第31話『再起を誓う悪魔』
雷は憐が出ていってから数時間後に起き上がった。ネリンは眠らないで雷が起きるのを待っていたのだ。先程まで背骨すらも折れそうになっていたとは思えない起き上がり方である。周りを確認すると、そこにはネリンの姿があった。
「……あぁ……」
「雷さん!」
しかし雷は自分が生きているとは思っていなかったらしい。正直あの時死ぬ気であったのだ。生きている事が奇跡に近いのだ。だからこそ彼はどうしてここにいるのかと考えていたのであった。そして隣にいるネリンに、自分が生きているのかと質問する。
「……生きてるか?」
「生きてますよ……!大丈夫ですか!?」
腕を回し、首を回し、特に問題ないと判断したのか、立ち上がろうとするが、そこで腰をやってしまったのか痛がる雷。と不意に憐はどこにいるんだと思う。
「……まぁな。……イテテ……あいつは?」
「憐さんは……機体を治しに行きました」
その報告は雷にとっては普通の事だろうと考えていたのだ。正直なところ、アイツなら自分より機体を優先するだろうと考えていたし、自分達がまだそう言う状態でしかないと判断していたのであった。
「そうか……まぁあいつならそうするだろうな」
「……何でですか?」
ネリンはと言うと、それを信じていないようであった。そもそも、そんな信頼関係で大丈夫なのかと思っていた。しかし雷と憐は大分違う信頼関係にある。雷は作る機体が強いことを信用していたし、憐は強さを信頼していた。そして二人は過干渉を心掛けていた。たとえ気になっても、それ以上の事は話さず、知らない振りをするのだ。
「俺は割とあいつを信用してるぜ?俺はそんな簡単に死ぬ玉じゃねぇって知ってるのさ。……だからあいつには機体を優先してほしい」
「……本当にいいんですか?」
本当にいいのかと聞くネリン。よくわからない信頼と言うモノであった。それを聞いていた雷は、ネリンに問題ないというのであった。
「あぁ。俺はアイツを信用してる。……あいつも俺を信用してる。だからこれで良いのさ。俺らの仲はそれでいい」
「……」
本当にいいのかと困惑するネリンであったが、その前に雷はある事を問う。それはなぜ今ここに彼女がいるのかという疑問であった。今の時間であれば見回りをしているはずであるから。
「それで何でお前がいるんだ?」
「え!?えーっと……ほら、お見舞いに来たんですよ!」
正直に言うことが出来ずに誤魔化してしまうネリン。それを聞いた雷は眠かったので一人眠ることにした。ネリンもそろそろ帰る時間であったので、名残惜しいが帰ることにしたのであった。
「そうか……眠いから寝るわ」
「そうですか……」
そして憐はと言うと、一人家の中でゴリアテを強化しようとしていた。だがどうやってもアレを超えることが出来る機体を考えることが出来ない。自分の機体をパクられた挙句、それで自分の機体を破壊されたのだ。これ以上ない程の屈辱である。
「あの機体に対抗する機体を作らねぇと……!」
故に彼はアレを倒そうとすることに躍起になっていた。一方の雷はと言うと、ベッドに横たわりながらひたすらある事を考えていた。なぜ負けたのかという疑問でもあった。少し考え、自分の鍛錬不足だと判断した。それと判断不足も。少なくとも憐は出来ることを全部して、それで少し間違えただけなのだ。それを責める気は雷には無かった。
「……」
そんな事を考えていると、自分が暇である事に気が付いてしまう雷。考えてみれば自分はやりたいことなど欠片も無いのだと判断してしまったのだ。
「しかし、暇だ」
本当にやることがない雷。暇なので病院を抜け出し、街を歩く。本当にやることがないので、しばらくグダグダと街を歩き続けていた雷。すると雷は変な人物に話しかけられる。
「……どっかに行くか」
「ヘイ兄ちゃん!」
「何だこのおっさん!?」
おっさんと呼ぶ雷。その男は白い髪に死装束を羽織った何とも言えない男であった。しかも雷以外には見えていないのか、見ていない振りをしているのか、誰も反応していなかった。そんな彼は占い師をしていた。
「悩んでなーい?俺ちゃん占い屋!占ってあげるよぉん!」
正直滅茶苦茶胡散臭かったが、それでも大分参ってしまっている雷は、占いにでも縋りたい気分であった。一応無料であった雷は、とりあえずやる事にしたのであった。
「……じゃあ一回……」
「よし来た!じゃあこのカード一枚めくってくんね?」
テーブルにばらまかれたカードの中から一枚めくる雷。それを白い服を着た男に見せると、男はそのタロットカードの意味を説明していく。
「……じゃあこれ」
「ほい来たぁ!これは……」
「何です?」
それはいわゆる皇帝と呼ばれるカードである。皇帝のカードにはこういう意味がある事を告げていく。
「……
「……有り余るな」
信用と共感。それは二人の関係であり、未熟や障害は今までの彼を示す。未熟だったからこそ奴に負け、そして今まさに障害が彼を襲っている。壁と言う名の障害は堅く高い。故に自分自身を表しているという事でもあった。
「よっしゃ!じゃあもう一枚引いてくれぇい!」
「これだ」
そして次に引いたカードは世界のカード。しかも正位置の。正位置のカードはこういう意味を持っていた。
「……
なぜか答えを言う時だけよくわからない魂を出しながら喋る白い髪の男。読み終わるとまた何とも言えないおっさんに逆戻り。……年齢的には一応おっさんではないのだが。
「……成程……」
「ま、たかがカードだ!お前の運命を決めるような物じゃねぇよ!なーに結局自分自身!お前で立ち向かうこった!」
そう言いながら背中をバシバシ叩く白い服の男。それに励まされた雷は憐の元に向かうことにしたのであった。
「……そうだな。ありがとな、おっさん」
「なーに心配しなさんな!後俺の名前はってもう行っちまったよ……まぁいいや!頑張れよ兄ちゃん!」
「さてと……そうだな、アイツのところに行くとするか」
そう言う雷の後ろで、その白い服の男はいきなりやってきた
「……もっといい機体を……もっと強い機体を……」
「おいしっかりしろよ」
しかしその言葉は届かない。一度目の前に集中すると、他のことなどお構いなしになってしまうのが憐の悪い癖。そんな彼を見かねた雷は、その憐の頬目掛けてそんなに痛くないビンタを放つのであった。
「誰にも負けないような機体を……」
「ふん!」
「うげっ」
ここで雷がいるという事を理解する憐。今の今まで全く気にしていなかったのである。流石にこんな状態になっている憐を見過ごすわけにもいかず、雷は話しかけるのであった。
「……あのなぁ……お前……」
「あぁ雷か……すまん俺のせいで」
自分を卑下する憐であるが、何かあるという事は雷も同じ。何も考えないで指示を貫いたのは雷自身であるから。
「……俺は文句も何もねぇよ。お前のせいだとは欠片も思ってねぇ。……そりゃまぁ確かにアレを倒すのが俺らの目的でもあるさ。……しかし結局アイツと戦うには勝ち上がらなきゃならねぇんだ。つまりはお前の力が必要だ」
今回トーナメントを勝ち抜かなければ結局は戦うことも出来ない。つまりはそう言う事なのである。だからこそ、今勝つ機体を作るのではなく、ずっと勝てるような機体を作らなくてはならないと諭すのであった。
「……どうすりゃいい?」
憐の諦めが混ざった声色。雷はそれを聞いて逆に突っ放すように話をするのであった。
「……俺に聞くんじゃねぇよ」
憐はそう言われると、ゴリアテを再び治していくのであった。その目には間違いなく再起の光を宿しながら。
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