第18話『試運転、爺』
二人の空気がしんみりしているが、ネリンは立ち上がり元気に話しかける。それと同時に雷も立ち上がるのであった。
「さて!では行きますか!」
「そうだな」
その時、商店街に悲鳴が響く。何だと二人が目を向けると、そこには老婆からカバンを取って逃げようとしている、スーツを着た男がいた。
「ギャー!ドロボー!」
「えぇ!?」
びっくりするネリンであるが、即座に思考を考え直すとその泥棒目掛け、スーツを着て走っていくのであった。
「ほれ出番だぞ」
「ちょっと行ってきます!」
「……あいつも働いてんなぁ……」
泥棒とネリンはしばらく追いかけまわしていたが、その内こちらに泥棒がやってくる。雷はよくある事というようにそれを見ていた。
「っとこっちに来たか」
「邪魔だ退け!」
「うるさい!」
顎に対してハイキックを浴びせる雷。スーツを貫通するほどの威力であるそれに、泥棒はあっさりと気絶してしまい、そしてネリンが取り押さえる。
「逮捕!逮捕です!」
「流石だぁ……」
ネリンを褒める商店街の奴ら、雷は少し見えないところでその様子を見ているのであった。と起き上がってきた泥棒。何とか気絶から起き上がってきた泥棒であったが、既に捕まっているため文句を言うしかない。
「クソッ!なんだお前!?」
そう言う彼であったが雷はその男に対してこういうのであった。
「……俺か?俺は雷、……強いぜ。俺は」
警察がやって来たのでそそくさと帰る雷。一応今は市民であるが、その前は色々あったのだ、正直顔を合わせるのが気まずいのだ。
「さーて帰るとするか……あ、チョコミント買わねぇとな」
という訳でチョコミントアイスを買って、家に帰ってきた雷。家では憐が機体の再調整に入っていた。そして雷が帰ってきたと見ると、チョコミントを貰おうとする。
「よぉチョコミントは?」
雑にアイスを投げつけ、そしてそれを上手い事キャッチするとスプーンを取り出してサクサク食っていくのであった。そして雷はと言うと、機体がどうなったのかと問う。
「ほれ、……そんで、機体はどうよ?」
「あぁ……今は問題ねぇ。……気になったんだけどお前どういう機体がいい?」
憐が聞いたのは機体の情報、一応考えていた奴はあったのだが、とは言え聞いておくべきだと今更思ったからであった。そんで雷はとりあえずと言うように自分の考えた機体の情報を話していくのであった。
「そりゃぁ……まぁ強いって感じの奴」
「……そう言うと思ったよ!ほら見ろ!ヤバいぞ!」
憐はそう言うと思っており、部屋の真ん中にあった布を引っぺがすと、そこには雷の専用機があった。とは言え正直無骨というような感じであったが。どうしてこんなに無骨なんですか?と質問しようとしたが、それでもかっこいいので問題ないと判断したのであった。
「おぉ!?凄いなこりゃ!マジかこの機体!」
「なーに一応試作機って奴だ、本格的に作る前に、試作機で試してみるのさ!……じゃあ着てくれ」
スーツから棒状の奴にした憐は雷にそれを渡す。そしてそれを着ると、雷はウキウキでこれがどう言う物なのかを質問していくのであった。憐はそれに答える。このスーツの名前は『ゴリアテ』。無骨でただひたすら強さだけを極めたような、とにかくヤバい代物であった。しかもジェット噴射で空を飛ぶことも出来る。
「よっしゃぁ!……んでこれからどうするんだ?」
「あぁ、ちょっと飛んでいってほしい場所があってな。アレ見えるだろ?あの島。あそこに飛んでいってみてくれねぇか?」
あの島というのは、指さしたところに見える小さな島。本当に小さい島で、目を凝らさなければ見えなくなってしまうような物であった。
「よっしゃ了解!」
そして試験段階的に作られた機体を使うと、海の向こうに見える島を目指す雷。ジェット噴射によってとてつもなく加速している雷は、すぐ近くに見えるほどの距離まで来ていたのであった。かなり早い。以前に着たあの機体よりは劣るかもしれないが、こちらはちゃんと曲がることも出来るし、止まることも出来る。
「うーっわやべぇ!早ぇ!こりゃすぐにでも着いちまうぜ!」
そして島が見えると、ジェット噴射を逆転させて島に上陸する準備を始める。そして段々と威力を抑え、遂に地面に着いた雷。
「……着いた!」
彼が着いた島は、まずデカい木を発見する。それはかなりの樹齢が過ぎているようなデカい木。それと後、なぜか島には骨が沢山ある事を発見した。
「しかし……凄い島だな、こりゃぁ……デカい木あるし、何かヤバいくらいに草生えてるし……と言うかどういう島なんだろうな?」
とそんな彼を後ろから誰かが話しかけてくる。驚き飛び上がりそうになってしまう雷であったが、ちょっと肩をびくりとさせるだけで落ち着いていた。
「……兄ちゃん、こんな辺鄙な島に何か用かね?」
「うわぁびっくりしたぁ!?……その……誰?」
雷が出会ったのは、何と言うか腰の曲がったおじいちゃんであった。なぜこんな場所にいるのかと問いたくなったが、その前に誰だと聞く雷。するとおじいちゃんはこう答えたのであった。
「わしか?わしは『
しがないと言う太陽であるが、そもそもこんな何も無いような辺鄙な島にいる時点でただ物ではない。それに大量の骨もあるし、それが彼の疑問を増やす一因となっていた。
「いやこんな場所にいる奴がしがない奴ではないと思うんですけど……ねぇ?なんでこんな場所にいるのホントに」
「あぁ……前に色々あってな。ここで暮らしているのじゃよ」
よくわからない雷。色々あったという太陽であったが、色々というのを深く聞いてしまっては恐らく問題が発生する。という訳でこれ以上追求しないことにしたのであった。それはそうと、彼はある理由からこの目の前の太陽という奴が強いという事を理解していた。
「そっすか……いや特に何もないですけど……あのまた来ていいですか?」
「もちろん。ここは暇じゃし……後そのろぼっととやらは一人用じゃろ?……つまりわしは帰れないという訳じゃよ」
どうしてこんなに強いのに帰ろうとしないのだろう。疑問を浮かべる雷、そして遂に踏み切ることにした。
「……帰りたいとか思わないんですか?」
その質問に、太陽は怪訝な表情をすると、何事もなかったかのようにその答えを返すのであった。
「……何、もうあの場所での生活は飽きてしまった。……ここが一番いい」
「そうですか……ところで一つ良いですか?」
その質問はいいとして、もう一つ質問することにした雷。それは太陽の核心に迫るほどの疑問。
「何じゃ?」
「……あなた、強いですよね?」
その瞬間、周囲の空気が氷点下に下がったのかと言う程の殺気が雷を襲う。しかしそれに怯まない雷は、少しだけ抑えて質問することにした。
「ほぉ?」
「いやその……何となくですけど……その骨、太陽さんが倒したんですよね?」
それを指摘すると黙ってしまう。その黙り方は明らかに何かある黙り方であった。恐ろしくなる雷であったが、それでも質問する。聞かなければ止まらないのであるから。ただそれだけであった。
「……」
「少なくとも……その辺にいる爺さんがそんなことが出来る訳がない。……あなたは何者ですか?」
二人の間に凄まじい殺気があふれる。普通の人間がそこにいたら気絶するほどの殺気。しかしここでその静寂を破るように、憐が電話をかけてきた。中々帰ってこない雷に大丈夫なのかと気になったのか、連絡をしてきたのであった。
「おい雷!何かあったのか!?」
それを聞いた太陽は帰るように促すと、雷は今のところは帰ることにしたのであった。
「……ほれ、お仲間さんが呼んどるぞ」
「……今は帰ります。……しかしまた来ますよ。いずれ」
そう言うと、彼は家に向けて飛び立つのであった。
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