第19話『救出と殺意』


あの島から帰ってきた雷は、なぜかあの太陽とか言う老人の事を考えていた。恐らく奴は強い。となれば間違いなくあの場所にいるような奴ではない。何かあったのだろう。恐らくだが。


「どうした雷……何かあったのか?」


「あぁ……まぁ、色々な」


考える雷。それを見て、とりあえず機体の評価を聞く憐。機体自体は問題なしどころかこれを俺が使って良いのかと言えるレベルのものであった。


「そうか。……じゃあとりあえずそれどんな感じだ?」


「最高!マジでヤバイわこれ!……さて、後はあれか?最終調整って奴か?」


「そうだな。よしちょっと返してくれや」


そう言うと雷はスーツをしまって憐に渡す。とここで雷は一つ気になっている事を告げた。それはなぜ憐があの島に行くように指示したのかということであった。という訳で早速質問する。


「ほい了解」


「……さて、ここで気になるところがある、あの島、何でお前はそこに行くことを指示したんだ?」


その質問に憐は何のことだ?と思い、そしてなぜあの島に行けと言ったのか理由を話す。


「いや遠かったし……」


「……あ、特にないのね。理由」


特に理由がない事を知ると、やはり偶然なのかと考える雷。しかしやはり違和感がぬぐえない。そんな中、憐は何があったのかを問うのであった。


「まぁね。……何かあったんだな?」


「あぁ。……何か、いたんだよ。お爺ちゃんが」


それを聞いた憐は困惑し始めた。あんな場所に人がいるなどと思ってもいなかったからである。そして当たり前のことを質問してしまう憐。


「あんな辺鄙な島にか?!……なんで?」


「俺が知りたい」


「……」


沈黙が辺りを追おう。そしてしばらくした後、雷は憐に告げる。


「ちょっともう一回行こうと思ってるんだけど」


「……えぇ……?いや別に構わねぇけどさ……」


という訳で雷は島に行くことにした。今度は船を借りていくことにしたのであった。一応五人くらいは乗ることが出来るくらいの船。そして船で島にたどり着くと、太陽に向けて話しかける。


「やぁ太陽!……来たぞまた」


「何じゃ全く……舟か?」


太陽は船を見た。前の奴であれば一人用であるからここから出れることは無いのだが、これは間違いなく二人以上が乗れる舟だろう。ほぼ諦めていた太陽は、自分に遂に迎えが来てしまったとため息をつくのであった。


「いいから帰ろうぜ!」


「……なぜお前さんはそうやってわしをあの場所に返そうとするのじゃ……」


あの場所、それを言った時に太陽は強烈な嫌悪感を醸しながら、それでもって正直面倒くさそうな感じで話しかけて来た。


「いいだろ別に。……どうせ暇だろ?」


「……まぁな。どれ、帰ってみるか……」


しかしいつまでも島にはいられない、薄々感ずいていた太陽はしょうがないので雷と共に船に乗ることにしたのであった。そして船に乗った太陽は色々珍しいというように船を物色していた。


「しかしこの船はあれか?いわゆる自動運転という奴か?」


「そうだよ。……適当に肉でも食うか?」


「どれ、頂こうか」


適当な肉を焼き、太陽に渡す。港まであと少しと言う所で不意に、太陽が話しかけて来たのだ。それは先程来た時に言われたもの。そう、何故強いかと聞かれたあのことである。


「ところでなぜわしを強いと思った?前に聞いていただろう」


「……はい。考えたんですけど、やっぱり素手なんですよね?当然ですけど」


あの島には何もなかった。本当に何もなかったのだ。……。つまり、今の今までは全て素手で生きてきたという訳であった。


「あぁそうだな。……それで?」


「では一つ聞かせてください。……あの生物の中に、トラやクマなどがいました。……アレを素手で?」


当然の話である。武器も無いのであれば素手で戦うしかないのだ。つまりはあの島にいた凶暴な生き物を素手で殺害していたと言うことになる。


「……罠にかけたんじゃよ、そうすれば楽に倒せるからな」


「嘘をつかないでください」


罠を書けたという太陽。しかし明らかに違う、あの島にはそんな物は無い。罠を仕掛けることなど出来ないだろう。何度でも言うが、何もないのである。道具も、何も。


「……」


「あの島には本当に植物以外何もありません。……罠を作ることは不可能と言えます。……つまりあなたは素手でそれをぶちのめしたということになります。……俺も出来なくはないですけど……その、それでもやっぱり難しいんですよ。それ」


雷も確かに動物を素手で殺せなくはない。しかし、しかしだ。若者ならともかく、かなり年が行った爺さんなのだ。つまり、よっぽどでなければ普通は無理なのである。ありえないのだ。最初の疑問はそれで、そして更に気になっていたのはただ一つ、骨である。散らばっていた骨であるが、何と全部。……少なくとも、殴り殺されたのであればそうはなるまい。つまり……


「……」


「……あなたは何者なんですか?」


少なくとも、骨を粉々に出来る力を持っているということである。


「……そうか。……その身で確かめろ!」


そう言うと太陽は即座に殴りかかってくる。何とかそれを避けつつ、咄嗟に瓶を割り武器にする。


「うおっいきなりか!?」


完全な殺意。それは悪意ではないが、それでも何か、ヤバそうな殺意。太陽は静かに呼吸を整えると、すぐさま次の型を見せつけてくる。


「何、……殺しはせん、二度と歩けないようにするだけじゃよ」


「おいおい……何でそんなに殺気がこもってるんだぁ?!」


雷にはいつ地雷を踏んだのか分からなかった。それでも間違いなく自分が追い詰めすぎたと理解していたので、少し反省していた。雷の質問に対して、太陽は何も答えなかった、


「お主に言うことは無い」


そして今度は掌で攻撃をぶちかます。全力で振りぬいた瓶を軽々破壊し、そして雷に飛び掛かると、馬乗り状態になってグーパンを仕掛けようとしていた。


「そうかよ!」


「ぬぅん!」


パンチを放つ時少しだけ浮いた腰から、体を何とか潜らせて避ける雷であったが、その一撃で船の底がぶっ壊れてしまい、沈没してしまうような状態になってしまった、雷は距離を取り、太陽に話しかけるのであった。


「甲板が壊れるぞ!」


「やかましい!このまま沈んでも構わん!」


覚悟。あまりにも強すぎる覚悟。今ここで雷を殺して自分が死んでも一切問題ないと言うような覚悟なのであった。恐ろしく思ってしまう。今目の前にいる奴の悪魔だってちびって逃げちゃうような殺意。それでも雷は問う。


「そんなにか……!?何をしたんだあんたは!何を!」


雷は何をしたと聞いた。太陽はその質問をされたとき、一つだけ考えて、そして少しだけ空を見上げると、その質問に答えた。


「……何もしておらん。……何もしておらぬからこそここにいる」


疑問が更に膨らむ。何もしていないのにあの場所にいるのはおかしいだろうと考える。しかし、実際自分は何もしていないのにスラムにいたのだ、そう言う事もあるのかもしれない。そして雷はただ疑問を浮かべるのであった。


「……何だって?」


その疑問に答える者はおらず、そして憐はと言うと雷が言っていたあの爺さんの事を気になっていたのか、少しだけ考えてみることにしたのだ。そこで憐はとりあえず調べてみることにしたのであった。


「あいつ本当に行くとはなぁ……何で行くんですかねぇ……?」


雷の発言に疑問を覚えながらも、サクッと検索していく。とそもそも名前を聞いていなかった憐は少し考え、とりあえず片っ端から調べてみることにする。


「……そういや前に言ってたっけか……爺さんがいるって。誰だよその爺さん……名前は……」


そして憐は自力でその爺さんの名前にたどり着く。そう、今から十年ほど前、とある事件が起こった時のことであった。


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