第28話『裒戦、其一』


憐の部屋に入っていた奴らは、いきなりの防犯装置に面を食らい、近隣住民達も集まってきて通報を始めていた。


「なんだこれは……!?」


「クソッ!どういうことだ!?」


その二人がうろたえている間に、警察がやってきて二人はあっさりと捕まってしまった。簡単な仕事だと言われたのにもかかわらず、あっさりと捕まったのだ。銃を突き付けられ、手を挙げて連行される。


「警察だ!おとなしくしろ!」


それを遠隔カメラで見ていた憐。二人が捕まった事を理解すると、スマホをしまいながら三人に話しかけるのであった。


「まぁあの場所にはね、防犯用の特殊装置を組み込んでおいたのさ……馬鹿なら間違いなく引っ掛かる奴をな。うん引っかかってるよあいつら」


「……成程。……一つ聞きたいんだけど、じゃあデータはどこにあるの?」


そう聞かれる憐であるが、憐は自分の頭を指しこう答える。


「俺の頭の中よ」


「……そう言う事かぁ……」


成程と言うように頷き、そして更に言葉を続ける憐。


「行っちゃあなんだが紙とかデータにするより、俺の頭の中で考えて作る方がいいしな」


「……そうなのか?」


疑問に思うのも無理はない。そりゃ雷は頭がいいわけではないが、悪いわけでもない。だが設計図を完璧に、しかも既に作った何十機も含めて覚えているというのだ。これには流石に疑問にも思う。とここで憐は頭を押さえながら嫌な気分になっていく。


「そらそうよ。……さて、こりゃ厄介なことになってきたな……」


「と言うと?」


「そりゃ簡単よ。お前あの父親がなりふり構わずやってくるようになるんだぜ?……最悪だろ?」


要はまたあのよくわからない奴がやってくる可能性があるのだ。嫌になってくる。とは言えそれはぶちのめせばいい話である。さほど問題はないだろうと考えるのであった。


「そりゃ最悪だ。……でもお前の中にあるんだろ?全部のデータは」


「あぁ。……じゃあ帰るか」


という訳で今日は帰ることにした二人。ネリンに別れを告げてさっさと帰るのであった。


「そうだな。じゃあなネリン」


「はい!明日の試合楽しみにしていますね!」


そして家に帰ると、二人はそれぞれ何をするか考えていた。雷は明日の為に早く寝ることにして、憐は最後まで機体を調整することにしたのであった。


「じゃあ俺寝るから」


「俺は機体を再調整するか……よし、じゃあお休みな」


そして翌日。二人は目覚めると、すぐにコロシアムの中に行くのであった。時刻は正午。当然多くの参加者が集まる中、二人は準備をする。中では既にエキシビションが行われており、参加者の熱もヒートアップしていた。


「よし!」


「既に機体もいい感じだ。お前なら大丈夫だ!行ってこい!」


「よっしゃぁ!」


二人の事実上の決勝戦が行われることとなった。ナレーター達も当然楽しみにしており、男の方はハイテンションで眠れなくなっていたようであった。


『さぁ総当たり戦最終日です!……今日は一回しか戦闘がありませんがね』


『しかし見ごたえのある試合になるでしょうね。……私興奮で眠れませんでしたからね』


そんなとなりの奴は放っておいて、女ナレーターは冷静に選手の紹介をしていくのであった。


『さて、選手紹介です!』


そんな中、相手である裒が話しかけて来た。雷は何だと言うように問うが、裒は奇妙な事を言い出したのである。


「君が雷だね?」


「そうだな。……何だよ」


「何、君の機体が気になってね……欲しいなと思ってね」


そう、こんな事を言ってきたのだ。これには雷も困惑し、頭大丈夫かと思った。しかしそれは言わない。あくまでそれは別である。出来ないという事は分かっているが、それでも言うべきではないと判断したのだ。


「……やらねぇぞ。俺の機体だ」


「まぁ分かってるよ。……しかし、本当に君の機体が気になるんだよ!」


目を輝かせてそう言う裒であるが、雷はこれに対してハッキリと奇妙な事を覚える。しかしそれは言わない事にした。それを言っても何も変わらない。


「……そうか」


とここで試合が始まるゴングが鳴る。互いに即座に走り、拳を叩き付けようとする雷。観客達は好きな方を応援していた。


『さぁ試合のゴングが鳴りました!』


雷の最初の一撃を避けた裒、雷もそれに倣うように拳を避け、互いに振り返って顔を見合わせる。


「楽しい試合にしようじゃないか!」


「そうかぁ!」


とここで雷は速攻の連撃を放つ。重く素早い一撃を何度も放っていくが、それは裒の体に当たらない。


『早速雷選手が行った!連撃の嵐です!』


『しかし、避けられていますね。やはりデータファイターです、既に見切っているのでしょうか?』


その連撃を避けた後、雷の体に蹴りをお見舞いし、そして距離を取る裒。ここで雷は相手がひたすらデータを見てこちらの動きを理解しているのだと思いだし、どうするかを考えるのであった。


「君がどう動くのかはもう分かっているんですよ。……残念ですが私に対しては一つも攻撃が当たらないと思いなさい!」


本当に攻撃が一つも当たっていないのである、彼のいう事が本当であると把握している雷。観客達もこれには驚き、裒に向かって歓声を浴びせる。


「何だこいつ……!確かにデータ野郎だ!」


『おい雷!』


と考えていると、ここで雷の耳に憐の声が響く。驚くが戦闘は続けている。拳を掃いつつもその声に耳を傾ける雷。


「うわビックリした!なんだ!?」


『何、こちらから話しかけたってことだ!基本的に戦闘してるときはこう相方が喋るんだ!』


実は今までも、相方と戦ってる奴の二人は会話が出来るのだ。しかし前の戦いに関しては、小さい戦いでは憐がいなかったし、あの二戦に関しては別で見ていたからである。しかし今は彼がいる。声を聴きながら今どういう状況なのかを問う雷。


「そうなのか……で、どうよ?」


『間違いなくアレは……危険だな。……そう、危険。既にお前の行動は知られている。……だからこそ今はで戦え!』


その言葉に押されるように、雷は戦いの感じを一旦変えることにした。それはデータにない戦い方をするために、自分らしく戦うためであった。


「……了解」


雷の目に再び黒い火が灯る。



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