第27話『黒すぎる過去、深い闇』


肉を食っていた二人は、ここで他の選手を確認していく。そもそも決勝に行けるというのだ。という事はある程度確認していくのがいいと判断したからである。憐はあの二回戦をほとんど他の選手の観察に費やしていた。


「そういや他のトーナメントの奴らはどんな感じ?」


「あぁ、確認しておくと……そうだな、まず俺が気になったのはジョンの娘を自称してる奴だな。……ほら、あのスラムを管理してた奴の」


ジョンという名前を聞いた瞬間、肉を吐きそうになるくらいの殺意がこの店を襲った。しかしそれは一瞬だけの事、誰もが気にも留めないくらいのモノであった。しかし目の前で彼が殺意をあふれさせる瞬間を見ていた憐は、言葉を選ぶことにした。


「……あいつか。……俺はあの野郎が嫌いだ。あのスラムにいた時に、他の地区の奴らを見せしめに殺していきやがったからな。大嫌いだよアイツは」


吐き捨てるように喋る雷。高らかな殺意と、明確な敵意を持った雷のその言葉だが、既に済んだことだと諦めているようであった。と言うか実際終わったことである。これ以上は考えたくもないと思っていたが、それでもやはり関わってくるのだ。アレは。


「そうか……成程。それに娘がいるっていう話だが」


娘がいるという憐。しかし雷はそれを信じることが出来なかった。それもそうだろう。スラムで人狩りをしていたクズである。碌な人間ではないと理解していたし、それについてくるような奴がいるとは考えにくい。それ故に実の娘ではないなと判断した。


「信じられねぇな。少なくともアレに彼女とかがいるとは思えない。……人を人とも思っていない奴だぜ?で何て言ってたんだよその娘って奴は」


「あぁ……何かお前探してるみたいだぞ」


憐はあの時の試合を思い出す。あの時彼女は勝利した後、しきりにスラム出身の奴の名前を話していた。それは父を殺した奴を探す為であった。ちなみに雷は別の名前を付けられており、それを見て探していた為に雷にたどり着けなかったのであった。


「……まぁ分からんでもない。アレがどんな奴なのかは知らんが……娘には優しかったのかもしれねぇからな」


絶対にそんな事は無いという感情を持ちながらそう言う雷。嫌な空気が辺りを包む。憐はそれを浴びながらも、それでも少しだけ深く知ろうとする。


「凄い嫌悪感だな……そんなになのか?」


「そんなにだ。……これ以上は止めておこう。……他には?」


流石にこれ以上は自分の感情を抑えきれなくなると判断したのか、自分からその話を止めさせる。そして憐は別に話を続ける。それは他の参加者の話であった。


「あぁ……後はお前が言っていたジュナと、後他の……まぁ正直どうでもいい奴しかいねぇな」


「そんなにか?」


憐が言うには三人しかいい奴がいないと上げている。要はこの三人以外は雑魚であると把握したのだ。戦いからも、中身からも、クソ雑魚であると理解したので、名前を上げることは無かったのであった。


「少なくともお前の敵になる奴はそれくらいだろうな。後明日戦うことになる裒って奴。恐らく既に見られてるだろうよ。……俺らの機体はな」


ゴリアテは既に見られているだろう。つまり対策も出来ているのだろう。しかしそれでも問題ないと判断した憐。雷は正直どれほど強いのかは知らないが、それでもヤバいだろうと判断したのである。そもそも、既にあの二人に勝っているのだ、デルタは知らないけど外院は強かった。だからこその判断である。


「……そうか。何、それでも真っ正面からぶっ飛ばすだけだ」


とりあえずそう言う雷。虚勢を張るが、正直次の試合は厳しいモノになると判断した。とここで二人は何やら視線に気が付く。


「そうだよな!……さて、ここで気になることがある」


「何だ?」


「……さっきから見られてるよな?」


先程から、誰かに見られているような気がするのだ。怪しい気配を感じ、二人はどうするかを目配せして考える。


「お前も気が付いたか。……何かいるな?」


とここで雷は気さくに話しかけるのであった。相手はこちらに気が付くと、少しだけ逃げようとするが、逃げようとしている方には憐がいる。逃げられない。


「あぁ。……さて、じゃあ聞いてみましょうか。ハロー?」


「……何だ」


若干の怒りを交えた言葉を言う相手であるが、二人はそれを笑いながら見ていた。そして即座に真面目に話しかける。


「さっきからお前チラチラ見てただろ。どうなんだほら」


「……チッ!」


とここで真っ正面からは逃げられないと判断したのか、窓ガラスを割りながら逃げる相手。何と相手はスーツを着ていたのだ。それを判断した二人は相手を追う。


「あっ逃げたぞ!」


「追え!」


やはりスーツを着ている故に、中々に早い相手、雷は若干だが出遅れたが何とか捕まえることが出来そうであった。とここで後ろを向いた相手の目の前に、とある警察が現れる。


「捕まる訳が」


「警察キーック!」


それは一瞬の出来事であった。明らかに改造されているスーツを着た、一応警察の男がそのスーツを着ている相手を蹴り飛ばし、そのまま馬乗りになって殴りかかったのである。これには二人共ドン引き。とここでネリンがやってくる。


「ちょっと先輩!?何やってるんですか!?」


「あぁ!?見て分かんねぇのかよぶっ飛ばしてんだよオラ逮捕ぉ!」


それを止めようとするネリンであるが、それが出来ないようであり、手錠を相手にかけたところでネリンが雷に気が付く。


「雷さん!……久しぶりですね!」


「まぁな。……さて、何だお前は?」


再会もここまでに、雷は相手に話しかける。何者なのかを問うが、流石にプロであるのか答えない相手。


「クソッ誰が言うか!」


とここで憐が顔を見て、気が付く。これは父親が前に話していた情報を集める奴ではないかと考え、そして雷に言う。


「いやこいつ知ってるぞ」


「ホントか憐!?」


「あぁ。こいつは確か、前に俺の父親が雇っていた奴だ。……お前トカゲの尻尾切りに使われたのよ」


何とこの男は憐曰く、トカゲの尻尾切りにあったのだという。どういうことかと言うと、要らないので都合よく切り捨てたのである。それを知らない相手。驚いたようにこちらを見る。


「……何?」


「だから、俺の父親は言っちゃあなんだが、割と切り捨てるときは切り捨てる奴さ。……お前はなんて命令された?」


白い目をしている憐。何のことだか分からない三人。そして相手はこういうのであった。


「お前を監視して来いって言われたんだよ!」


「……よし、それなら良い。とりあえず……あんた名前は?」


何が良いのか、そんな事は教えずに、先程捕まえた警察に話しかける憐。警察はと言うと、スーツを顔だけ出して自分の名前を言い始める。


「あぁ?俺の名前は『アヴェンダー・ロロロ』。ロロロとでも呼んでくれよ」


「じゃあロロロ。こいつは逮捕しても構わん」


という憐。ロロロはその答えに首を傾げて話しかける。何が問題かと言うと、実はロロロは昔からこの辺の犯罪者を捕まえていたのだが、憐の父親の手によって保釈金を払われて出されていたのだ。つまり彼は憐の父親を信用していない。


「ホントかぁ?お前あの憐だろ?お前の父親って言ったらぁ……あのクソカス野郎だ。……いっつも捕まえた奴を金で逃がそうとしてきやがる野郎だ。……本当にいいんだな?」


「あぁ。こいつには保釈金は一切支払われねぇよ。こいつははなっから、俺らをおびき出すだけの罠だったわけだ」


そう言う憐。雷は何のことだと言わんばかりに首をかしげるが、次のセリフで理解してしまう。


「……罠?」


「今頃俺の部屋は荒らされてるな」


「……はぁ!?何言ってんだお前!?」


何とこの男はおとりに使われ、憐の部屋をガサ入れしようと言うのだ。しかしその言葉とは裏腹に、至極冷静な憐、彼はこの状況を見越してある罠を仕掛けておいたのである。


「しかし問題はない。……あいつらビックリするだろうよ……」

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