第37話『革命』

GG37


雷と憐の目の前に現れた機体。それは憐があの日、散々罵られたあの機体であった。いつかこいつを普通に使えるようになりたいと判断した憐は、あの日からちまちまとあの機体を改修していた。ただひたすら、人間に使えるようにするために、努力を重ねて来た。それがこれである。全身をメタリックなシルバーで包み、無骨どころかほぼ外骨格レベルの機体だった。防御機能など一切ない、あまりにも戦闘に特化しすぎている機体。正直言うとまだ人が着れるものではないような機体であった。


「さて……名前は……そうだな、『革命』と名付けよう!」


「これがその……新機体?」


この機体を憐は革命と名付けた。それは憐自身の革命とも言える機体であり、ここからが自分の始まりだと判断したのである。腕や足などの至る所にエンジンが付いているのは相変わらずであるが、どれもこれもがロケットに使われるようなレベルの即座に起動するエンジンであった。


「あぁそうだ。今までと違いスピードに特化していてな、とにかくエンジンがかかるまでの速度が異常でな、まぁ以前作った親父機体の改修版って訳だ、……今思えばロマン機体でも戦えなければ意味がねぇ、だからこいつは革命なのさ」


前の試し乗りでかなり機体の不備やらが浮き彫りになったので、これでも大分改良したのだ。それと同時に気になることを思い出す雷。それは以前のアレ、コピーされたゴリアテについてであった。堅い装甲を貫き、平然と攻撃を当てて来たあのコピー機体がどんなものかを確認したかったのである。


「そうか……そういや前のコピーゴリアテはどうだったんだ?」


「アレか……アレはな、どうやら俺が作った機体よりかなり強化されてる奴らしくてな、……少なくとも二倍だ、俺の作った奴のな」


前に見た時に考えていた。アレがどれだけヤバいのかを判断すると、おおよそ二倍程度強くなっていると判断していた。完全上位互換と言う奴である。憐はそれに対策する機体を作ろうとしていたが、上位互換になる装備がある以上、何を作っても無駄に終わる。


「……成程……上位互換になるって訳か」


「そう言う事だ。……しかし一つ良いことがある、奴は恐らく今回の機体を詳しくは知らないって事だ……」


そう言う憐の顔には、悪魔のような笑みが浮かんでいた。そして休憩時間が終わり、決勝戦が始まる。早速雷はあの場所に向かう。明らかに夜になっているが、それでも続行される。やれと言われてはやるしかないのであるから。


『さぁ始まりました決勝戦!しかし最終日でないですが……まさかやることになるとは……』


『えぇ、しかし決勝戦ですから、やるしかないですよ。さて、裒選手と雷選手の二人が戦いますが……』


ナレーター達は先程の戦いを見ているため、雷の機体がぶっ壊れている事を知っている。更にギリギリまで名前も機体も分からない状態であるので、誰も何も分からない。憐と雷だけが知っていた。


『確か雷選手の機体が壊れてしまったんでしたよね……?という事で新機体を作って来たと言うのですが……その……名前が分からないんですよね』


『出てから分かるという感じですね。さぁ、二人の選手入場です!』


スーツを着る前に裒が話しかける。呆れたように話しかけてくる裒。そしてそれとは逆に自信満々に話しかける雷。それは以前とは違い何も問題が無いというように話すのであった。


「やぁ雷君」


「よぉ裒」


皮肉たっぷりに話しかけてくる裒であるが、雷はそれを真っ正面から受け止め言葉を返す。皮肉の一つでも返すべきなのだろうが、こう言う奴相手には皮肉よりもただ真っすぐ話しかけるのが一番いいのだ。


「また来たのかい?わざわざ私に倒されにね」


「へっ、二度も負ける気はねぇよ」


嘲笑うようにそれを言う裒と、微笑み笑顔を返す雷。二人して煽るように話していくのであった。


「そりゃよかった。ここに来てくれないとある事が言えなくなってしまうからね」


「……ある事?」


雷がある事とは何だと聞くと、裒は声高らかにこういうのであった。それは裒がもし機体をコピーできなかった時の為に、策として用意したものであった。つまりはもうなりふり構わないでやるという事であった。


「あぁ。賭けをしよう。私が勝ったら君の機体の情報を貰う。私が負けたら……そうだな何でもしてあげよう」


何でもするという裒。それに反応するように喋る雷。何でもすると言ったのでもし負ければ何でもすることになるのだ。とは言え裒は最初から負ける気は無いようであったが。


「ん?今なんでもするって言ったよね?」


「あぁ。何でもしよう。最も……負ける訳などないがね」


自信たっぷりの裒。それとは別に、何故そんなに自信満々になれるのかとため息をつく雷。そして遂に二人の戦闘が始まるゴングが鳴るのであった。


「そうか……」


スーツを手に取ると、二人は颯爽とその機体を着るのであった。裒が着るのは何度も来ていたあの機体、雷が着るのは革命の機体。体に大量のエンジンが付いている機体がお見えになる。


『さぁ遂に二人がスーツを装着していきます!やはり裒選手はあのスーツを使いますか……っと?雷選手は何でしょうかあれは?』


『アレは……何でしょうか?』


よく分からない機体にざわつく会場。それはナレーター達も同じ。かなり訳の分からない機体を着た雷を見た裒は、その機体を欲しがっていた。まだ欲しいのかと思うが、これだけ貪欲にならなければ社長は務まらない。


「……この機体は、あの憐の叔父が残した設計図の一つ、それを更に覚醒させた物、『革命』さ。……まさに戦闘革命ってな!」


「そうか……その機体も私の物にする……!」


前に出したあのふざけた武器を出す裒。雷はと言うと、その機体を確認するように動かすと、吸収しようと武器を手にした裒に向けて全力で蹴りを入れる。


「やってみろよ!……やれるもんならな」


言葉が後で聞こえる程の速度。蹴られた事にすら気が付かないレベルの蹴り。それをモロに喰らった裒だが、蹴りを食らったことすら気付かずに壁に激突してしまう。


「早」


「うらぁッ!」


目では追えないレベルのスピード。既に更に追撃するように拳を叩き付ける雷。腹と顔をボコボコに殴られ、壁にめり込んでいく裒。そして後退すると、裒は壁から出てくるのであった。その機体は大分ボロボロになっていた。


『はっ早い!何ですか今のスピード!』


『裒選手明らかに対応できていません!蹴っ飛ばされ壁に叩きつけられています!』


這い出て来た裒は雷にどういう機体なのか疑問に思うと同時に、殴られた事を理解していないようであった。


「……なぁ?やらせねぇんだよ、こっちはな……!」


「早い……!何だその機体は……!?」


雷の再起が始まる。

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