第26話『馬と鹿』
ガードと言う単語を知っているのかと言うような殴り合いが続く。二人共ボロボロになってなお、ひたすら打撃を当てていくだけである。
「オラァ!」
「黙れ!」
もはや言葉は意味をなさない。ただ二人が互いに意味のない言葉を放ち、そしてひたすらただ殴っているだけであった。
「うるさい!」
「あぁ?!」
これには観客達も興奮。ただの殴り合いだが、むしろそれ故に盛り上がっていた。ナレーター達はこれを少しヤバそうだと思い、それでも結構いい感じの戦いをしていると思っていた。
『うわぁ……凄いですね』
『そうですね。……しかし決着は案外すぐに付きそうですね』
そして遂に雷は最後の一撃と言わんばかりに腕のロケットを点火させ、外院にパンチがモロに入る。そして壁に叩き付けられると、機体は破壊され粉々になってしまう。
「じゃあな!」
「うげぇッ!?」
そして完全に機体が壊れてしまう外院。つまりは雷の勝ちということである。観客達も投げ銭を投げながらハイテンションになっていた。
『あーっと!ここでゴリアテのパンチがモロに!更に機体が完全に破壊されてしまいました!』
『という事は、雷選手の勝ちという事ですかね?』
二人が確認すると、モニターに雷の勝ちと言う結果が張り出される。そして女ナレーターの方はそれを見てそうだというのであった。
『そうですね!いやぁ……最初外院選手帰ろうとしてましたからね……』
『そうですね。……さて、これでとりあえず決勝に行く二人が決まったようです』
とここでなぜか決勝に行く二人が決まったという男ナレーター。どういうことだと聞く女ナレーターと、ざわめく観客達。男ナレーターはどういうことなのかを説明していく。
『え?もうですか?』
『はい。今回、総当たり戦なので、少なくとも二人が二勝している時点で既に決まっているのです。後はまぁ……一位と二位を決める戦いですかね?』
要はこの時点で二人が勝とうが負けようが決勝に行けるということである。総当たり戦という訳で、二勝すれば決勝に行けるのだ。つまりはそう言う訳なのである。
『成程……確か相手は裒会社の社長である『
『えぇ。元々はカメラ類を作っている会社なのですが、なぜか今回スーツを作っての参加となります』
その会話を聞いていた二人は、決勝に行けるという事実を噛みしめながら、勝ちを喜ぶのであった。とここで雷は一つ気になるところがあった。それはなぜそのカメラ系の社長がわざわざGGの大会に、しかも自分で作ったスーツで参加するのかという疑問であった。
「……決勝トーナメントに行けるらしいな」
憐はと言うと、相手の企業の社長に関して知っているようであったが、深くは話さないようであった。何か因縁でもあるのだろうか。
「そして相手はあの裒企業の社長……ある意味俺の予想通りだな」
「そんなに強いの?」
なぜ相方の連絡が無かったのかと言うと、あの相手くらいなら流石に大丈夫だと判断したので、裒の戦いを見に行ったのである。そこで見た物は、相手の機体を調べ上げ、それに対する対策を徹底した戦い方。機体自体は弱いと判断したのであった。
「あぁ。さっきの対決を見てたが、お前に負けず劣らずって感じだ。……強いよアイツは。とは言えゴリアテの敵ではない!まぁ何とかなるだろう!……多分」
「そこは曖昧なのね。……一つ気になったんだけど、今日の試合はこれだけ?」
デカい大会にしては一日で二回しか戦闘しないのかと気になる雷。憐はそれに対してなぜ一日二戦しかしないのかを話していく。
「あぁ。一日に三試合すると疲れるだろ?」
「……まぁね」
前回一日に三回戦った時、雷は結構きつかった。正直なところ、色々とそれ以外のケガが多かったが、その前に疲れもあった。つまりそう言う事なのだ、自分がやって辛かったのだから、そりゃぁ他の人はもっと辛いのだろう。大体理解した。
「それに早期決着しちゃったとは言え他のブロックも一日二戦までって決まってるしな。……まぁ小さい大会とかなら別だが。ほら前の奴とか三試合だったし」
「それもそうだな。……という事は、今日はもうこれまで?」
「そうだ。夜飯でも食いに行くか!」
二人は試合とやる事が終わったので、飯を食いに行こうとする。とここで今日はどのくらい稼いだのかを確認する雷。憐はスマホを見せる。金額を数えると、以外にも今日だけでかなり稼げていた。ファイトマネーのような物である。
「そうだな。……ちなみに投げ銭はどんな感じだった?」
「今日一日で三十万って感じ。以外に稼げるんだよな。これ」
「へー……」
殴り合っているのだ、これくらいは稼げないと割に合わない。という訳でこれでも少ない方なのである。実際、下半身不随になってしまった選手もいるほどであるから。
「そんで、気になること塗れだが……お前、腹は?」
「え?……いや大丈夫だけど」
とここで不意に憐が雷に質問をする。それは外院戦で散々殴られた腹の具合である。しかし雷はそれを全く問題ないと言わんばかりに大丈夫だという。流石にこれには憐も違和感を感じる。
「……あれだけ殴られて?」
「え、うん。スラムじゃ日常茶飯事だよ。よっこっぱらにナイフ刺されたことあるし」
幾ら彼がスラム出身と言え、これはおかしい、と言うか人はそんなに進化しないはずだ。だが彼は普通の人間とは何か違う。憐は雷に質問しようとする。
「……お前ってさ……」
「なんか言ったか?」
だが、雷の顔を見て、確かに彼は人間であると理解する。故にそれ以上質問をすることは無かった。代わりにどこに行くかと聞くのであった。
「……いや、何も」
「そう?じゃあ肉でも食いに行くか!」
と言う雷の後ろで、憐は一人明日こそが大事であると判断し、機体の修理を考えるのであった。と言うか再調整であるが。
「何はともあれ明日が重要だからな。……今のうちに機体の再調整でも行っておくか……」
そしてそのまま雷達はとりあえず肉屋に行くのであった。
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