第23話「八百長試合などしない」


帰ってきた雷は、憐に酒場で手に入れた状態を話していく。


「で、どんな感じ?」


「あぁ……聞いた話によるとな、まず『Δ(さんかく?)』みたいな奴が出るらしい。何これ図形チーム?」


よくは分からないが、何やら変な名前であると雷は思い、憐に関しては見れば分かるのだろうがなにぶん口頭で伝えているのでどんな物か分からない。


「三角……?なんじゃそりゃ?……まぁいいや、他は?」


「後今年は『あつま企業』の社長が出るだってさ」


「……裒?あのカメラ系の社長が?」


裒という名前を聞いた瞬間に、少しだけ雷の方を向く憐。多少の驚愕と、多量の疑問がその顔から見て取れた。雷自身も聞いてきただけでよくわからなかったのであり、今ここで初めて聞く。


「知ってるの?」


「まぁな、俺の父親カスがよく潰そうとしてしくじってた企業だよ。……しかしなぜそんな場所の奴が……?」


相変わらずのカス呼ばわりである。しかし疑問点はそちらではなく、なぜカメラ系の社長が着るタイプのスーツを使うこのGGに来たのだろうかという物であり、雷もそれを聞いて困惑していた。


「そうか……そんで、ジュナも出るって」


「……誰?」


「J……」


ジュナは基本的にJで登録されているので本名を知る物はほとんどいない。そんでもって顔もほとんど見せないので誰?という感じになっていた。選手を結構知っている憐ですらJと言われなければ分からないほどであったのだ、それだけジュナは自分を隠しているのである。


「あぁー……Jか……えっそんな名前なのあいつ?」


「らしいよ。詳しいことはよく分かんないけど」


「へー……まぁいいや、とりあえず4はその三人がキモになりそうだな……」


トーナメント4は恐らくそいつらに注意すれば問題ないと判断したようであった憐。少なくとも今大会、意外に人数が少ないのであった。その数僅か十六人だけ。なぜかと言うと、今大会はかなり強い奴がわんさかいるので、その辺の奴らは怖気づいてしまい来なかったのであった。


「……そういやジュナがどこに出るのか聞いてなかったなぁ……」


と出る場所を聞いていなかったことに頭を抱えながらも、二人は選手が行く場所に向かおうとするのであった。そんな中、猫と犬は話し合っていた。それは当然のことだが、何故今回の大会に出なかったのかという疑問である。


「あの……どうして出なかったんですか?」


「……今回、俺はアイツがどれくらい出来るのかを知りたい。……だからこそ俺は出ない事にした」


猫は雷の事を信頼に値するとは思っていた。しかし未だに信用は出来ないのである。だからこそ、今回の大会で雷がどのくらい強いのかを確かめる為に、自ら出場しないと判断したのである。


「そうですか……信用……ですか?」


「そうかもな。……だから倒れてほしくないのさ。……こんなところでな」


そしてその日も夜が明ける。会場に来ていた二人は、太陽に一旦の別れを告げ、会場に入っていく。中では様々な客と選手で賑わっていた。今まさに戦闘をしているし、その上色々と選手達と話しているようであった。


「はい会場!」


「以外に近いんだな」


「まぁね。さて、俺らの行く場所は……こっちか。荷物はここに置けってさ」


いろんな奴がいると把握し、そのまま憐に連れていかれると、そこにはわりと新品なアパートがあった。他の選手もここに来ているらしい。正直まさかアパートとは思っていなかった雷は、少し呆れながらもそのまま入ろうとするのであった。


「……アパートだねぇ……」


「そりゃな。とにかく入るぞ」


「あでも中は意外に広いんだな……?」


中は意外に広かった。四人くらいがその場で寝ても、大丈夫であるといえるくらいの広さであった。そして荷物を置いてみるとスペースはまぁこんなもんかくらいの大きさであった。


「二人以上が住むってことを考えればこうもなるだろ。……しかし、猫が出ないとは意外だなぁ……」


部屋の事は早々に気にしない事にして、話は猫達の方になる。なぜこの大会に出ていないのか、そしてそもそも何をしているのか。それを考えていたのであった。


「そうだな。……間違いなく出ると思ったんだけどなぁ……」


「俺も。……さて、今回俺らはまず勝たなけりゃならない。そこまではOK?」


猫達の話は程々に、話は自分達の話になる。そもそも今回の大会で勝たなくてはならないのだ。そして遂に詳しいルールが公表うされる。なんと今回トーナメントと言っておきながら、総当たり戦なのである。


「分かってる。……ンで一つ聞きたいんだけどさ、今回二人が決勝トーナメントに行ける?らしいけど、それってどういう選出なんだ?」


「知らん」


胸を張って言うように、知らないという憐。ハッキリ言って今回のルールは大分不規則すぎるのだ、よく分からないというのが本心であった。


「えぇ……」


「まぁ基本的に負けは一回くらいしか許されないだろうな。トーナメントと言いつつ総当たり戦だし」


結局トーナメントなのか総当たり戦なのかを問う雷。簡単に言えば予選は総当たり戦、決勝はトーナメントである。


「どっちだよ」


「総当たり戦でしょ、ともかく戦闘は明日からだからな。……それまでちょっとうろうろしててもいいぞ」


「んじゃ見てくる」


会話もそこそこに、会場内を歩いてみる雷。すると雷を見つけて話しかけてきた奴がいた。そいつはスーツ姿で、何と言うか威圧的に話しかけて来たのであった。


「……君が憐の相方か?」


「うわ何?誰?」


咄嗟にうわとか出てしまったが、それは問題ではない。一応誰かもわからないのに話しかけて来たのは相手なのである。という訳でその男は自己紹介をするのであった。


「失礼。私は『塙鉢はなばち怪訝けげん』という。……憐の父親って奴さ」


それは憐の父親、いつも罵倒言葉で言っている奴であった。正直見た目だけで言えば爽やかなおっさんという感じであったが、明らかに中身はアレだと把握していた。


「へー……で何の用です?」


「まぁちょっとこっちに……」


二人はカフェに入った。雷はこいつの奢りだといわれ、適当に頼んでいく。そしてその男が口を開いた。


「それで?」


「何、依頼は簡単だ、今大会で私の商品を使っている選出が出るのだが……君とは一戦目に戦うことになる」


そう言えばスーツを作る制作会社の人だったなぁと思いだし、それを付けること自体には疑問点は無いのだが、何かキナ臭かった。そして雷が適当な返事をすると、おっさんはとんでもないことを言い出したのである。


「そうっすか」


「負けてほしい」


一瞬キレそうになる雷。大会で八百長試合をしろというのだ。いくら何でもこれは馬鹿にしているとしか思えない。しかしここでキレてはいけないと判断し、何とか手を押さえ、表面上は取り繕って話しかける。


「……それ本気で言ってます?」


「金は出そう」


ここで雷は考えた。正直言ってこれに乗る気は一切ない。しかし、ここで断れば何をされるか分かったものではない。それ故に一応今だけは話しに乗っておくことにしたのであった。とは言え金は受け取らない。受け取ればそれはもう許可したも同義になるからである。


「……ま、ならちょっと考えさせてくださいよ、金は保留って感じで」


「そうか」


そして店内から出ていった父親を見て、雷はアイツの評価を口に出す。


「アイツがボロクソに言うレベルのカスだな」


どうやってこの計画を滅茶苦茶にしてやろうかと、今から少し楽しみが増えた雷であった。


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