三章『大規模トーナメント編(後半)とスラム侵入編』

『極悪と外道とスラム』

第32話『帰路と今』


憐が再起したのを確認すると、雷はある場所に向かおうとしていた。それはスラム近くにある場所で、その土の中からある物を取り出す。雷の親父と親友の二人が最後に残した、名前が書かれたピンである。それをポケットにしまうと、帰路に着く。


「さーて……俺も頑張らねぇとな」


とそんな彼を後ろから話しかけてくるジュナ。やはり仮面はつけたままであった。そして雷はと言うと、振り向かないで話しかけてくるのであった。


「やぁ雷。……二位おめでとう」


「ジュナか……俺正直、結構今回へこんでるよ」


実際負けた事は事実である以上、雷はかなり凹んでいたのだ。それを表に出していないだけで。ため息をつきながらも気丈に振舞う雷。そしてジュナはと言うと、そんな彼を見て少し悲しそうな顔をしていた。


「そりゃそうだろうね。……明日の試合、まず君はあの女の事戦うことになるよ」


「……ジョンの娘か?」


相変わらず奴の事を言うと、殺意が増える雷。正直に言えば雷はあの男に人生を狂わされているのだ、ここまで殺意が増えるのも当たり前なのかもしれない。ジュナはそれを止めるように頼む。


「そうだよ。……その殺意止めて」


「……あぁ、すまん」


流石に人前でこれだけの殺意を出してはいけないと思っているのだが、自然に出てしまうようであった。ジュナはその殺意を娘に向けているのかと考えた。実際の所であるが、雷は娘の方に関してはそんなに恨んではいなかった。そもそも関係ない人物であるのだ。悪いのはあの畜生であって、娘ではない。


「全く……何があったの彼女と?昔虐められてたの?」


「父親にな」


ジュナはその言葉を聞くと、何か思い当たる節があるのか、頷いてその言葉を肯定する。


「あー……そう言う?まぁどうせ戦うことになるんだ、頑張りなよ!」


「……あぁ」


一方の娘……『ルナ』であるが、彼女は自分の父親を雷に殺された事をかなり恨んでいた。何も悪い事はしていないと言っているが、それは見せないようにしただけで、実際畜生ではあったのだが、彼女はそれを知らなかった。そしてもう一つ知らない理由がある。彼女の傍にいる女の事である。こいつが彼女に間違った情報だけを与えているのだ。


「……どうして私の父を殺したんだ……!何も悪いことはしていないのに……!」


「そうだよ、君の父親は何もしていないのに殺されたんだよ」


「……絶対に許さない……!」


何も知らない彼女はありもしない復讐に燃えるのであった。そして次の日。雷達は再び闘技場に来ていた。当然、勝つためにここに来ている。選手控室にいながら、二人は会話していた。


「さて。俺、復活!」


「テンションは戻ったか?」


新型ゴリアテの元を雷に渡し、いつでも大丈夫だというようにそれを着る雷。そしてまずは一戦目を見据えていた。雷達が最終的に戦うことになる裒を対策するのも別に構わないのだが、それ以前に勝たなければならないのだ。


「あぁ。しっかりだ!……さて、今回のゴリアテに関してだが、まずあの裒と戦うことを考えてはいない。言っちゃあなんだが結局のところ最終的に戦うってんなら……その時に考えるさ」


「そうか……まずは一戦目。これに勝たなきゃ始まらねぇ」


「そうだ。……行くか!」


雷は闘技場内に入り、憐は雷の助けをするためにマイクを付けて、対決が見える椅子に座るのであった。ナレーター達も盛り上げる為に頑張っているようであった。


『さぁ決勝トーナメントに入りました……決勝に残った七人で戦ってもらいます!』


『基本的に優勝までには三回勝てばいい感じですね。今回も二戦目まで戦うことになります。決勝戦は最終日と言う訳ですね』


『成程……ではまず初めの戦いです!とりあえずここでは三試合ありまして……一応シード枠の裒選手が二戦目で戦うことになりますね』


『成程……何はともあれ一戦目です!』


そして遂に雷はルナと対面する。ルナはこちらに殺意をぶつけてくるが、この程度は日常的に喰らっていた物。自分よりも低いものであった。そして彼女は話しかけてくる。言葉に怒気を宿しながら。


「……あんたが父さんを殺したってのは……もう分かっているのよ」


「あぁ、俺が殺した」


これを否定する気は無い雷。やったのは事実であるがゆえに、当然のように話していく。これにひどく怒りを覚えるルナ。当たり前ではあるが、こんな事を言われてはキレるのも当然。


「……何で?何も悪い事してなかったじゃないの!」


「していた。お前に言わなかっただけで、当事者の俺が言うんだから間違いない」


何も知らない奴が何を言っているんだというように、雷はルナに話しかける。と、ここでルナは遂に彼の出身地を言ってしまう。


「スラム出身の癖に!」


それにザワつく観客達、スラムと言う場所から来たという事実がある以上、それは黙って見過ごすことは出来ないものであった。段々と騒ぎが大きくなっていく観客達、それはナレーター達も同じであった。


「スラム……?」


「雷はスラム出身だった……?」


『おっと……雷選手がスラム出身と言っていますが……どういうことなのでしょうか?』


『そう言えば雷選手、出身地を言っていませんでしたね……前から気になっていたのですが……あのスラムから……?』


スラムは悪名高い場所であり、そこから出て来たのであればこうもなろう。しかし雷はと言うと逆に冷静であった。ルナはと言うと、むしろヒートアップしていた。


「どうせあそこから出る為に殺したんでしょ!?そうって言いなさいよ!」


「そうだ」


一応言っておくが雷は煽っていない。そうだって言えと言われたので言っただけであり、それ以上の意味はなかった。言葉にすらならない叫び声を上げながらも、何とか理性を保ち、そのまま殴り倒そうとする。


「ぶっ殺す!」


「やめとけ、お前じゃ勝てねぇよ」


スーツを使わなくても余裕で避けられる攻撃。怒りに身を任せただけの単調で何もない攻撃。そんな物に当たるわけもなく、雷はその攻撃を避けつつ、何とか冷静に説得しようとするのであった。まぁ怒りのせいで全く聞いていなかったのであるが。


「クソ野郎!お前が!お前がやったんだろうが!」


「そりゃぐうの音も出ねぇな。……しかしあの男がクズであるという証拠だけは残っている」


正直なところ、本当に雷があのジョンをぶっ殺したので何も言えないが、それでもやるだけの事があるという事実だけは認めて貰えなければと、憐に報告するのであった。


「何!?」


「……憐!」


当然それを知っていた憐は、すぐに接続を選手専用から下にある観客達へのマイクにつなげる。そして憐は早速証拠などを話していくのであった。それを聞いたルナは驚愕する。今まで自分が聞いてきたのは嘘だったのかと頭を抱える。


「あぁ。元々スラムにいたアイツは畜生でな、……人を動物程度にしか思ってねぇんだよ。実際証拠もあるしな」


「何……!?」


しかしルナの相方はそれを嘘だと言うのだ。だがルナは既に疑問を持っており、それを聞き返すように叫ぶルナ。


「嘘ですよ。気にしない気にしない」


「どういうことか教えろ!『デンカ』ァ!」


ブチ切れるルナ。そしてそれを聞いていた憐は、とある物を取り出すのであった。

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