第16話『猫少年と犬彼女』


二人は奥へと案内される。そして様々な機械がある部屋の中に、猫のスーツがあった。それは一言で言うなら猫のように見えるスーツであり、そして誇らしげに彼女は彼らにスーツを見せつけるのであった。


「これか……」


「はい!猫さんの体に合うように、作ってみたんです!」


彼女が憐に話しかけている間、雷に対して猫はこのスーツに関して話していく。


「名前は『キャットマン』って言う名前だ。……俺の専用機、一点物さ」


犬と憐の話は、これを独学で作ったのかという話になっていく。イメージを作ってそれの完璧ともいえるほどにまで作り上げたのだ、これはヤバいと判断した。


「成程。猫をイメージに素体を作り、その上で戦闘も出来るように作り上げたのか。これを独学というには少々ヤバいな……」


「そうなんですか?」


「あぁ。俺でもここまで作るのに一年くらいかかったからな。……お嬢ちゃんはこれ作って何年になる?」


一応憐には叔父と言う強い存在が隣にいたのであるが、それでも完璧に仕上げられるようになるまで一年かかった。普通の人間であれば完璧まで五年くらいはかかるだろう。彼女はそれらよりも早いのである。


「えーっと……確か、五か月前です!」


「だろ。やはりお前さんはヤバいな。マジで」


そして二人は色々と専門用語を離しながら作り手としての話になっていく。よくわからない二人は、別々に話していくことにしたのであった。雷が質問したのは一つ、何故獣人には人権が無いのかという話であった。


「……ねぇ、獣人ってさ、どうして人権が無いの?」


「さぁな。……しかし、獣人は基本的になぜか美女か美少年しか生まれないらしいんだ。……それだからこそ、アイツらは人権を与えずに、自分らの物にしたいんだろう。……多分な」


正直ドン引きな理由である。雷は気味悪がり、そんな事で人権を与えなかったのかと呆れ、そして不意に、自分と同じだと考えたのであった。


「……俺らと同じみたいだな」


「どういうことだ?」


どういう事かを問う猫、雷は忌々し気に自分がスラム出身である事を話し始めるのであった。スラム出身である事は隠しておきたいことであったが、あちらが隠さなかったのだ、こちらも隠す事は無いと判断し、自分がスラム出身である事を話し始める。


「……俺はスラム出身だ」


「……!マジか……あのスラムから?」


正直に言ってかなり悪名高いスラム。そこから来たのかと困惑するものの、一応敵ではないと判断し、大丈夫だと理解するのであった。


「あぁ。……彼女の事は内緒にする。俺と同じだからな。……それと、俺は少しだけでも協力するよ」


協力すると聞いた時、猫は昔、そう言って裏切られた記憶を思い出してしまう。元々彼女を買ったのも、失意の中自分と同じようだと判断したからであり、そこに感情はほとんどなかった。ただ条件反射のような形で行ったのだ。


「……ありがたいが……正直、俺は俺自身の力で彼女達の人権を取り戻したいんだ。……だからこそ、助けは欲しいが……それを俺は望まない」


「……そうか。……まぁ今度また来るよ。……俺はお前の味方だ。……それだけだ」


それを聞いた猫は、少しだけでも信用しようとしたものの、まだ信用できないと判断して、それでも気持ちだけでも受け取っておくことにしたのであった。


「……分かった。……その気持ちだけでも受け取っておくよ」


と犬との会話を終えたのか、ウキウキのテンションで帰ってくる憐。そして彼らは帰り道、どれほど彼女がヤバいのかを話していたのであった。


「いやー!ホント彼女はヤバいよマジで!いや本当に。……しかし、何で獣人があれほどの技術を手に入れられたんだろうな?」


「それは気になる。……しかし、それを今聞いても無駄だろうな。……まだ、俺らは彼女達に信頼されていないからね」


実際、今回協力しようとして駄目だったのだ、信用がまだない状態では何もできない。それを理解している雷は、ますます来月のトーナメントに向けて気合を入れなおすのであった。


「久々に目標って奴を発見したぜ……!犬に負けないくらいの機体を作る!よし俺は先に帰ってるわ!じゃあな!」


「……まぁ別に俺としては何も言わないけどよ……さて、どうするかなぁ……」


そして憐は一人で帰っていく。よほど嬉しかったのだろうか、足取り軽く、宙に浮くような気持ちで歩いていった。そんな雷であったが、不意に後ろから声を掛けられる。


「やぁ雷」


「うわびっくりした……何?」


いきなり変な奴が目の前に現れたので、驚くが、それでも普通に人間であることを理解すると話し始める。そいつの見た目に関してだが、雷は何かやたらと激しい髪の毛であったこと以外に何も頭に入らなかった。


「俺か?俺は『ディズ』。……さて、お前に一つ言っておきたいことがある」


「んだよ」


そう言う雷の近くによると、他の誰にも聞こえない声で話しかける。その声はどす黒く、明らかに敵意をむき出しにした声色であった。


「……調子に乗るんじゃぁねぇよ」


「はぁ。それで?」


雷は何を言っているんだとため息をつき、呆れた表情でそれを喋っていく。正直気味が悪かった。更にその男は雷を追い詰めるように喋っていく。


「そのお前の面、俺が剥いでやるからな……!」


「そう……」


呆れと馬鹿にしたような感情が入り混じる。よくわからない奴に絡まれ、よくわからない事を言われたのだ。頭がおかしい奴もいるもんだと判断すると、さっさと家に帰るのであった。そしてそれを言った男はと言うと、アパートの一室に入っていくのであった。


「何だよ今の……っと、早く帰らないとな」


雷は気味悪がりながらも帰っていった。そしてその男とはと言うと、アパートでキレ散らかしていた。一応相方にキレるようなことは無かったが、それでも隣の部屋に聞こえるほどの大きさで話していた。そんな彼を相方が嗜める。すると落ち着いたのであった。


「フン、あのガキ、何も反応をしなかった……」


「何しに行ったの」


「当然!俺の敵になる奴に宣戦布告って奴だ!」


「……ダサいですね。はい。そんな事する前に、金でも稼いで来いよ」


「うるせぇ!……今に見てろ。何が強敵狩の雷だ……!アイツの顔面を剥いで地獄を見せてやるよ!」


彼も、もちろん来月のトーナメントに入場することになる。相手としては不足なし、『十月とおつき外院げいん』と呼ばれる男であった。



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