第25話『初披露と初飛行』


一回戦を余裕で倒した雷であったが、二回戦の相手は雷に何か調子に乗るなと言ってきた奴であった。しかし雷は一切覚えていないようであった。記憶にないというか、覚える意味がないと言うか。


「さてと……次のあいつら何?というか前に別の名前だったような……気のせいか」


「アレは……何だ?まぁ問題ないだろ。何はともあれ俺らの機体の初披露だ!」


一応一点物ではあるのだが、正直に言ってそんなに強くはない。そう判断したので問題ないと早速入場口前に行くのであった。


「よっしゃぁ!」


先程の戦いでハイテンションになっている観客達とナレーター達。かなり面白い戦いであったというのもあり、既に三人衆の方にはほぼ人はいなかった。


『さて第二回戦ですね!……案外早かったですね?』


『先程の戦い、二つとも即座に終わっていましたからね……あの三人組の所に行っている観客はほとんどいませんね』


『スーツありならともかく、無しにすら負けたんですから……一生の恥ってレベルですよ』


スーツを着ていて、その上三対一で負けるというのはもはや一生の恥である。弱いとかそう言う次元ではなく、世界中に恥をさらしたような物であった。選手二人は入場口で待機していた。正直先程の戦いが早く終わってしまったので大分巻いている。


『はい。雷選手と戦うのは『十月とおつき外院げいん』選手。機体は一応一点物でありますが……二つ名をまだ持っていないんですよね。正直パッとしないといいますか……』


『そこまでにしましょう。さてそれでは二試合目……開始です!』


ナレーターに馬鹿にされた外院はキレていた。それもそうかもしれない。彼はこのGGを始めて早五年たつ、しかし二つ名はおろか、デカい大会に呼ばれたこともない。万年三位のよく言えば平凡、悪く言えばパッとしない選手であった。そんな彼の前に、一週間もしないでえげつない戦果を上げ、その上自分より早く二つ名を付けられては、荒れるのも時間の問題であった。


「……どいつもこいつも俺の事を馬鹿にしやがって……!なめんじゃねぇよ屑野郎ども!」


「はいはいキレるなら後でしろよ、今は試合に集中」


モロに怒りを出す外院。しかしそれを表に出してはいけないとその相方が戒める。それを聞いて何とか落ち着く外院であったが、やはり怒りは抑えきれないようであった。


「クソッ。しかし一番気に入らねぇのはあの男だ!何がジャイアントキリングだ!?俺より後に始めた癖に俺より早く二つ名を貰ってるんじゃぁねぇよ!」


「いいでしょ別に、エレクトロのスーツ対策はばっちりしてるから、勝てるでしょ強いって言うんなら」


そう、彼らは前の大会で着ていたエレクトロ対策はばっちりであった。攻撃より防御用として作られた機体に変更し、エレクトロに粘り勝ちしようというのだ。当然そんな機体を作る彼も大分強いのであるが、そもそも私生活が死んでる奴なのでその辺でバランスが取れている。


「あぁそうだ!お前なんか屁でもねぇってことを見せてやるよ……!」


と派手に外院が入場するが、雷はまだ出てこない。どうしたのかと考えていると、入口をぶち破りながら、更に派手に入ってくる。


『さぁ外院選手が入ってきました……あれ?雷選手はどうしたのでしょうか?』


『今来るらしいですよ……来ました!』


「俺……登場!」


新機体、ゴリアテの初披露である。派手に行きたいというような感じであったが、それすら被ってしまうという何とも言えない感じであった。観客達はそれに無邪気にはしゃいでいた。


「かっけー!」


「ゴテゴテしてて無骨-!」


さて、これに一番驚いていたのは相手である外院である。元々エレクトロ用にチューニングしてきたのであるが、まさかのここに来てまさかの新機体である。これには驚愕。更に今まで考えて来た対エレクトロが完全にパーになった瞬間でもあった。


「……何だよあの機体!?」


『おーっと!今回は基本的に公平性を保つためにスーツは公開されていないのですが、何とここに来て新機体!』


ゴリアテ。それは両腕と両足にえげつない程のパーツを集めており、まさに質量の暴力となっており、それを一点に固めているため防御力も半端ではなく、更に更にジェット噴射も搭載しているのでロケットパンチが放てるのである。……ただこれを付けていると狂極流が使えないのであるが。


『間違いなく一点物でしょうね。対する外院選手、完全に対エレクトロを意識しているのか、明らかに防御用の遅い機体ですね』


『これやらかしてますね、はい』


相性最悪の機体。外院は完全に諦めているようであった。それもしょうがないかもしれない。まさか一点物を付けてくるとは思って来なかったのだから。しかしそれはこちらのミス。それ故に何も考えたく無くなっているようであった。


「……ああもういいや、もうどうでもいいや」


それを見た雷。ここで煽る。流石に勝ち逃げは何となくムカつくのである。戦って勝って勝ちと言われたいのだ。故に煽る。戦闘させるために。


「何だこの野郎、勝ち目がなけりゃ逃げるのか?」


後何となく分かっていると思うが、この男、煽り耐性皆無である。ブチ切れる外院。乗せられるまま雷の方に向かうのであった。


「あぁ?!やってやろうじゃねぇかこの野郎!」


メンチを切りながら近づいていく外院。そしてそれを笑顔で見ている雷。二人の拳が届く距離まで近づいたところで、お互いに拳を放つ準備が出来る。


『何か話してますね……大丈夫なのでしょうか?』


『大丈夫でしょう。何はともあれ戦うようです』


一瞬の出来事だった。拳が互いの顔面を貫いた。ただ若干大きいゆえにリーチでは雷の方が勝っていた。外院の顔面に質量の暴力が襲う。しかし防御型は伊達ではないのか、さほど怯まない。代わりに雷の腹にパンチを当てて来たのである。


「オラァ!」


「うるせぇ!」


雷は腹にパンチを食らうが、それのお返しと言わんばかりに、今度は左の手で相手の顔を殴る。外院も負けじと更に腹部に打撃を食らわせていく。互いにガードをしないせいで、またもや早期決着になりそうだった。そんでもって二人共口喧嘩になりつつあった。


「あぁ!?この野郎俺より先に二つ名貰いやがってよぉ!ぶっ殺してやる!」


「くどいぞ!やれるもんならやってみろよ!」


一応言っておくが、ゴリアテは実は腹部の防御パーツがほとんどない。その理由は、腕と足に全部のパーツを使ったからである。GGには実は積載制限があり、それを超えてしまうとダメなのである。その結果、腹に何もなく、腕と足をそりゃもう馬鹿みたいに強化したのがこれなのである。


『うわぁ……アレ火力ヤバいですね……名前は……ゴリアテでしょうか?』


『そうですね。とにかくゴツイ機体と、攻撃に全振りしたような腕が特徴ですね』


『ですけど、体はほとんどパーツがありませんね……』


『その分腕に回しているのでしょう。見てください、殴り合っているだけなのに相手のパーツがボロボロと取れていきますよ』


そして二人の戦いは佳境に入る。パーツのほとんどがぶっ壊れている外院と、腹がさっきから殴られて痛い雷。そんな二人の佳境であった。



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