第33話『どっちが悪者?』
当然だが、これには雷も憐も若干の笑いを見せていた。どちらかと言えば苦笑いであるが。まさかここまでになってしまうとは考えていなかったのだ。当然の事と言えば当然である。
「おい!説明しろよ!さっさと説明しろ!」
「参ったな……ま、どうでもいいか」
あちら側の問題なのだ。これ以上関わる気もないが、ルナ自体に問題はないようであると判断している故に、ただ見ているだけではいけないと思い始める。
「何なのよ……何が正解なのよ!」
困惑するルナ。泣きそうになっている彼女であるが、それを見た雷は彼女に逆に戦闘しようというのであった。
「……来いよ、俺は少なくとも問題ねぇ。……今はな」
「あぁーッ!」
情報を処理しきれないルナであるが、それを振り切るように拳を叩き込もうとする。観客達も大パニック。もう滅茶苦茶である。
「どういうことだ!?何が起こっている!?」
「分からん!何なんだ!?」
『あぁ大変な事になっています……ルナ選手、雷選手、これは一体どういうことなのでしょうか……』
『分かりません……何なんでしょうかこれは……』
皆大混乱状態。冷静だったのは雷と憐くらいであった。当然ルナも困惑しながらもこちらを殴りかかって来るのであった。
「畜生!誰か説明しなさいよぉ!?」
「……俺だって知りたいさ。……まぁその辺は憐が何とかしてくれる」
大体アイツが何とかしてくれると判断している雷。正直なところ、そう言う奴は憐に任せればいいと思っている。かなり頭を使う事をすると頭が痛くなって来るのだ。という訳で何とかしてくれと雑に宣言したのである。そんな中、デンカの方のマイクから突如言葉が送られてくる。
「……洗脳が解け始めているのか?いやそんな訳が……あり得ないな。十五年もかかったんだぞ?高々一時間程度でこうなる訳がねぇ。ある訳ねぇだろ」
全員に聞こえるほどの音量。当然観客達も、ナレーター達も、ルナも、その言葉を聞いていた。それ故にその言葉の矛先はデンカに向く。
「……何?」
「おい!何だ今の!誰が言った!?」
「アイツだ!あのルナって奴の相方が言ったんだ!」
ちなみにだが、指令室と呼ばれる今憐とデンカがいる場所は、観客達からの声が聞こえないような場所にある。だから、デンカはただ観客達が騒いでいるようにしか見えなかったのだ。電源もケーブルもマイクの音量も切っているので聞こえる訳もないはずだと判断した。
「は?聞こえてる訳ねぇだろふざけやがって……こっちはてめぇらに構ってるほど優しくねぇよ。ボケ」
だが皆には聞こえている。それを知らないのはデンカだけ。観客達もこの一言には怒り、ナレーターもこれには流石に苦言を呈さなくてはならないと判断した。
「おい今何て言った!?俺たちの事ボケ呼ばわりしたのか!?」
『……えぇ、確かに聞こえましたね……今、確かに奴は我々の事を侮辱しましたね』
流石にナレーターの声は聞こえるのだが、それでも何を言っているんだと言うように喋っていく。呆れているように話していくデンカ。
「何言ってんだか。そもそも電源もマイクも切ってるのに聞こえる訳が……」
とここである物を発見する。それは一見蠅のように見えた。だが近くでよく見てみると、何かがおかしいことに気が付く。なぜか少しも動いていないのだ。
「ブブブブブ……」
「……あ?」
手に取ってみる。するとそれは機械で出来ている物であると理解してしまう。目の部分はマイク。口の部分はスピーカー、そして完全に機械で作られたそれは、こちらを睨むように飛んでいるだけであった。
「……なんだこれ」
「ブブブブ……ぶ、ば、馬鹿」
言葉を発し始めた瞬間、デンカは悟る。今の今まですべての会話をこれで聞かれ、そして全てスピーカーに流されていたのだという事に。
「……まさか!」
どうにかできると言われた雷であるが、流石にどういうことなのかを理解していなかった雷。なぜ今この会話が出ているのだ?と困惑するのであるが、とりあえず聞いてみる事にしたのであった。
「憐、何をしたんだ?」
「あぁ。一言で言えばあの野郎の部屋にマイクを飛ばしたのさ」
憐はそう言うが、雷は内部構造を知っていたので、そんなことが出来ないと思う雷。虫一匹は入れるくらいしかないサイズの隙間しかないのに、なぜそんなことが出来るんだろうかと困惑すると、憐はノリノリで報告するのであった。
「……いや無理じゃね?確かお前らの部屋の入り口に隙間はほとんど無いはずじゃ……」
「それがあるんだな。虫一匹程度が入るくらいの隙間が」
「……え?じゃあ何か?虫程度の大きさのマイクを飛ばした……って事か?」
憐は小さなマイクを作り、それを奴の元に飛ばしたのである。滅茶苦茶いい笑顔で話しかける憐。
「そうだ。……見事に引っ掛かってくれたようだがな!」
自分が見事に騙された事に、怒りをあらわにするデンカ。だがそれよりももっと怒りを出していたのはルナの方であった。これにブチ切れるルナ。何とか絞り出した言葉は少なかった。
「……な……何だってぇ!?」
「どういうことだデンカ!お前は私を今まで……今まで洗脳していたとはどういう事だ!?」
デンカは見苦しい言い訳を始める。流石に今の彼女にはそんな糞みたいな言い訳が通じる訳もなく、更に雷が告げる。
「ぜ、全部嘘だ!分かるだろ!?お前なら分かってくれるだろ!」
「それもウソか?なぁ、そうだろ?」
煽るようにデンカに伝える雷。一応聞こえていないのであるが、それでも既にデンカが頭を抱えている事は確実であった。ルナは更にデンカにどういう事なんだと話しかける。
「……教えろ!デンカァ!」
「……逃げるか……」
「はーい警察でーす。とっとと手ぇ挙げて大人しくお縄につけよ」
とここで逃げを選択したデンカに、警察達がやってくる。既に銃を突き付けており、ついでにロロロもやってきていたのであった。これにデンカは怒りをあらわにして、叫び始める。計画にはザッと十五年もかかったのである、それを高々一時間で無かった事にされたのである。これに怒らない訳もないのだ。
「……十五年もかかったんだぞ!俺はこの計画に!こんなくだらない事で俺の計画が……」
「はーい残念。くだらないのはお前の人生だったってオチね」
呆れを通り越して無感情になるロロロは、さっさと手錠をかけるとそのまま引きずるようにパトカーに乗り込むのであった。
「止めろ!俺を連れていくんじゃぁねぇ!ふざけんな!俺は……俺は『ジョン・デンカ』だぞ!アイツの娘なんだぞ!本当にいいのか!?これ以上スラムのクズをのさばらせていいのか!」
ハッキリ言ってスラム出身だろうが同じことであると判断したロロロ。そこに善も悪も無いのだ。たとえどこから来ようが、結局は何をしたかが重要なのだ。だからこそ雷の事をロロロは一目見た時から問題ない人間であると判断したのであった。
「はーい詳しいことはぜーんぶ署で聞くからね。黙っててね」
そしてロロロは思い切りデンカの腹を殴ると、グダグダ喚くデンカをとっとと刑務所に連れていくのであった。
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