第40話『奴らの出会い』
雷を探していた猫は、しばらく歩き回って雷を発見する。雷が何をしていたのかというと、特に何もなくふらついているだけであった。
「あぁいた」
そんな雷を発見し、声をかける猫。雷は話しかけられるとそれに気が付いた。どうやら何か考え事をしている様子であったが、普通に話しかけられれば忘れてしまうレベルの物であった。
「……猫か?」
「あぁそうだ。……そうだな、話でもしないか?いい感じの喫茶店がある」
立ち話も何だしな、と付け加えると指さした喫茶店に向かう。こんな場所に喫茶店があるのかと思う雷であるが、そもそもそう言う隠れ家的喫茶店であるらしく、静かに飲むにはうってつけらしい。
「なら行ってみるか……旨い飯はある?」
という訳で久々に旨い飯を食い始める雷。案外あの闘技場の中は寂しい飯しかないのだ、いや無い訳ではない、ただ全体的に味が薄いのだ。ため息も何度もついたし、頭も抱えた。そんな彼が頼んだのはパンケーキであった。ちなみに猫はコーヒーとレモンパフェ。そして半分くらい食い終わったところで雷が唐突に話を切りだす。
「さて……聞きたいんだけどさ、お前って何でGGに行くことにしたの?」
当然気になるからである。自分が知らないにせよ、有名な選手であるのだから、何らかのことがあったのだろうと判断したのである。それを聞いた猫はちょっと顔を嫌そうに伏せる。しかしここは雷、かなり突っ込んでくる。
「……まぁ……ちょっとね」
「聞かせてくれよ。なんかあるんだろ?」
「……まぁね」
別に強要する気は無いのだが、話して悪い事でも無いのか、猫は空になったレモンパフェの皿を置いて話し始める。それは雷の過去の話。忌々しいが、無くては話せないレベルの話。猫の両親は元々GGの選手であったのだが、裏町のGGに無理矢理参加させられてしまった。
「……」
そして彼の目の前で無残にも殺されてしまったのであった。殺した奴らからはお前の両親が弱いからこうなったんだぞと言われた。猫にはそれが許せなかった。人を無残に殺しておいて、いけしゃあしゃあとこんな事を言われたのである。
「……何で人を殺しておいて、お前らはそんな顔が出来る?」
だが問題はそこではない、奴らは何と両親の首を切るとさらし首にしたのである。ただ殺すだけでも怒りは収まらないというのに、あまつさえさらし首にしたのである。もはや怒りの感情もない。あるのは復習心だけであった。
「……父さんも母さんも……あいつらが殺したんだ……!」
その日から裏町でGGをすることにしたのだ。全ては自分の復讐の為に。自分の両親を殺されたのだ、もはや彼を止める者はいなかった。
「ふざけるな!お前らが命を奪っておいて!何でそんなにヘラヘラ出来る!」
その日、裏町に血しぶきの雨が降り注いだ。それは復讐相手達。怒りと叫びをあらわにしながら、何度も顔を殴りつけた。それでも怒りと憎しみが消えることは無かった。裏町は法などない場所。そこで死んでも誰も何も言わない。
「……畜生……」
その後、行くところも帰るところも無くなった猫は、しょうがないのでそのままGGを続けていた。しかしそれは理不尽なものであった。ひたすら安い賃金で雇われ、本人もそれでいいと判断していたのだからたちが悪い。その日もひたすら勝ち上がっていた。
「勝者!猫選手!」
勝者が宣言されると同時に、さっさと帰る猫。そんな彼を呼び止める二人の男。そいつらこそが彼を無理矢理GGの戦いに参加させている奴。二人は何と明らかに生命にすら関わる戦いを9:1の取り分で行わさせているのであった。
「……」
「じゃあ今回の取り分は……あー一割程度だな」
となどと言っているが、最初から決まっていたことである。正直金はもうどうでもいいと考えていた。勝たなければ意味がない。そう考えていた。
「……」
「じゃあそのぶっ壊れた機体直してこいよ!治せる奴がいるってんならな!」
嘲笑うように猫を煽っていく奴ら。猫は地面を叩き嘆く。自分には何も出来ないという事を悲しむように、ひたすら拳を当てていた。ちなみに彼の残り残金は百万円とちょっと。機体を修理に出せる代金ではなかった。
「……俺には何もできない……勝ったところで……何もない……!」
と、そんな彼はある物を見つける。それは人身売買の姿であった。今まさに犬の耳をした少女が売りに出されているようであった。首輪をつけられ死んだ目をしていた。
「本日最後の出物ですよ!オラ!歩け!」
ほぼ全裸で無理やり歩かされ、そのまま台の上にあげられる。オークションを行っている彼らの周りにはまばらに人がいる状況。
「こいつぅ!こいつはですね!なぁ何が出来るんだよお前はぁ!」
そう言いながら手に持っている縄で首を絞め、しばらくするとそれを止める。そしてさっさとオークションに入るのであった。
「まず、三十万から!」
「40!」「50!」
周りにいる奴らが値段を上げていく。それに反応するように客たちを煽っていく店主。
「五十?渋いなぁ~」
「60!」「70!」
七十万になったがまだ欲しがるようであった。更に客たちを焚きつける。
「七十、もう少し欲しいなぁ~」
「85!」「90!」
そして九十万になった。そんな中、猫は彼女を見ていた。彼女の目は怯えていた。昔の自分と違う。何もかもに諦めた目をしていた。だからこそなのだろうか、猫は彼女の姿を自分だと思った。
「九十!もう一声!歯切れのいいところで!」
そして猫は自分の全財産を使ってなお、彼女を救いたいと考えた。店主に速攻で自分の全財産をはたく。
「百!」
九十くらいならまぁいいかと思っていた客たちであるが、流石に百万は出せないと判断。皆身を引き、そのまま彼女は猫の物となった。
「はい百!お客さんに決まりだぁ!よーしお客さん、とっとと持ってってください!来い!」
首輪を取り、彼女を工房に連れていく。一応機材だけはあるのだが、直すだけの才能はない。しかも金は今のでほとんど使いきってしまった。後悔はしていないが流石に反省している。頭を抱えぶっ壊れたスーツをどうするかと考えている猫。そしてよそよそしく後ろを付いてくる彼女。
「……つい勢いで買ってきちゃったが……どうするかなぁ……」
「あぅ……」
「大丈夫、俺はお前を虐める気は無い」
そういう目的で買ったのではないと言い、彼女を落ち着かせる。それで少しだけ落ち着いたのか、こちらにちょっとだけやってくる彼女。
「……そう、なんですか?」
「あぁ。……それにしてもどうするか……機体は高いし、かと言って直せねぇし……うーん……」
機体を買うにしても安いので百万程かかるし、材料はあっても治す技量がない。やはりお抱えの技師を雇うべきかと考えている猫、そんな彼に彼女が話しかけてくる。
「あの……ご主人様……」
「俺猫。……ご主人様じゃない」
猫は昔からそう言う呼ばれ方が嫌いであった。様も嫌い、せめてさんである。呼び捨てが一番性に合うのだ。人を捨てたような生き方をしてきたがゆえに。
「……では猫様」
「様もいらん、呼び捨てで構わねぇよ。……それともさん付けの方がいいか?」
「……では猫さんと呼ばせていただきます……」
大分妥協した呼び方になった彼女。そして彼女に何の用だと話しかけると、何と彼女はとんでもないことを言い出した。
「あぁ。……んで、何の用?」
「……その……恐らくですが、私、それ直せると思います」
猫は正直に言って彼女には何も出来ないと判断していた。それもそうかもしれない、なぜなら獣人は教育も勉強もせずに生きているのだから。とは言え偏見は良くないと、彼女に工房を預ける事にした。
「……マジ?」
「はい……ちょっと貸してください……」
「あぁ……好きに使うと良い」
それから十分後、猫の目の前に現れたのは完璧に復活したスーツであった。流石にこれには驚きである。スーツの修理資格にはかなりの時間がかかるのだ、それを何も知らないであろう彼女は十分で組み立て終えたのである。
「……どうですかね……?」
「……天才かお前……?」
これは心からの一言。驚きと困惑の言葉。本当に直せるとは思っていなかった。だからこそ猫は彼女の事を、ひいては獣人の事を見直す。彼女は褒められて笑っていた。
「えへへ……」
と、ここで彼女が何者なのかを聞いていなかったので、ここで聞くことにする猫。彼女は自分には名前も名字も無いというが、それでも一応犬と呼ばれていたと話す。
「……そう言えば名前は?」
「……私は……犬と呼ばれていました……」
それを聞いた猫はその言葉に納得し、彼女の事を犬と呼ぶことにしたのであった。
「まぁその耳だしなぁ……よし、お前を今から犬と呼ぼう。それでいいか?」
「……大丈夫です。……はい」
こうして二人の共闘関係が結ばれたのであった。
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