第13話『VSジャック2』


雷の足にぶっ刺さった爪は、先ほどから雷の行動を阻害していた。まるで足枷のように刺さっているそれに、あからさまに苦戦しているようであった。連撃を食らわせているジャックであったが、雷はそれをひたすら捌いていた。しかし、次第に後ろに下がっていってしまう。


「さぁさぁさぁさぁ!」


「クソッ……さっきから足が痺れる……!」


そして壁にまで詰め寄られた雷めがけて爪が発射される。壁に刺さったそれは雷の動きを制限するには十分なものであったし、更にカッターのような物になっているので、触れば傷つくレベルの物ではなく、先ほどからスーツの腕部分には大量の切り傷が付けられていく。しかしここでジャックはこんな事を言い出す。


「おらおらさっさとリタイア宣言しろよ!じゃねぇとテメェの機体もろともぶっ壊してやるぜ!」


「……リタイア?」


雷は先ほど、こいつの勝者敗者理論に納得していたが、今の一言でこの男の全てに対して疑問を生じるレベルになってしまう。勝ち負けという物があるのなら、こいつはリタイアしろなどという訳がない。ハッキリ言っておかしいのだ。故に雷は今のでド冷静なった。頭はクールである。


「あぁ?死にたくねぇってんなら今すぐにしろよ!」


「……さっき、勝者がどうだの敗者がどうだの言ってたわりに……女々しいんだな、お前」


完全に見下すようにそのセリフを話していく。リタイアとのたまった直後に完全に見下した。勝ち負けだの言ってたわりにそんなことを言うのかという事だ。スラムの勝ち負けはただ一つ、生きるか死ぬか。それだけである。故に今、彼の精神はスラム時代に戻っていた。


「あぁ?!」


「結局俺一人殺せねぇヘタレって訳だ、……違うか?」


この煽りにジャックはブチ切れる。ただでさえ大振りな攻撃が更に大振りになる。隙も出来、明らかに誰が見ても分かる程弱体化していた。だからこそ、雷はこっそりとエネルギーをチャージしていた。


「……いいだろう……!そこまで言うんならお望み通りぶっ殺してやるよぉ!」


爪を雷の腹目掛けて突きつける。明らかに刺さっているが、雷はそれに動じない。たとえこの状況から心臓を貫かれようが、動じないだろう。先程の会話の中で、憐が言っていた通りこの男は格下であるから。そんな奴に負ける訳がないから。


「とっとと死にやがれやァ!」


「……」


腹にぶっ刺さった爪をぐりぐりと動かされ、更に出血する。しかしそれでも彼の感情は変わらない。そして遂に雷が待っていたエネルギーチャージが完了する。


「じゃあ、止めだぁ!」


ジャックが止めを刺そうとした瞬間。雷はその爪を地面に突き刺させ、彼の体を固定すると腹からある物を出す。それは先程、Jが使っていたあのライフルであり、ジャックの腹に対して突き刺さるようにセッティングされていた。


「……あばよ」


「ハッ!」


そしてジャックへとエネルギー弾を放ち、その一撃によってジャックは壁まで吹っ飛ぶ。気が付いた時にはもう遅かった。弾丸はジャックのスーツのほとんどを破壊し、しかし血反吐を吐きながら、なおも立ち上がるジャック。ナレーター達もこれには大興奮。


『おーっと!腹から出てきたのはあのライフル銃です!ジャック選手、吹っ飛んだぁーッ!』


『完全に防御していない時にあの一撃をモロに食らいましたからね……しかしイエローである以上、パーツが完全にぶっ壊れない限り戦いは継続されます。さてどうなるのでしょうか……』


しかしまだジャックが立ち上がっている以上、戦闘は続行される。だが二人共満身創痍。しかし精神的には雷の方が上。ただそれだけであった。腹から血を流している雷と、口から血を垂れ流しているジャック。完全にブチ切れるジャック。格下だと思っていた奴にここまでされたのだ、プライドが無駄に高い奴にはこれが一番効く。


「こ……のクソガキがぁ!」


「黙ってろ雑魚狩りのジャック」


ド畜生レベルの煽り。雷が彼の核心をつくように放った煽り。それはジャックの理性を潰すにはもってこいの一言であった。発狂したように雷に迫っていき、そして爪を雷の顔めがけて放つ。


「アアアアッ!」


その爪は腕の武装を使って防御するが、腕に刺さっている爪を見てなぜかジャックは勝利を確信する、その理由はただ一つ、毒を二倍も食らえば流石にもう動けなくなるだろうという事。そうでなくとも腕が固定されている以上、動けないと判断したのだ。


「勝ったぁ!」


「……悪いけど、それはおとりだ」


腕のパーツが雷の腕から外れる。雷は相手が接近すると見た時から、腕のパーツを根元で掴んでいただけであったのだ。そして逆に腕が使えなくなっていたのは自分自身である事に気が付いてしまうジャック。声を上げる暇もなく、顎を蹴られてしまう。


「……アッ!」


「……じゃあな!」


そして雷は地面を踏みしめると、そのまま顎目掛けて全力のパンチを放つ。顎は砕け、ジャックの体が宙に浮く。そしてそのまま頭を強く地面に打ち付けられてしまったジャックは、そのまま気絶してしまうのであった。


「オ……ッ!」


一分たったにも関わらず、ジャックは動かない。完全に気絶している。顎を割られているのだから当然と言えば当然であろう。雷も何とか出血からくる貧血に耐えていて、もう少しで倒れる寸前だった。


『……ジャック選手、立ちません!気絶しています!』


『これってどうなるんでしょうか……?』


女のナレーターがそう言うと、男のナレーターはこう告げる。


『イエローのルールは、パーツを全部破壊する事ですが、気絶してしまっては試合続行もありませんね。……つまりこれで決着です!あの雷選手の勝ちという訳です!』


勝利宣言をするナレーター。そして遂に雷は勝ったという事を理解する。貧血で倒れそうになっている体を、何とか動かしながら憐のいる観客席に向かうのであった。当然駆け寄る憐。そして試合中に持ってきた献血セットを雷に刺し、腹の穴を培養ナノマシンで埋めていく。かなり高いキットだが、今回の勝利には代えられない。


「……勝ったのか……」


「よぉ雷!やっぱ勝ったか……って何だそのスーツ!?」


治しているうちに、エレクトロのスーツがぶっ壊れている事に気が付く憐。見に来たのが雷の腹に爪がぶっ刺さっている時である為に、腹の部分が壊れている事はまだ把握していたが、まさかほとんど残っているパーツが無いとは考えてもいなかった。


「あぁ、これぶっ壊れちゃったんだよ。……うん。まぁ……必要な犠牲、コラテラル・ダメージという奴だ」


「コラテラル!?これ高いんだぞ!?いや勝ったのなら文句は言わねぇが……!パーツ足りねぇから使おうかと思ってたんだぞ……!」


「いや俺もここまでぶっ壊れるとは」


実は憐は足りないパーツをエレクトロのスーツから流用しようとしたのだが、ここまで派手にぶっ壊れてしまっては使うことも出来ない。つまりはどうしようもなくなってしまうという事でもあった。とは言え今回の勝利はそれがなければ勝てなかったのは事実。頭を抱えながらも勝ちを喜ぶのであった。


「まぁいい!とにかく今は表彰式に行って来い!」


「そうだな!」


そして優勝した雷は、堂々と表彰台に向かうのであった。ナレーター達も今回の戦いは驚きの連続であり、こんな地区では見られないような戦いにハイテンションになる。そして初戦闘であるにもかかわらず、雷は二つ名を付けられることとなった。


『いやー……凄かったですね』


『えぇ、雷選手ですか……名前を付けるならば、『ジャイアントキリングの雷』と呼ぶべきでしょうね』


雷はそれを正直ダサイと思った。それはまぁいいとして賞金を受けとる雷。ただ、今回の賞金は回復用に買ってきたアレと、機体を作る代金として使われることとなったが。


『成程……さて、これは一か月後に行われるトーナメントも楽しみですね!』


『はい。恐らく雷選手も出ると思いますよ。……正直私、個人的に応援したいですね』


『そうですね!では来月のトーナメントでまたお会いしましょう!ではまた!』


こうして戦いは終わった。雷は勝った事実をかみしめるように、憐の元に向かっていた。と一気に有名になった彼であるが、当然あのジャックを倒したという事実がある以上、強い奴らから目を付けられることとなる。彼らもその一人。ベッドに寝ている二人が雷の事を話し合っていた。


「へー……ジャイアントキリングの雷ねぇ……どう思うよキャド」


「どーでもいいっすよ、俺ちゃんはスーツさえ作れれば何でもーッ良いんですから」


「……そうか」


一蹴されたことに腹を立てそうになったが、まぁ正直一点物でない限りどうにでもなると判断したので、問題ないように考える。そしてもう一チーム、彼の事を気に書けていた奴らがいた。それは隠れ家のような場所で新聞を読んでいた。


「なぁ『ケン仔犬こいぬ』」


相方に対してそう言う彼は、トラのような髪の毛をしており、猫目と強烈に発達した犬歯が特徴であった。それはそうとしてその呼ばれた方の犬と言う奇天烈な名字をした彼女は、その少年に向かってなんだと聞く。


「何ですか『ビョウ鏡外きょうがい』さん?」


彼女であるが、見た目としてはやや大きな帽子を被り、黒い髪の毛で猫に対してかなりべたついていた。そして猫の方は彼女にこう答える。


「……今度こいつに会いに行ってみるか」


それは彼らにとって、気になるから行ってみようと思っていただけであり、特に何も考えていなかった。しかし、それは彼らの運命を変えるほどの物であったとだけ言っておこう。。


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