第29話『裒戦、其二』


黒い火を灯し始めた雷。先程までの力を使うような戦闘スタイルから打って変わって、組み技を使い始めた。腕を掴まれれば地面に叩き付けられるくらいの組み技。この唐突な変化に裒は付いてこれないようであった。


「今までとは違う……!」


「……!」


それから逃げようとすれば、今度は体を抑えられ強制的に地面に叩き付けられる。そしてその状態からひたすら機体を破壊するための攻撃を叩き込んでいく。至極冷静に、当たり前のように。


『あーッと!雷選手、今までとは変わって搦手を使うようになりましたよ!』


『一度組まれては抜け出せないようですね。地面に叩き付けられたりしてます』


憐も観客達も、再起だと言うように雷を応援する。地面に組み敷かれた裒は、この状態に焦っていた。


『いいぞ雷!そのまま押し切っちまえ!』


「離……せ!」


ここで何とか組み技から抜けようとするが、それすらも雷にはお見通し。抜けた場所から更に組みかかる雷。既に片腕が折れ掛けており、流石にこれには悲鳴を上げていた。


「……次」


「ガァッ!」


しかし、こんな状況であるにもかかわらず、裒は笑っていた、近くで見ていた雷は気味が悪かった。なので思い切り投げつけてしまった。壁にぶつかる裒。


『抜け出したと思いきや!更に掴みます!』


『清々しいくらいの関節技ですね……っと、投げられました』


体へのダメージは凄いが、機体は中々に堅いのか、ゴリアテでもいまだに腹部装甲を破壊するので手いっぱいであった。とここで裒は今日で最高とも言える笑みを浮かべる。気味の悪い笑顔に若干引きつつ、それでも近づくのであった。


「流石だね!……やっぱり君の機体が欲しいや」


「……勝手に言ってろ」


「じゃあ……これを使わせて貰うことにするよ!」


と言うと、裒は背中から変な武器を取り出した。それは注射器と槍を合体させたような武器であり、見た目はそんなに強くなさそうであった。とは言え武器は見た目ではない。強さなのだ結局は。どんなに見た目が酷かろうが、強い方がいいのだ。


『おっと?裒選手、何かを取り出しましたよ?』


『アレは……槍でしょうか。それにしては少し派手と言いますか……』


雷はそれを見て、ハッキリヤバいと判断した。何かがおかしい武器であるがゆえに、それを見ていることは出来なかったのである。


「……んで?」


「さぁ……君の機体を貰うよ!」


こちらに飛び掛かってくる裒。憐は遠くから見ていたが、大丈夫だと言い始める。正直に言って危険だとは思わなかったのである。


『何か分からんが……特に強くはないな。避けないでもいいんじゃねぇのか?』


雷はここで考えるのを止めてしまった。大丈夫だろうと自分に言い聞かせ、それを受け止め一回転することで勢いよく地面に叩き付ける。腹に槍が少し刺さるが、それは精々蚊に刺された程度の物。関係ないと思ったのだった。そして地面に叩きつけられた裒であったが、その顔は満面の笑みであった。


「……そうか」


「フフフ……さぁ、使わせて貰おうか!」


と、ここで裒は何と槍を自分自身に突き刺したのだ。これには皆、驚愕し、そして困惑する。一体何をしているのだと考え、皆の動きが止まってしまう。ただ一人裒を除いて。裒は笑いながら皆の疑問を後目に雷に向けて歩く。


「!」


誰もが試合を放棄したのかと考えていた。しかし、雷は何かがおかしいと判断していた。憐は逆に、何が起こっているのか分からないようであった。


『自分に突き刺しやがった……?何やってんだアイツは?』


ナレーター達も、観客達も、これには困惑。何をしているんだと考え、そして機体の変化に驚愕する。


『どういう事でしょうか、自分の体に槍を突き刺しましたよ!?』


『……いえ、見てください、彼の機体が変化していきます』


次第に機体は大きな腕と足になっていく。そして完全に変化が見えた時、憐はそれを見て呟いた。自分が作ったゴリアテが、目の前にもう一機あるのだ。誰もが驚きを隠せない。だが雷は、目の前の敵をただ倒すとだけ冷静に考えていたのでそれを気にも止めなかった。


「これが……私の一点物、『C©P』さ。見てごらん。……君の機体だよ」


観客達に見せつけるようにその機体を動かし、そして雷に迫ってくる。


『何という事でしょうか!?裒選手の機体が雷選手のゴリアテのようになっていきます!どういうことですか!?』


『私にもさっぱりです。……ですが、少なくとも裒選手が何かをしたという事なんでしょうかね……』


憐も流石にこれを理解、あの武器が何かをしたのだと把握する。だがそれでもありえないと頭を抱える。それもそうだろう。あの機体は自分が完璧に作り上げた物であるから。自分だけが作れると思ったから。


『……まさかさっきの武器か……!?雷!注意しろよ!』


「……あぁ」


今更過ぎる忠告であるが、それでもまだ雷は問題ないと判断してしまう。なぜなら今の彼は冷静であるがゆえに、思考が単純化されてしまうのである。頭がスッキリしすぎて、逆に考えれら無くなってしまうのである。とここで裒が遂に雷に止めを刺そうとする。


「さぁ!自分の機体で死ぬと良い!」


「死ねねぇだろうが」


とは言った物の、実際自分の機体がどれだけヤバいのかは知っている。自分が乗っているのだから。既に腕の一部が破損しており、明らかに不利と言うような感じであった。残っているのは右腕と下半身のパーツ。


「クッ……」


「どうしたんだ?さっきまでの勢いは!」


「……少し黙ってろよ」


とここで近づいた裒に残った右腕での攻撃を浴びせる。それに掠ってしまうと、下半身パーツがごっそり持って行かれる。だが、それでも完全にぶっ壊したわけではなかった。


「おぉ……っと!やっぱり脅威だなその攻撃!しかし君の機体と同じ攻撃力なんだよ私の機体はね!」


裒の攻撃が下半身打ち抜く。下半身のパーツは完全に壊れてしまい、残ったのは顔と右腕だけ。観客達もこれには大盛り上がり。


『あーッ!雷選手のゴリアテが一撃で半分以上持って行かれました!』


『これは不味いですね……とは言え試合はまだ続行するようです』


残ったのが右腕だけになったが、それでも戦うという雷。とここで裒が不意に話しかけてくる。


「さぁどうだい?……君はどう思うかい?!」


「……俺は嫌いだと思うよ」


どう思うかの質問に、正直に大嫌いだと答える雷。先程の槍を見せつけるように取り出すと、それがデータを回収するように作られた物であると把握してしまう。


「そうか!……しかし、私の前で安易に受け止めるという行為をした事を後悔するといいよ……!」


既に防戦一方に追い込まれてしまう雷。何度か体に攻撃が当たっており、普通であれば耐えれらないくらいの痛みが彼を襲っているだろう。雷は不意に、自分の腕パーツを飛ばす。その行き先は憐がいる部屋。


『苦戦を強いられていますね雷選手。……っと?ここで雷選手、腕のパーツを自ら外しましたよ?どうしたのでしょうか……』


当然その意図を問う憐。しかし雷はそれに、自分の犠牲を考えているような声色で話しかける。あまりにも暗く、そして低い声で。


『どうした雷!?何やってんだ!?』


「……最後まであがくさ。……でもこれ以上機体は破壊させられない。……ゴメン憐。ちょっと死んでくる」


『雷!?あず』


その会話を最後に、雷は自分の通信装置を捨てる。スーツを着ていない雷であるが、それでもまだ戦おうとするのであった。



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