第20話『殺意の正体』


憐は調べた結果、変な事件を耳にする。その事件は十年前に終わったはずの事件、しかしそれは中々に際どい事件でもあった。


「……これか!十年前のあの事件……っと待てよ……?何かがおかしい……確かこの事件の真犯人の一人は捕まってて……そんでこの太陽って奴は無罪だったはず……」


なぜ島にいるのか、何故あの場所にいたのか、そしてなぜあの日、無実の彼が連れていかれたのか。それを理解し雷が借りた船の無線をハッキングして通話を仕掛ける。


「……まさか!?」


一方の二人は更に船を破壊しており、正直もう少しで陸に届きそうなものである場所で船は座礁していた。雷は戦いながら、船の修理代を払わなければならないという事に諦めを感じて、そしてここまでぶっ壊れてはどうでもいいと言わんばかりに、彼もキレながら戦闘を始めるのであった。


「クッソマジかよ……!もういいだろ!何でそんなに俺を殺そうとする!」


既に腕をへし折られかけながら、それでも何とか戦っていた。この太陽という爺さんは、人体破壊のプロ。マジで化け物なのである。攻撃を食らったわけではないのに、骨がミシミシと嫌な音を立てるわ、手からは既になぜか血が出てくるわでもう滅茶苦茶であった。そんな中、太陽はポツリと呟く。


「……わしは、犯罪者だからな」


「何?」


それを聞き逃さなかった雷は、当然のように聞き返す。すると太陽はこういうのであった。


「……覚えているだろう、十年前の事件を」


「いや知らないけど……何のことだ?」


十年前。スラムにいた雷には分からないが、とある事件があった。知らないと言われると、説明を始める太陽。


「あぁ。……知らないのであれば教えてやる。……あの昔の事件をな」


「あの事件……?」


そして昔の話をしていく。それは思い出したくもない過去でもあった。太陽には孫がいた。それと娘とその彼氏もいた。元々は格闘家であった太陽は、それでしがないけど楽しい生活を行っていた。


『おじい様!』


『おぉ可愛い娘よ……どうした?』


その日、太陽の元に娘と孫がやってくる。孫は太陽に花で作ったネックレスを見せる。娘は久々の休みの日である為に実家に帰ってきたのである。後彼氏もいた。


『あのね!今日はみんなで遊んだの!』


『そうか……ほら、お腹がすいただろう?一緒に美味しいご飯でも食べよう』


『わーい!』


楽しかった記憶。しかしそれは一瞬のうちに消えてしまう。その時の事を忌々し気に思い出している太陽であった。


「……思えば、そのみんなというのを問い詰めるべきだった。……それをしなかったのは私の怠慢」


「……」


そう、孫が絡んでいたのは悪い奴であった。彼らは一瞬のうちに娘を気絶させ、そして孫を袋に詰めるとどこかに持って行ってしまった。太陽が気が付いた時には、娘が散々犯されている状態であった。ブチ切れる太陽。


『何をしているかぁ!』


『お?んだよおっさん、たっく、おいお前ら!このボンクラジジイをとっととぶちのめせ』


『ふざけるなぁ!』


「……わしはあの時、大人しく警察に通報していれば良かったのだ……」


五人の暴漢を即座に殺害、目は抉られるわ背骨はへし折れるわ、見るも無残な姿になっていた。しかしここでやって来た警察に犯人だと間違えられてしまう。正直素手で五人も殺したとなれば普通に正当防衛も成り立たないだろう。無理な話である。


『おい何をしている!逮捕だ!』


『離せ!この屑野郎が!』


「……わしはその日、娘を失った」


そして彼は流刑にされたのであった。一応警察には恩があり、死刑は出来ない、何とか減刑して流刑になったのだ。とは言え何もない島に流されたのだ、ほぼ死刑のような物である。しかし、彼は何と十年も生き残っていたのだ。あまりにも凄まじい殺意だけで獣をぶち殺しながら。


「……」


「そして流刑になった。しかしわしは強くなり、奴をぶっ殺すと決めたのだ。……だが、もう出ることは諦めた」


「何で?」


「……犯人が捕まったからじゃよ」


目を伏せ、諦めるように呟く太陽。十年間必死に生き残っていたのはその男をこの手で始末するためであったのだが、それが出来なくなってしまったのだ、……その無念は恐ろしいほどであっただろう。彼が来なければすぐに死んでいたくらいには。


「……なぜあの島でそんな事が分かる?」


「……月に一回だけ、新聞が届く。……そこに奴が捕まったと書いてあった。……であればここから出る意味は一つも無い。……分かるな?」


どうやらあの島には月に一回変な新聞が届くらしい。その中の一つ、そこにあの事件の犯人が死刑になったと書かれていたらしい。しかし雷はこの言葉に違和感を覚えていた。なぜこんな場所にそんな物が届くんだろうと考える。そしてあり得ないと判断し、首を振る。


「いや、違う。……何かがおかしいぞその判断……考えても見ろ、何で一か月に一回新聞が届くんだ?なぜお前はそれを信じているんだ?」


「……」


完全な沈黙。太陽はそもそも、おかしいとは思っていたのだ。最初から。……しかしそれにすがるしかなかったのだ。あんな場所では。気が狂いそうになる十年間。それだけをひたすら命綱として生き延びて来たのだ。と彼らの間に無事な無線機がかかってくる。


『雷!いるか!?』


「何だ憐?」


焦りを隠せない憐。何とか電話がかかる奴を探してかけたのである。そして忠告のように叫ぶのであった。


『……そこに太陽がいるんだろ?……だったら聞いて欲しい、あの事件、アレはまだ終わっちゃいねぇ!』


「……何だと?」


「どういうことだ憐!?」


二人はよく分からないので質問をする。そして憐は一つある事を叫ぶ。それは十年前のあの日、自首した奴以外に、もう一人だけいるのだ。……その場から逃げ延びた屑野郎が。


『……あの時、自首した奴は真犯人だと言っていた。……あんたが無罪なのも分かるさ!……でもまだいるんだよ!一人、とんでもない極悪人がな……!』


「……」


「……」


それは消えた闘志に再び火が灯ってしまった瞬間であった。恐ろしいほどに黒く、濃い殺意が。憐もそれを焚きつけるかのように再び言う。


『まだいるんだよ。一人』


「……だってさ。……ほら、戻る理由があるじゃない?」


雷はそう言うと、太陽はにっこりと笑顔を見せる。その笑顔はただの笑みではなく、怒りの笑み。殺意と殺気の笑み。とは言え実際誰がその犯人なのかは分かっていない。そいつが最後に消えてから、どこにもいなかった。


「……そうかもな。……しかし……だがもう誰でどこにいるのか……」


「そうだな。……でも、それでも希望はある。……太陽。……どうする?」


「……一つでも希望があるなら……行くさ」


彼らの乗ったボートが遂に陸地に上がる。完全にぶっ壊れてしまった船だが、なぜか店主は弁償代金を請求しなかった。既に憐が手回しをしていたのだ。雷が乗った舟に関しては買い取るから、何も言わないでくれと。だからこそなぜ太陽がいるのかも突っ込まなかった。


「俺も同じようなもんさ……家族を殺され、行く当てもなかった」


二人は歩き始める。先に行くために。その後に何があるのかは知らない。が、それでも彼らは歩く。二人はある約束を交わした。それはわかりやすいものであった。


「……では、そうするとしようか。わしは復讐の為に戻る」


「俺はあんたに技を学びたい。……その間、俺はあんたの復讐相手を探すさ」


「……よし」


絶滅を体験した希望の二人。憐が二人を迎えると、完全に完成したあの機体、ゴリアテを見て、来週までに迫ったトーナメントに向けて向かうのであった。



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