないのだから。だからこそ、猫は即座にその言葉を遮った。


「さて今回の報酬だが……」


「……悪いけどさ。今回の報酬は全部俺が貰う」


その一言を聞いた男達はキレ始める。つい最近まで子供だったクソザコにこう言われたのだ。そりゃぁこうもなろう。そもそも機体に関して突っ込まなかった彼も問題ではあるのだが。


「あぁ?お前何考えてんだ?俺らがいなくなったら誰がお前の機体の金を出すってんだよ?」


「……鈍いなお前ら。……これを言うってことは、もうお前らの助けが要らなくなったって訳だ」


今までこき使われてきた怒りをぶつけるように、怒りを込めて話しだす猫。


「はぁ?」


「そして俺からふんだくった今までの報酬と賞金を返してもらう。……退職金って奴だ」


その言葉を聞いた男達は遂にブチ切れる。声を荒げ銃を猫に突きつけ脅しにかかる。


「なめんじゃねぇぞこのクソガキ!お前に幾ら金を支払ってやったと思ってやがる?一割貰えるだけでも温情何だぜクズ!感謝しぶげおっっ!?」


だが猫はその男の顔面を全力で殴ると、落とした銃を手に取りもう一人の男に向ける。その目には希望の灯が宿っていた。既に生きる意味を取り戻し、そのためならば何でもすると言うような感情であった。


「悪いな。……今の俺には生きる意味がある」


そして男の中一人を殺害。もう一人の男に今までふんだくってきた金がどこにあるのかを教えさせる。それは街で有名な銀行。何とそこを仕切っている奴がとんでもない不正を行っているらしく、どうせ自分も食らってしまうなら道連れだととんでもないことを言ったのであった。そしてここまで連れてこさせた男の体を床に叩きつけると、銀行所長目掛けて銃口を向ける。


「さて。……お前が俺の金をふんだくり続けて来た野郎か」


銃口を向ける彼の姿を見た所長は驚きながらも、恐らく強盗の類でない事を理解し、椅子に座ったまま話しかける。


「何だお前……!何をしに来た!?」


「返しに来てもらったんだよ。俺の金をな」


銃を突きつけそう話す猫に、所長の隣にいる息子が叫ぶ。息子は完全なドラ息子という感じの奴であり、大体不正をしていたのはこいつであった。まぁそれを知って事実を握っていたのは父親である所長の仕業なのであるが。


「あぁ!?お前の金は全て俺のだ!お前に一遍も渡す気なんかねーよ!」


当然だがそう言われると判断していた猫は、煽るようにとある物を見せつける。それは今まで彼らが不正をしていた証拠品であった。所長はすぐに気が付いたが、ドラ息子はそれに気が付かなかった。


「……さて、ここにある物があります」


「はぁ?」


未だ理解していない様子であるドラ息子は、それがどうしたと話す。猫はここまで取っておいたとっておきを、彼に分かるように話しかける。


「お前の不正の証拠品」


「……!」


遂にドラ息子も理解した。所長は既に諦めていた。今まで息子を甘やかしてきたツケがここに来たのだ。もはや諦めるほかない。しかし息子はまだ何かしようとしていた。


「これが外に出れば今までの全部がパーって奴だ。……で?」


「クソッ……こうなりゃ……」


ひっそりと銃を持つ息子。猫にそれは見えていたし、銃を撃たれたところで避ければいいと考えていた。そんでもって最後の手段も使っておいたので、これでどうしようも無ければもう終わりである。


「俺を殺す……と?」


静かに銃弾を詰めようとする息子だが、ここで所長がある事に気が付く。それは外で何か叫んでいる音が聞こえるという事であった。だがそれが何なのかは詳しく分からない。


「……」


「悪いね。……そうすると思ってた。だからもう終わってる」


「何を」


と言った直後、先程までの音が何だったのかを理解してしまう。それは猫がとあるマスコミにリークした情報。大々的に放送されている情報。不正の証拠。


『速報!速報!ベリトラムの銀行所長が脱税行為!数億単位の金を脱税していた!』


「……貴様ぁ!」


銃弾を撃つが当たらない。逆に反動で腕が外れてしまう。そして警察がやってくるであろう足音を聞くと、その部屋から出ていこうとする。後のことは警察に任せておけばいいだろうと判断したからである。


「お前が選択した事だろ。……あばよ」


これ以降の事は警察に任せよう。そう判断した猫は、警察に任せてとっとと犬の元に帰る事にしたのであった。


「と、言う訳なんだ」


「へー……そんな事がねぇ……」


話を終えた猫はコーヒーを口に含むと、静かにそれを飲み干すのであった。そして飲み終えるとテンション高く話しかけてくる猫。


「まぁその後大変だったけどな!色々と……」


「そりゃまぁね。で結局その銀行はどうなった?」


ドラ息子とその親父である所長が逮捕されたので、銀行は警察の手によって一応安全な奴の手に渡った。とは言え警察に常に監視されることとなったが。とは言え正直それはどうでもいいのだ。別に金が手に入ってしまえば一切問題ない。そう言う程度の物であった。


「あぁ。それは……まぁうん、その後は他の誰かが引き継ぐことになった。もちろん警察の監視付きでね」


「そりゃな。……さて、お前の昔の話も聞いたし、憐の元にでも帰るか」


「そうだな。俺もそろそろ犬の元に向かうとするか」


二人の中で話が完結したので、二人共相棒の元に向かう事にした。とここで唐突に雷が猫にある事を聞く。それは猫には夢があるのかという質問であった。


「……」


「……」


「……そういやさ、お前って夢とかあるのか?」


「……夢かぁ……あるよ。今人権を失っている獣人の全てを俺が救う。……俺が救わなければならない」


最後の一言を言う時に、唇を噛みしめた猫。それは本気の一言であった。明らかに異常とも言えるその一言に、雷は自分の夢が無いという事を思い出し、そしてその夢を彼に託すことにした。


「……傲慢その物だな。でも嫌いじゃねぇ、むしろ好きって奴だ。俺も出来るだけ協力しよう。……お前と戦うこと以外でな」


「……もし、もしこれから本気で俺らが戦う事になった場合……本気で来い。それが礼儀だ」


それは遠くない未来に、彼らが戦うことになるという事を示していた。それもそうだろう。恐らく互いに戦うことになる。その事実を今は気にしない事にした。その時に考えればいいだろうと。二人はそう考えていたのだった。


「そうだな。さて、とっとと帰るとするか……」


一方帰ってきた雷は自分の機体がヤバいくらいに改造されているところを目撃してしまう。流石にそれはヤバいと二人共止めに入る。


「うわぁ俺の機体が大変な事になってる!」


「ちょっ!お前ら!止まれ!」


そんなこんなで日が暮れる。今日も日は暮れるのであった。



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