第38話『速攻の決着』


壁に叩きつけた事により、観客達はヒートアップする。投げ銭も与えられ、ナレーター達も今までにないテンションで話し始める。そしてそれを見ていた『経偶きょうぐう四島しじま』は雷の機体を見て驚愕していた。


「何だあの装備?!」


そして驚愕すると同時に、アレをコピーさえしてしまえばどうにかなると判断した、命令するように裒にやれと叫ぶ。


「クソッ!あんなのに構ってる暇なんてねぇんだがよ……!オラさっさとコピーしろや!」


流石にその態度にムッとしたが、そんな感情を覚える前に、どうにかして防御しなければガードを崩されてそのまま連撃を食らい負ける。そうなってしまうのだ。故にアレを出す暇が無い。


「やろうとしている!だがこの機体、予想以上に速い!」


しかし四島は大分あの機体を侮っていた。アイツなら出来るだろうと勝手に判断し、無理難題を命令するのであった。


「それがどうしたってんだぁ!?お前ならやれるだろうが!さっさとやれ!」


「あぁ分かったよ!」


明らかに二人の関係はギスギスしていた。正直呉越同舟レベルの間柄であるため、こうなってしまうのもまぁ妥当と言うべきであろう。とは言えこれだけの速度であればとある物を繰り出す。それは鉄糸と言われるものであり、要はただの鉄線である。それを体に巻き付けられ、少しだけ動きが封じられてしまう雷。


「まず動きを封じてやる……!」


「鉄糸か」


あくまで冷静に自分の状況を判断すると、腕が動くことだけを確認し、そしてアレを取り出した裒の方に向け、その手をのばすのであった。


「食らいな!」


それを投げつける裒、そしてそれをキャッチする雷。再び機体の情報が吸収されていき、裒はアレを手にして自分に突き刺した。


「よっと」


「吸収!」


とここで会場のスピーカーにつなげた四島の言葉が響き渡る。とは言えそれはどうでもよく、雷と憐はどうでもいいというようにその言葉を聞いていた。観客達に関しては多少ざわついていたが、何か対策をしているだろうと判断したのであった。


「お前の機体も俺たちの物なんだよーッ!」


「そうか」


そして雷の革命と同じようになっていく裒の機体。無骨を通り越し、もはやただの鉄と言うレベルになっている。何度か飛んだりすると、その機体を試すように動き回る。


「おぉ……!確かにこりゃ凄い!今度は私のターンと行こうか!」


と、思い切り走り始めた裒は、雷の姿を目撃すると、その拳を叩きつけようとする。


「くら」


が、その拳は壁を叩き、その上自分の体も壁に激突してしまう。何が起こったのか理解できないようで、そのまま壁を見る。遥か後ろにいる雷の姿を見て、困惑し、そして雷の姿を確認した途端にその頭を壁に叩きつけられる裒。


「え?」


明らかに何が起こっているか分からないようであった。それは四島も同じこと。一応機械が何とか制御しているのであるが、それすら間に合っていないようであった。これには四島もドン引き。


「は?え?……は?」


とここで憐が二人に向けて、ため息をつきながら自分の情報を解説していく。それは相手が間違いなくこちらの機体を吸収してくると判断した故の機体であった。


「忠告するけどさぁ……今更。この機体って滅茶苦茶改造してるからさ、お前がぼっこぼこにされたから分かるだろうが……それの二倍の速度だぜ?……いくら機械に頼っても、追いつけねぇよ。俺達には」


遂に機械がエラーを吐き始め、完全に壊れてしまった。明らかに異常事態であると判断したが、これ以上はもう遅い。既に修理も間に合わない。


「おいおい!機械がエラー吐いてんぞ!」


当然だがこれを見逃す雷ではなく、そのまま壁にひたすら叩き付けるように殴りかかり、壁を背にそれを防戦しようとする裒。しかし防御を剥がされそのまま拳をモロに食らい、完全に防御が間に合わない。


「まだ終わらねぇぞ!」


顎への一撃で気絶しそうになるが、それを雷が許さない。以前の分も含めるように、ひたすら殴り倒していく雷。頭を殴り腹をドつき、倒れないようにひたすら殴っていく。


『止まりません雷選手!何という連撃……!』


『裒選手、手も足も出ません!』


割と根に持つタイプの雷は、そのままひたすらに殴っていく。以前の恨みも込めて。とは言え機体を破壊するように殴っていく雷。あくまで余計な攻撃はしないようにと一応かなり抑えて戦っていた。と言うよりは速い機体であるがゆえにひたすら素手の攻撃力でしかないのが問題であるが。


「うがぁっ……!」


「じゃあな!」


そして遂に完全に機体を破壊することに成功した雷。この時点で雷の勝ちが決まる。また、これによって雷の強さを知らしめることが出来たのであった。ナレーター達もこれを見て大興奮である。


『勝った!雷選手が勝ちました!』


『今大会の優勝者は……!雷選手!』


「しゃおらーッ!」


勝者宣言が去れると同時に、雷は闘技場の中央で叫ぶ。それは勝利の雄たけびであり、憐も急いで雷の元に向かう。そして雷を抱きしめながらはしゃぐのであった。


「やったな雷!」


とまぁそんな彼らとは別に、四島はと言うとブチ切れていた。それもそうだろう。この戦いにかなりの金をかけていたのであるが、それが全部チャラになったのだ。金も無くなり、機体も粉々。何もかも全部が全部壊れたのだ。


「クソッ!クソクソクソッ!」


怒りのまま機械を破壊していく四島。それも仕方のない事だろう。なぜなら彼が試合にかけていたのは自分の命でもある。もし借金を返せなければ四島の命は平然と奪われ、そのまま売られてしまうのだから。


「こんな事あるか!?こんな糞みたいなことがあるか!何で負けるんだよ!お前が!」


怒りのままに手当たり次第壊していく四島であるが、ここでそんな彼の元に一人の機体を着た奴が現れる。その機体の名前は『具足虫グソクムシ』。裏世界では有名な死刑執行人であった。とても残虐で、忠実で、それでいて悪魔のような機体。それこそが具足虫であった。彼はそのまま四島の姿を拘束すると、ズルズルとどこかに連れていくのであった。そして雷は負けた裒の前に向かう。なんでもするって言ったのだ、これくらいは平然とされるだろう。


「……さて、お前はなんでもするって言ったよな?」


裒は諦めているようであった。それもかなり。金がないのに工場を再建することも、機体を直して再び戦う事も出来ない。何もかも終わりである。何でもするというよりは、何でもしなければならないと言うようなモノであった。


「……あぁ言ったが……」


雷はそれを聞くと、ある写真を裒の目の前に出す。それは憐が調べ上げた一つの写真。太陽の復讐相手である男であった。それを見た裒は瞬間的にそれが何だか分かってしまった。と言うのも、今回金を貰うためにかなりの借金をしているのだが、その相手と言うのが太陽の復讐相手の一人である男であった。


「なら一つ聞かせてくれ、お前はこいつを知っているか?」


「……そいつは……なぜ君が?」


驚いた表情をする裒と、それを見て知っていると判断した雷。そのままどこにいるのかを説明させる。大分戸惑った後で、裒は震える唇を何とか抑えながら声を出すのであった。


「知ってるって顔だな。……聞かせろよだったら」


「……そいつは……裏町にいる」


雷にとっては初めて聞く言葉。よく分からないので憐にどこなのかを聞く。それを聞いた憐はどういう場所なのかを喋っていくのであった。


「……裏町?」


「あぁ。……裏町を仕切ってるやつがいるだろう?そいつだ」


それを聞いた他の奴が叫ぶ。憐も憐で知っているので頭を抱えながら嫌々と誰なのかを喋るのであった。


「……冗談じゃねぇぞ……!あの!?」


「知ってるのか憐!」


そいつは逃げ出し、憐は再び喋っていく。一度だけとあるようで向かったことがあるのだが、その時は本当にこの世の地獄だと判断していた。二度と行くこととは無いとも思っていたが、まさか再び行くことになるとはと言うように頭を抱えるのであった。


「あぁ。裏町って言う町は……お前がいたスラムに劣らない程のクソ町さ」


かなりの嫌悪感を浮かべながら話していく憐。雷は自分のスラムがクソであると理解しているが、それに負けないほどのと言われると疑問が生じる。流石にアレよりひどい場所はないだろうと判断したのであった。


「そんなにか?俺が言うのも何だがスラムはクソだぜ?」


「……いやちょっと違うな。……お前のスラムはヤバイ。しかし裏町は別ベクトルで糞なんだよ。……具体的に治安が」


それを聞くと雷はどういう事なのかを理解する。スラムは人の手によって作られた地獄であるが、どうやら裏道とやらは人の手が加わった地獄と言う訳なのであった。人間がやらかしたのだ。最悪である。


「あぁ……俺らが糞みたいな地域だとすると、その裏町ってのは……要するに人が無法って訳だな?」


「あぁそうだ。……最悪だな……」


賞金を受け取りながら、彼らは外にいる太陽を呼ぶ。二人が外に出た時、太陽も彼らの家からやってきた。そして雷は噴水近くで座っている太陽を発見すると、そのまま話しかけるのであった。


「太陽、いるか?」


「何だ?」


「……お前の標的が見つかった」


雷の一言に、太陽は厳しい目を向ける。そして続けるように雷はどういう事なのかを説明していくのであった。


「……何?」


「……裏町。そこにお前の仇がいるらしい。……しかし、あの場所は……地獄だ」


一人の人間が入れば、一瞬で命も金も何もかも奪われる裏町。そんな場所にいかなければならないのは苦痛であったが、それ以上に許してはおけないのだ。その場所に行くことを決め、二人に別れを言おうとするが、どうも二人は付いてくる様子であった。


「……しかし行くぞ。私はな」


「……さて、しかしここで気になる事があるな。……そっちでもGGはやってるんだろ?……って事はその……やっぱり戦う事になるんだよな?」


「そうだな。……そしてそれが一番手っ取り早い」


裏町でも平然とGGは行われている。当然レッドルール。死ぬかギブアップするかの二つしかないルール。そして太陽の復讐相手はと言うとそのGGで無敗の帝王と呼ばれていた。


「……よし、俺らのやるべき事は決まったな」


そして三人は裏町に向かう事にしたのであった。

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